コロナの影響で売上が大きく落ち込んだ宿泊業界を支援するために、国のGoToトラベルキャンペーンがスタートしました。当初は東京都が除外されるなど多難な船出でしたが、東京都が加わった10月以降は利用客も大幅に増えて活況を呈しています。
「大いに助かっている」としてキャンペーンを歓迎するホテルや旅館も少なくない一方、GoToトラベルの地域共通クーポンを不正取得するのが目的と見られる無断キャンセルの例も確認されています。コロナで打撃を受けた宿泊業界を救うはずのキャンペーンでいったい何が起きているのか、以前から問題となっていた無断キャンセルについて取り上げてみました。
GoToキャンペーン全体の仕組みについては、以下の記事で詳しく解説しています。

GoToトラベルで無断キャンセルが続出
観光業界を中心として経済活性化の効果が出ていることから、GoToトラベルキャンペーンは当初の予定より期間が延長される見通しとなっています。全国各地のホテルや旅館にとっては歓迎すべき動きですが、スピード感を重視した急ごしらえの制度ゆえのトラブルも少なくありません。飲食店を対象としたGoToイートでも「トリキの錬金術」や「無限ループ」など、本来の趣旨に反する使われ方が問題とされてきました。


GoToトラベルでも似たような使い方を考える人が出てくるのは予想されるところですが、利用の手段として無断キャンセルが使われるのは穏やかでありません。実際に千葉県内のホテルでは5泊8名分の宿泊予約が無断でキャンセルされ、63万円分もの損害が生じてしまいました。予約客とは連絡が取れず、キャンセル料も支払ってもらえない状態となっています。
こうした無断キャンセルは以前から宿泊施設を悩ませてきましたが、今回はGoToトラベルの地域共通クーポン不正取得が目的と見られる点が特徴です。千葉県内のホテルを無断キャンセルしたこの予約客に対しても、すでに95,000円分のクーポンが発行されていました。
キャンセルに伴ってクーポンも無効になるはずですが、無断キャンセルが明らかとなった予約当日深夜の時点ですでに使われた形跡があります。まさに制度の盲点を突いた迷惑行為は他の地域でも相次いでいると見られ、GoToキャンペーンを推進する政府も対応に迫られているところです。
地域共通クーポンとは?
宿泊予約の無断キャンセルという最悪の形で不正取得の手段に使われた地域共通クーポンとは、旅行先の土産物店や飲食店などで使えるお得な割引制度です。観光施設や遊興施設・交通機関・コンビニ・スーパーなども地域共通クーポンの対象に含まれ、旅行代金の15%に相当する額が旅行業者や宿泊業者から配布されます。宿泊費などの旅行代金そのものが最大35%割引されるキャンペーンと合わせて適用すれば、旅行にかかる費用が半額になるという計算です。
地域共通クーポンには紙のクーポンと電子クーポンの2種類があって、Web予約で紙のクーポンをもらう場合は宿泊施設でチェックインの際に受け取ることになります。スマホの画面に表示されたQRコードを店舗のレジで読み込んで使用する電子クーポンを取得するには、予約確認メールに添付されたURLにアクセスして必要事項を入力する仕組みです。
電子クーポンは予約当日の午後3時以降であればチェックインの前に所得が可能で、予約した宿泊施設に到着する前の買い物や飲食・レジャーなどに利用できます。そうした便利さが悪用されて電子クーポンだけが先に使われ、宿泊施設にはチェックインせずに無断でキャンセルされる被害が出ているのです。
宿泊業界を悩ます無断キャンセル
このような無断キャンセルは今に始まった話ではなく、宿泊業界では以前から深刻な問題としてたびたび取り上げられてきました。レストランや居酒屋などの飲食店でもここ数年予約客の無断キャンセルが相次ぎ、悪質な予約キャンセルを繰り返していた男が偽計業務妨害で逮捕されています。

飲食店にしても宿泊施設にしても、無断でキャンセルで大きな損害が生じるのは言うまでもありません。予約を入れてあった席や部屋はキャンセルが明らかになるまで他の客に流用できず、団体客で人数が多ければ多いほど売上チャンスロスにつながってしまいます。
飲食店で予約が無断キャンセルされた場合には、用意した食材や料理を廃棄しなければならないケースも少なくありません。ホテルや旅館でも宿泊予約が入ると食事を用意する必要があるため、同様の廃棄ロスが発生します。
宿泊施設や飲食店で無断キャンセルがここ数年相次いでいるのは、インターネットを通じて予約する客が増えているのも一因です。宿泊予約サイトや飲食店予約サイトが充実したことで手続きが簡単になり、利用客が気軽に予約できるようになりました。
電話で予約を入れるよりも心理的ハードルが低いせいか、スケジュールがはっきり固まらないうちに「とりあえず予約しておこう」という人も少なくありません。後で参加人数や予算が固まってくると、他の店や宿泊施設に乗り換えようという話も出てきます。
その時点でキャンセルの連絡を入れれば損害も最低限で済みますが、うっかり連絡を忘れたり電話をするのが面倒だったりして、予約当日を迎えてしまうことになるのです。キャンセルの連絡が予約と同じく簡単にできる仕組みであれば、宿泊業界を悩ませてきた無断キャンセルも減る可能性があります。
無断キャンセルは違法?
宿泊予約サイトの普及が無断キャンセルの増加につながっているとしても、その目的がGoToトラベルの地域共通クーポン不正取得にあるとすればまた別の話です。クーポンを不正取得した人は最初から宿泊する気がなく、GoToトラベルの仕組みを悪用してクーポンだけを騙し取ろうとしていたものと見られます。
このような行為は刑法上の詐欺罪に該当する可能性があり、容疑が立件されれば10年以下の懲役刑が科せられる立派な犯罪です。飲食店の例ではある居酒屋チェーンに不満を持つ男が系列の複数店舗に予約を入れながらすべて無断でキャンセルし、偽計業務妨害罪で逮捕されるという事件がありました。これほど悪質なケースだと警察に被害届が出されることもあり得ますが、客商売だけにほとんどの店では被害に遭っても泣き寝入りしているのが現状です。
宿泊業界ではこうした無断キャンセルに対して飲食業界よりも厳しい姿勢を示し、キャンセル料を徴収しているホテルや旅館が増えています。詐欺罪や偽計業務妨害罪など刑法上の罪に問わない場合でも、民法の規定に基づいて損害賠償請求を求めた事例がありました。
GoToトラベルの地域共通クーポンを不正に取得しようとして宿泊施設を無断キャンセルした場合には、詐欺罪で懲役刑になるだけでなく高額の損害賠償を命じられる可能性も出てきます。宿泊施設側で泣き寝入りしているケースが多いからと言って調子に乗りすぎるとと、いずれは手痛いしっぺ返しを食らう羽目になるのです。
GoToトラベルの無断キャンセルまとめ
予想以上の盛り上がりを見せているGoToキャンペーンでも特にGoToイートでトラブルが目立っていますが、GoToトラベルでも似たような裏技的悪用の例が確認されてしまいました。地域共通クーポンを不正に取得するこの手法は、宿泊施設に甚大な被害を与えかねない無断キャンセルとセットの裏技です。不正取得しようとするクーポンの金額を増やそうとすればするほど予約人数を多くする必要があるだけに、宿泊施設が被る被害額も高額に及んでしまいます。
こうした無断キャンセルは宿泊業界や飲食業界でここ数年深刻な問題となっており、悪質と判断されたケースでは詐欺罪や偽計業務妨害罪で逮捕者を出した事例もありました。刑法上の罪には問われなくても損害賠償が命じられる場合はありますので、このような裏技のために無断キャンセルを行うのは厳に慎むべきです。
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