毎年恒例となっているユーキャン新語流行語大賞のノミネート30語が発表されましたが、2020年はコロナ関係のキーワードが半数以上を占める事態となっています。新型コロナウイルスの感染拡大というかつてない危機に振り回された1年の中で、去年まで使われていなかった新語や造語が数多く生み出されてきたのです。
従来から存在していながらコロナ禍で脚光を浴びるようになった言葉も含め、新語流行語大賞にノミネートされた30語の中から2020年を象徴するキーワードについてまとめてみました。「コロナ禍での働き方」「新しい生活様式」「炎上を招いた社会現象」「コロナに負けなかったヒット作」という4つのセクションに分け、今年の世相を表す言葉の意義をそれぞれ解説します。
コロナ禍での働き方
新型コロナウイルスに席巻された2020年は、仕事というもののあり方が問い直された1年でもありました。後述するテレワークの普及もその1つですが、営業自粛やイベント中止が相次いだ影響で深刻な経営危機に陥る企業や店舗が続出しています。
不特定多数の来客を受け入れる店舗や施設では感染防止の徹底が求められ、仕事がやりづらくなったという嘆きの声も少なくありません。新語流行語大賞にノミネートされた30語の中で、コロナ禍での働き方に関連したキーワードとして「クラスター」「エッセンシャルワーカー」「ウーバーイーツ」の3つを取り上げてみました。
クラスター
新型コロナウイルスの感染拡大が盛んに報じられるようになった2020年2月頃から、テレビや新聞・インターネットの報道では集団感染を意味する「クラスター」という言葉が頻出するようになりました。最初に発生した大きなクラスターは横浜港に寄港した豪華クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号の例で、以後も屋形船やライブハウス・スポーツジム・飲食店などでクラスター発生が相次ぎます。
同じく新語流行語大賞にノミネートされた「3密」の環境になりやすい施設や店舗・職場はクラスター発生リスクが高いだけに、運営する企業の側でも対策に迫られました。マスクの着用呼びかけや消毒・手洗いの徹底に加え、仕切板の導入や換気など、クラスターを防ぐ対策で余分な仕事が増えてしまったという困惑の声も聞かれます。
クラスター対策が加わったおかげで仕事の生産効率が下がったせいか、コロナによる影響が比較的小さかった業界でも業績が伸び悩む企業が増えている状況です。こうした状況は2021年も続くと見られ、クラスター防止に努めながら生産性も同時に維持していく工夫が求められています。
エッセンシャルワーカー
緊急事態宣言が発令された4月には多くの企業で社員のテレワーク実施に踏み切りましたが、在宅勤務が困難な業種では感染リスクにさらされながら仕事を続けなければなりませんでした。観光業やエンタメ業界・遊興業界などは不要不急の産業として営業自粛が求められた中、人々の生活や安全を守るのに欠かせない仕事をしている人たちが脚光を浴びたのが印象的です。
医療や介護の従事者、スーパーやドラッグストアの店員、ライフラインの維持に関わる職種など、エッセンシャルワーカーと呼ばれる人たちに感謝の気持ちを伝える行動の輪が広がりました。これまで光が当てられていなかった仕事の意義が再認識されるようになったという点は、コロナ禍における一筋の光明とも言える現象です。

ウーバーイーツ
人々が感染リスクを恐れて外出を控えるようになっては、来店客に大きく依存していた飲食店や小売店の売上激減も避けられません。コロナで打撃を受けた業種が多かった中で、巣ごもり需要を支えた宅配関連の業界は売上を伸ばしました。
ネット通販サイトと並んで業績を大きく伸ばしたのは、提携する飲食店の料理を注文客の自宅まで届けるウーバーイーツのサービスです。自転車やバイクで料理を届けるウーバーイーツ配達員の姿を街で見かける機会も増え、時代の最先端を行く仕事として脚光を浴びるようになりました。
飲食店で出前を行う従来のバイトと違って、あくまでも個人事業主として配達を請け負うウーバーイーツ配達員は特定の店に縛られない存在です。コロナの影響で仕事がなくなった芸人やフリーターの中にも、ウーバーイーツ配達員に転じる例が増えています。効率的に稼ごうとするあまり交通ルールを無視して自転車走行する配達員の姿も目撃されていますが、ギグワーカーという新しい働き方の可能性を示したという点では注目すべき存在です。

新しい生活様式
新型コロナウイルスは人と人との接触によって感染が広まってしまう厄介な病原体だけに、これまで当たり前だった生活のあり方が大きく見直される事態となっています。人が集まることで成り立っていた仕事や行事を行う際にも、人同士がなるべく接触しないで済むような形態に変えざるを得なくなりました。
そうした中からテレワークやオンライン飲み会・ステイホームなどの新しい生活様式が提唱されるようになり、Zoomに代表されるオンライン交流ツールが爆発的に普及してきています。そんな新しい生活様式を象徴するキーワードとして、「テレワーク/ワーケーション」「Zoom映え」「オンライン◯◯」「おうち時間/ステイホーム」をそれぞれ取り上げてみました。
テレワーク/ワーケーション
情報通信技術を駆使して場所の制約を受けずに仕事を行うテレワークは今年の新語ではなく、柔軟な働き方の一形態を示す言葉として以前から使われてはいました。実施するには企業の側で設備投資を行う必要もあるせいか普及度は今ひとつでしたが、皮肉にも新型コロナウイルスの感染拡大が普及の後押しをした面があります。

緊急事態宣言下では多くの企業がテレワークによる在宅勤務を推奨し、オフィス街からサラリーマンの姿が消えました。宣言解除後は従来どおりのオフィス勤務に戻ったという社員も少なくありませんが、テレワークの可能性が広く知れわたったことでさまざまな変化が生じています。テレワークが可能であれば働く場所に縛られる必要もなくなってくるだけに、仕事を変えずに感染リスクが低い地方への移住を検討し始めた人が増えているのです。

観光地で休暇を楽しみながらテレワークを利用して随時仕事を行うワーケーションも、新しい働き方の1つとして提唱されています。コロナ禍は1つの職場に固定されがちだった仕事のあり方を解体し、もっと自由で柔軟な働き方の可能性を示してくれたのです。

オンライン◯◯
新型コロナウイルスの感染が広がったことでさまざまなイベントや行事が中止に追い込まれましたが、有効な治療薬やワクチンが開発されて感染が落ち着くのはまだまだ先の話です。それまですべての行事やイベントを中止のままにしておくのでは、あまりにも犠牲が大きすぎます。
幸いにして今はインターネットやIT機器を駆使することで、遠く離れた相手と画面を通じた交流を行うことも十分に可能な世の中です。Zoomなどのテレビ会議システムを使ったオンラインでのやり取りが仕事以外でも活発に行われるようになり、「オンライン飲み会」「オンライン入社式」「オンライン公演」などさまざまな関連語が生み出されてきました。
お盆の時期には「オンライン帰省」や「オンライン墓参り」が話題となり、冠婚葬祭の分野でも「オンライン結婚式」「オンライン葬儀」が定着しつつあります。休校中には「オンライン授業」も実施されましたが、大学に入学後に一度も登校しないまま「オンライン講義」ばかり続いたという学生も少なくありません。テレビ番組でもこうしたオンラインの技術を駆使したリモート出演の例が相次ぎ、コロナ禍にあっても番組のクォリティを維持しようという苦心の跡が窺えます。
Zoom映え
このようなオンラインでのやり取りは2020年に始まったわけではなく、Skypeなどを使ったテレビ電話的な交流は以前から行われていました。コロナで世の中の様相が一変した中で一躍有名になったのが、Web会議システムの「Zoom」です。テレワークで多く利用されてきたZoomがコロナ禍を経て日常生活にも入り込み、「オンライン◯◯」の手段として急速に普及しました。
テレワークやオンライン飲み会などでZoomを頻繁に使うようになると、画面での映りを意識する人が増えるのも自然な成り行きです。在宅勤務の最中は外見に対して無頓着になりがちですが、会議などでZoomを使う段になれば自分の姿が相手に見られてしまいます。以前も「インスタ映え」が新語流行語大賞に選ばれたのを受け、新しい生活様式を象徴するキーワードとして「Zoom映え」がノミネートされたというわけです。
自宅にいながら離れた場所にいる人と画面を通じて交流できるのは便利な機能ですが、そうなると外出時と同じように絶えず外見に気を配っていなければならないという気苦労も生じます。自宅にいてもゆっくりくつろげなくなったという点で、新しい生活様式はストレスの種となり得る現象です。
おうち時間/ステイホーム
緊急事態宣言下においては感染拡大防止の観点から、「ステイホーム」が盛んに呼びかけられました。当時は芸能人やYouTuberの間でもステイホームが合言葉になっていたほどで、特にゴールデンウィーク中は呼びかけが一定の効果を発揮したものと見られます。呼びかけに応じて外出を控えた人が続出した影響で観光業界は大きな打撃を受けましたが、これを境に感染拡大が一段落したのは疑いようもありません。
外出を控える中でも自宅で過ごす時間を有意義なものにしようという動きが出てきて、「おうち時間」がトレンドワード入りしました。部屋の模様替えや料理・運動・自分磨きなど、普段は忙しくてなかなかできないでいた活動に取り組もうという動きです。この機会にスキルアップや資格取得のための勉強に勤しみ、仕事の充実に生かそうとした人も少なくありません。
最近はGoToキャンペーンが話題を集めるなど逆向きの動きが活発となってきていますが、いつまたステイホームが呼びかけられる事態に逆戻りするかわからない状況です。そんな場合でもおうち時間を充実させるコツをつかんでいれば、人生をより豊かに過ごすきっかけになり得ます。
炎上を招いた社会現象
新型コロナウイルスの流行に伴うさまざまな社会現象の中でも、世間の批判を招いた現象はどうしても強く印象に残りやすいものです。未曾有の危機に際しては国民を守るべき政府の対応に非難が集中しがちで、コロナ禍においても政府の迷走ぶりが際立つ結果となりました。
「アベノマスク」はそんな政府への非難を象徴する代表的なキーワードですが、何かと話題を集めた「GoToキャンペーン」でも不具合や不適切な利用が相次いでいます。「総合的、俯瞰的」と「自粛警察」「カゴパク」も含め、2020年の新語流行語大賞にノミネートされた中から炎上キーワードを取り上げてみました。
アベノマスク
全国一斉の休校要請や緊急事態宣言の発令、国民に一律支給された特別定額給付金など、コロナ禍を受けて政府は矢継ぎ早に対策を打ち出してきました。そうした中で国民の不満が集中したのは、全世帯に2枚ずつ配られた布マスクの一件です。
当時はマスクの転売が禁止されるほどマスク不足が深刻で、ドラッグストアの店頭からも商品が姿を消す異例の状況にありました。布マスクなら洗えば何度でも再利用できるとして全世帯への配布が決まったわけですが、この政策が裏目に出てしまったのは周知の通りです。
有効性をアピールしようとして当時の安倍首相自ら着用した布マスクが小さすぎたため、「アベノマスク」と呼ばれて揶揄の対象にされてしまいました。それでも頑なに布マスクを着用し続けた安倍首相の姿は痛々しいほどで、8月の辞意表明もコロナ対応による過度のストレスから持病が悪化した結果と見られます。

総合的、俯瞰的
安倍首相の辞意表明を受けて9月にはポスト安倍へと関心が移りましたが、自民党総裁選では主要派閥の支持を受けた菅義偉氏が圧勝しました。秋田の農家に生まれて苦労しながら政治家となった菅氏の出自が話題を集め、前例主義の打破や携帯料金値下げなどの改革路線にも一定の支持が集まっています。自民党が下野していた8年前に菅氏の出版した『政治家の覚悟』という本がにわかに脚光を浴び、一時は中古価格が10万円にまで高騰したのも象徴的な出来事です。

政権発足当初の内閣支持率も高水準でしたが、順調な船出に見えた菅政権も学術会議の任命拒否問題でつまずいてしまいました。『政治家の覚悟』では官僚支配からの脱却が主張されていましたが、いざ総理大臣に就任すると国会答弁で官僚の用意した作文を淡々と読み上げる姿が野党の批判を浴びている状況です。
任命拒否の理由として首相が連発した「総合的、俯瞰的」という文言は、今回の新語流行語大賞ノミネート30語の中にも入っています。このような硬い印象の文言がノミネートされるのは異例とも言えるだけに、任命拒否の説明に多くの国民が納得していない証拠です。
GoToキャンペーン
コロナ対策の一環として政府が打ち出した「GoToキャンペーン」の経済政策も、好悪入り乱れてさまざまな話題を提供してきました。GoToキャンペーンに関しては当ブログでも何度か取り上げていますが、4つに分かれるキャンペーンの中で最もトラブルが多かったのはGoToイートです。

GoToイートはコロナで打撃を受けた飲食店を支援するためのキャンペーンでありながら、急ごしらえの制度ゆえの不備が原因で来店客側が不当な利益を得るのに利用されてしまいました。飲食代を上回るポイント付与を狙った「トリキの錬金術」に始まり、2回目以降は実質無料で飲食し続けられるという「無限ループ」の手法もSNSを通じて広がっています。

似たような例は旅行業界を支援するためのGoToトラベルでも起きており、地域共通クーポンの不正取得を目的とした宿泊施設の無断キャンセルが相次いでいる状況です。無断キャンセルは宿泊業だけでなく、飲食店でも以前から深刻な問題となっていました。

こうした不適切な利用も見られるとは言え、GoToトラベルとGoToイートは当初の予想より経済の活性化に役立っています。遅れてスタートしたGoTo商店街では今のところ目立ったトラブルは発生していませんが、今後スタートするGoToイベントと合わせて経済効果が注目されるところです。

自粛警察
百年に一度とも言われるパンデミックの渦中にあっては、人々の心が不安定になりがちなのも無理はありません。慣れない事柄が多すぎて頭が混乱してくると、他人の行動にも必要以上に神経を尖らせてしまいます。
コロナへの感染を恐れるあまり、マスク着用や自粛要請に従わない人に対して攻撃的な言動を取ってしまうのもそうした人間心理のなせる業です。特に日本人は狭い島国で互いに助け合いながら暮らしてきた長い歴史を持つだけに、法律を超えて互いを縛り合う規律のような概念が存在します。暗黙の了解となっているようなこの規律に従わない人物がいれば、共同体から排除しようと容赦ない攻撃を加えてきた伝統があるのです。
日本特有とも言えるこうしたムラ社会の同調圧力は、スマホやオンラインツールを駆使した21世紀の現代にも根強く生きています。マスクを着用しない人に罵声や暴力を浴びせたり、自粛要請に従わない店に脅迫めいた張り紙をしたりする行為はその典型です。
そうした行為に走る人は「自粛警察」と呼ばれ、日本人の閉鎖的な気質を象徴する現象として取り上げられてきました。他県ナンバーの車が傷つけられたりあおり運転を受けたりするまでに行為がエスカレートしたのでは、自粛警察も立派な犯罪です。
カゴパク
新型コロナウイルスの流行とは別に、7月に全国の小売店舗でレジ袋の有料化が義務付けられた件も大きな話題となりました。これまでは会計の際に無料で提供されていたレジ袋が、以後は1枚数円程度でも代金が必要になっています。少しでも出費を節約しようとしてエコバッグを持参する人が増え、人々の買物行動が大きく変化しつつある状況です。
そんな中で新たにトレンド入りした「カゴパク」とは、店内での買い物用のカゴをレジ袋代わりに持ち去る行為を意味します。店内備品扱いとなっているカゴも1個あたり数百円ほどで仕入れている品だけに、カゴパクが頻発しては店側にとっては痛いコスト増です。
来店客用のカゴが足りなくなれば、経費をかけて追加購入に踏み切らざるを得ません。たとえ数百円相当でも店内備品を勝手に持ち去るのは窃盗に当たる行為ですが、常連客が軽い気持ち持ち帰っている例も少なくないと見られます。強い態度には出にくい小売店の体力をじわじわと奪うカゴパク行為に対しては、何らかの根本的な対策が必要です。
コロナに負けなかったヒット作
何かと暗い話題が多かった2020年にも、気が滅入りがちな世相を吹き飛ばすような話題はありました。テレビドラマやアニメ・ゲームのヒット作はコロナで傷ついた人々の心を勇気づけ、明日への活力を取り戻すのに大きく貢献しています。
新語流行語大賞にはそんなヒット作から生まれたキーワードとして、「顔芸/恩返し」「鬼滅の刃」「あつ森」がノミネートされました。ノミネート語を生んだTBSドラマの「半沢直樹」とアニメ「鬼滅の刃」、そして人気ゲームの「あつまれどうぶつの森」について、コロナ禍における意義を振り返ってみます。
顔芸/恩返し
4月に緊急事態宣言が発令された前後にはテレビ局でも混乱が生じ、感染拡大を防ぐためにドラマの撮影が延期される事態となりました。連続ドラマの新作が画面から姿を消し、過去の名作ドラマの再放送で埋め尽くされたのもこの時期の話です。
前シリーズで記録的な高視聴率をマークしたTBSドラマ「半沢直樹」の続編も4月からの放送開始が予定されていましたが、撮影ができなくなったために放送延期を余儀なくされました。撮影が再開された後に視聴者の期待感が高まったところで7月から放送が始まると、娯楽に飢えていた視聴者の熱狂的な支持を集めて高視聴率を次々に叩き出していきます。現代のドラマと時代劇や歌舞伎を融合させたような過剰気味の演出も人気を呼び、ドラマの中から数々の名セリフが生み出されました。
そうした中で新語流行語大賞にノミネートされた「半沢直樹」関連のキーワードは、「顔芸」と「恩返し」という2つの言葉です。半沢直樹と言えば主人公の決めゼリフ「倍返し」があまりにも有名ですが、今回ノミネートされた2つのキーワードはいずれも敵役の大和田を演じた歌舞伎役者の香川照之さんに由来します。
ドラマ版「半沢直樹」続編は池井戸潤氏の小説『ロスジェネの逆襲』『銀翼のイカロス』が原作でありながら、香川照之さん演じる大和田は原作に登場しません。そのへんが原作とドラマの違うところで、ドラマ版では大和田が重要な役割を演じるようにストーリーが改変されています。
基本的には主人公の半沢直樹と対立する憎き敵役でありながら、時には心を鬼にして半沢と共闘する大和田の存在がドラマを大いに盛り上げてくれたのは間違いありません。今シリーズ最大の功労者でMVPにも値する活躍を見せた大和田=香川照之さんの名演技から、歌舞伎役者ならではの「顔芸」が新語流行語大賞にもノミネートされたのも納得の結果です。
ドラマを毎回盛り上げてくれた顔芸とともに、半沢直樹の決めゼリフをもじった大和田の「恩返し」も同時にノミネートされました。いささか時代がかった演技がこれほど熱狂的に受け入れられたのも、コロナ禍で楽しみを奪われた人々の鬱憤を晴らすのに格好の材料を提供してくれたからだと考えられます。

鬼滅の刃
日本が世界に誇るアニメの分野からは過去にも数々のヒット作品が生み出されてきましたが、コロナ禍はそんなアニメ業界にも暗い影を落としていました。アニメ制作の現場は3密環境を避けるのが難しい面があって、緊急事態宣言の前後にはテレビでも新作アニメの放送が途絶えがちになっていたのです。外出を控える動きが広がって映画館の売上も大きく落ち込む中では、アニメ映画からもヒット作が生まれにくいと見られていました。
そんな状況を吹き飛ばし、空前の大ヒットを記録したのが劇場版「鬼滅の刃」です。すでにテレビで放送された連続アニメ版が大人気となり、原作漫画も売れに売れていた取っておきの素材だけに、劇場版の大ヒットも当然の結果と言えます。
「鬼滅の刃」は関連グッズも飛ぶように売れるほど社会現象を巻き起こしていますが、今が稼ぎ時とばかりに海賊盤DVDや偽グッズが出回っているのは残念な現象です。著作権法違反で逮捕者も出るほど人気が加熱しているとは言え、「鬼滅の刃」はコロナで冷え込んだ日本経済をよみがえらせるパワーを秘めています。

あつ森
コロナの影響で業績を落とした業界が多かった中、宅配関連と並んでコロナ特需の様相を呈していたのがゲーム業界です。ステイホームの呼びかけに応じた巣ごもり需要と歩調を合わせるようにして、3月に発売された任天堂ゲーム「あつまれ どうぶつの森」が大ヒットを記録しました。
「どうぶつの森」シリーズはこれまでにも人気を集めてきましたが、今シリーズほど大人も巻き込んで大きな話題となった例はなかったはずです。今シリーズは初めて無人島を舞台としている点が特徴で、ゲーム内で島に移住しながら一から生活を始めることになります。感染拡大で旅行が難しくなった中、ゲームのバーチャル空間を通じて無人島生活の非日常を楽しめるのが人気の一因です。
ゲーム内では魚や虫・貝殻・果物などを拾ってきて店に売り、お金に換えられるという仕組みもあります。当ブログではビーチコーミングや石・流木・木の実などリアル「あつ森」とも言えるお金の稼ぎ方について取り上げていますので、興味のある方は一読を。


2020年の世相まとめ
以上、新語流行語大賞にノミネートされたキーワードを足がかりに波乱の1年を駆け足で振り返ってきましたが、2020年という年が歴史の大きな転換点として長く語り継がれるのは間違いありません。この記事で取り上げたようなキーワードに基づいて2020年の世相を理解すれば、これから生まれてくる世代に対して歴史の証人として貴重な証言を残せるようになるはずです。
ノミネートされなかった言葉の中でも、「緊急事態宣言」や「持続化給付金」などは2020年を象徴するキーワードとして忘れられません。ノミネート30語の中で今回の記事に取り上げなかった「アマビエ」「PCR検査」「ソーシャルディスタンス」「濃厚接触者」も、歴史の証言に欠かせない重要なキーワードです。このような1年はこれから先もめったにないと見られるだけに、新しく登場した言葉の数々を今のうちに頭の中で整理しておくといいでしょう。
