空前の大ヒットとなっている人気アニメ「鬼滅の刃」で、海賊盤のDVDや偽グッズがインターネットを中心に出回っています。海賊盤DVDや偽グッズを販売した人が逮捕された事例も相次いでいるほどに、国民的人気を得た「鬼滅の刃」が金儲けの道具にされているのは憂うべき状況です。
著作権侵害の弊害は今に始まった問題ではありませんが、こうした事例が増えてきている背景には転売でお金を効率よく稼げるよになった仕組みがあります。海賊盤DVDや偽グッズを販売する行為が違法になる理由について、著作権法の観点から基本情報をまとめてみました。
「鬼滅の刃」海賊盤・偽グッズで逮捕者相次ぐ
劇場版の興行収入が史上最短で100億円に達するほど人気が加熱している「鬼滅の刃」で、ブームに便乗した悪質な行為が目に余るようになってきています。10月にはインターネットを通じて「鬼滅の刃」の海賊盤DVDを販売したとして、福岡県在住の会社員が著作権法違反の容疑で茨城県警に逮捕されました。TVアニメ版の「鬼滅の刃」全話シリーズ3枚組の海賊盤DVDを、茨城県内の女性2人に販売したという容疑です。
大手ショッピングサイトを通じて販売されたというこのDVDは、アニメ配給会社のアニプレックスから許可を得ていない非合法の製品でした。容疑者は海賊盤DVDを自分で制作したわけではなく、マレーシアから航空便で輸入したものと見られています。
本人は正規品だと思って販売したように供述して容疑を一部否認していますが、正規品だと6万円以上する品を9700円という異常に安い価格で販売していました。このような品が正規品のはずはないだけに、今後は容疑者が違法性をどこまで認識していたのかどうかが捜査の焦点となりそうです。
「鬼滅の刃」からはフィギュアやキーホルダー・バッグなど、さまざまな関連グッズが発売されて人気を集めています。一方では「鬼滅の刃」の偽フィギュアなど正規品でない商品も出回っているため、購入の際には著作権者の許可を得て作られた品かどうかの確認が必要です。
9月には「鬼滅の刃」の偽フィギュアをインターネットで販売した容疑で、京都府警と兵庫県警・秋田県警が計8人を逮捕するという一斉摘発の事例がありました。アニプレックスの許可を得ずに作られた「鬼滅の刃」キャラクターのフィギュアをネットオークションなどに出品し、第三者に販売して収益を得た容疑です。海外の通販サイトで購入した精巧な偽物を転売したケースもあると見られ、どのような経路で入手された商品なのかが注目されます。
海賊盤や偽グッズが違法になる理由
正規のルートで製作・流通されたものではない海賊盤のDVDや偽グッズを販売するのは、言うまでもなく著作権法に反する違法行為です。著作権は必ずしも本の著作だけが対象なのではなく、音楽作品や映画・アニメからアート作品・テレビ番組に至るまで幅広い表現が対象に含まれます。
それらの著作権物を複製する際には著作権者の許可を得る必要がありますが、個人が私的使用の範囲内で複製する限りであれば許可を得なくても著作権法違反になりません。アニメ作品の海賊盤DVDを販売したり、キャラクターを使った偽フィギュアを販売したりするのは私的使用を超える行為です。著作権者の許可を得ずに複製したそれらの品を第三者に譲り渡し、その対価として金銭的利益を得た時点で著作権法に違反することになります。
劇場版「鬼滅の刃」の例で言えば、たとえ私的使用が目的でも有料で上映された映画の画面を盗撮するのは著作権法に違反する行為です。著作権を侵害する動画がYouTubeなどに投稿された場合は、動画をアップロードした人だけでなくダウンロードした人も罰則の対象とされてしまいます。
著作権を持つ作者に無断で漫画を公開していた海賊盤サイトも以前から問題とされ、著作権法が改正されるきっかけとなりました。現在では映像作品や音楽作品だけでなく漫画や小説などの作品も、海賊盤をダウンロードしただけで違法と判断されます。
ブランド品やキャラクター商品などのジャンルでは以前から偽物が多く出回っていますが、著作権者の許可を得ずに製作されたグッズも違法性という点では海賊盤と変わりありません。私的使用の範囲内であれば著作権物の複製も大目に見られるのと比べ、複製された偽グッズを販売して収益を得るのは完全な違法行為です。
いずれのケースでも他人が作り出した著作物の人気に便乗した商品の販売で収益を得ながら、著作権者には1円も支払われていないという点で共通します。著作権を持つ人や法人の許可を得て販売しようとする場合には、一定の著作権料を支払った上で販売しなければなりません。そうやって著作権者の持つ権利が保護されているからこそ、漫画やアニメ・映画・小説などの表現活動に従事する人たちも安心して仕事ができるというわけです。
正規品は割高?
日本には以上のような著作権法があるおかげで表現活動が職業として成り立っているとも言えますが、それらの人たちに支払われる著作権料の額が妥当かどうかという点については意見が分かれます。古本や中古DVDなどが根強い人気を集めているのも、新品で買うより大幅に安く購入できるからというのが最大の理由です。
リサイクルショップなどでそうした中古品を仕入れてAmazonやヤフオク!・メルカリ等で販売し、差額で儲けるせどりの手法も確立されています。せどりや転売が副業の手段として広く普及しているのは、著作権料が含まれた正規品の価格を割高だと感じてる人が少なくない証拠です。新刊や新品で購入しようと思えば著作権料を全額支払わなければなりませんが、中古価格なら一部で済みます。それらの品をリサイクルショップなどに売却した人にしてみれば、購入時に支払った著作権料の一部を買取で回収した形です。
中古市場ではそうやって著作権料が分割されながら売り買いされている現状があるだけに、「いっそのこと著作権料をゼロにして丸々儲けよう」という輩も出てきます。海賊盤DVDや偽グッズであれば最初から著作権料を支払う必要がないため、正規品と比べてはるかに安い価格での販売が可能です。正規品を割高だと感じている人はそうした非正規の商品に飛びつきやすく、ネットオークションなどを利用すれば著作権者に知られることなく個人対個人で取引が完了します。
「鬼滅の刃」のDVDや関連グッズは正規品であっても飛ぶように売れていますが、それは人気作品ゆえに著作権料も妥当だと感じている人が多い証拠です。そんな作品ですら海賊盤や偽グッズが裏で取引されるようになっては、作品を生み出すクリエーターの生活が成り立たなくなってしまいます。正規品を割高だと感じている人が少なくないのは事実ですが、著作権料は表現活動に従事する人たちの生活を守るために欠かせないお金なのです。
転売の副業では著作権に要注意
「鬼滅の刃」の海賊盤DVDや偽グッズを販売して逮捕された人の中には、以前から転売で稼いでいた人も少なくないと見られます。安く仕入れて高く売るコツがわかれば高収入も実現可能なだけに、転売は効率的に稼げる副業の代表格です。
特に人気アニメやゲームソフト・キャラクター商品などは限定品も多く、関連グッズも含めて多種多様な商品が転売に利用されています。漫画や書籍・DVD・音楽CD・ゲームなどを転売する際には正規品だけを扱い、著作権を侵害する商品でないという点をしっかりと確認してから出品するのが基本中の基本です。
出品した商品が万が一海賊盤だったり偽グッズだったりした場合は、「知らなかった」では済まされません。著作権料が支払われていない非正規品を販売してしまった場合には、たとえ知らなかったとしても著作権法違反に問われて逮捕される可能性があります。
どれだけ巧妙に作られていても、著作権法に違反する商品は正規品と異なる点がどこかに存在するはずです。正規品とパッケージが微妙に違っていたり、製造元が記載されていなかったりと、何らかの点で怪しいと感じた品は販売しないでおいた方がいいでしょう。副業でせどりや転売を始めようという人は、著作権に関して人並み以上の知識を持つ必要があるのです。
まとめ
人気アニメの「鬼滅の刃」海賊盤DVDや偽グッズがインターネットを通じて取引されている中、著作権法違反で逮捕される事例が相次いでいます。社会現象を巻き起こすほど人気が加熱しているアニメだけに、警察も厳しい姿勢で摘発に乗り出しているのです。
こうした非正規品は著作権料を支払っていないのが共通点ですが、著作権料込みの正規品は価格が割高だと感じている人も少なくありません。だからこそ価格が下がった中古品にも需要があるとは言え、海賊盤や偽グッズが横行するようになってはクリエーターの生活が成り立たなくなってしまいます。
それらの非正規品は一度でも著作権料が支払われた中古品とは次元が異なる違法な商品だけに、たとえ知らなかったとしても第三者に転売した場合は著作権法違反で逮捕されかねません。そうならないためにも転売を副業にする場合には著作権を常に意識し、正規品と非正規品を見分ける目を養う必要があります。