近年のブームを受けて、登山人口はシニア層や若い女性にまで広がりを見せています。テレビでも登山やトレッキングをテーマにした番組が人気を呼んでいますが、そんな番組でタレントやレポーターを案内するのが山岳ガイドと呼ばれる人たちです。
テレビに出演している有名なガイドも、普段は一般の登山客を案内する仕事に従事しています。「自分もあんな仕事はしてみたい」と思っている人も少なくないはずです。
山岳ガイドの仕事をするのに資格は必要なのかどうか、名前が似た登山ガイドとの違いを含めて基本情報を整理してみました。山岳ガイドとして活動している人の中には、副業や兼業で依頼を受けている例が多く見られます。山岳ガイドの気になる収入事情についても、記事の後半で詳しく解説しておきました。
山岳ガイドになるには資格が必要?
山岳ガイドは登山客を案内するだけでなく、さまざまな危険を予測しながら安全を確保する大切な任務を帯びています。仕事をするのに資格が必要のように思いがちですが、資格がない人でもガイドの仕事をできないことはありません。
山岳ガイドという名称の資格も存在しますが、これは日本山岳ガイド協会が認定する民間資格です。医師や看護師・保育士などの国家資格と違って、業務独占や名称独占に関する法律上の規定はありません。誰でもその気になれば山岳ガイドを名乗れることは可能ですが、名乗るからにはガイドの仕事を得るという目的があるはずです。
山岳ガイドを名乗る人の多くは、ガイド業の対価として一定の報酬を得ています。山岳ガイドの名称が収入に結びつかなければ、名乗っても意味がありません。
山岳ガイドは登山客の命を預かる大切な役目だけに、何よりも信頼性が重視されます。お金を出してガイドを雇おうとする人にとっても、信頼できるかどうかわからない人にはガイドを依頼しないのが普通です。そんな場合に資格を持っていれば、登山のプロとして信頼の証になります。
山岳ガイドの資格
山岳ガイドは日本山岳ガイド協会が認定している6種類の資格の1つで、海外を含めた山岳コースを対象とする国際山岳ガイドの資格もあります。日本国内の山岳や岩稜コースを対象とする山岳ガイドにはステージⅠとステージⅡの2種類があって、それぞれの違いは以下の通りです。
山岳ガイドステージⅠ
通通年の国内山岳と縦走路のある岩稜コース。国内にて一年を通して登山ルートのガイド行為を行うことができる。但し、岩壁登攀、雪稜バリエーション、積雪期の岩稜バリエーション、フリークライミング講習は不可。山岳ガイドステージⅡ
日本国内で季節を問わず全ての山岳ガイドおよびインストラクター行為を行うことができる。
但し、スキーガイド分野は別に資格を取得する。出典:資格取得(公益社団法人日本山岳ガイド協会)
いずれのガイド業も登山客の命を預かるも同然の重要な任務を帯びることから、国家資格への格上げが検討されている最中です。近い将来には山岳ガイドが名称独占または業務独占資格となり、有資格者以外の人によるガイド行為が禁止される可能性もあります。
山岳ガイドと登山ガイドの違い
登山ガイドは山岳ガイドと名称がよく似ているせいか、両方を同じ意味で使用している例も少なくありません。フリー百科事典のウィキペディアでも、登山ガイドは以下のように定義されています。
登山ガイドは山岳ガイドなどとも呼ばれ、地方自治体または登山・山岳ガイド協会によって認定された、特別に訓練された経験豊富なプロの登山家である。
出典:登山ガイド(Wikipedia)
資格を認定している日本山岳ガイド協会では、両者を明確に区別しています。登山ガイドは整備された登山道が案内の対象となっているのに対して、山岳ガイドは岩稜コースや沢登りのように道なき道も案内の対象です。
登山ガイドは一般的な登山道から外れない範囲でしか案内ができませんが、山岳ガイドはロープを使って登るようなコースも含めた幅広い範囲で案内ができます。登山ガイドより受注できる仕事の幅が広いため、より多くの依頼を獲得できる可能性があるというわけです。
山岳ガイドの資格取得に必要な費用
ここからは山岳ガイドとお金との関係について解説していきます。まずは資格を取得するために必要な費用から見ていきましょう。
日本山岳ガイド協会の実施している資格検定試験には一次試験と二次試験があって、かかる費用は資格の種類によって異なります。山岳ガイドステージⅠの一次試験で必要な費用は以下の通りです。
- 書類審査料 5,000円
- 体力・適性試験料 30,000円
- 筆記試験料 20,000円
他の資格で一次試験に合格していれば共通科目が免除されるため、筆記試験料は15,000円です。一次試験に通過したら二次試験に進み、無積雪期と積雪期・残雪期の講習・検定をそれぞれ受けることになります。
無積雪期の講習は2回に分けて実施され、1回目は4泊5日、2回目は3泊4日です。他の講習と検定も3泊4日を要し、免除の対象者以外は雪崩対策技術検定にも3泊4日の日程が組まれます。4泊5日の講習で必要な検定試験料は85,000円で、3泊4日の試験料はそれぞれ70,000円です。
いずれも山岳地帯にある指定の宿泊施設を使用して講習や検定が実施されるため、費用はどうしても高額になってきます。合計すると一次試験で50,000円(共通科目が免除された場合は45,000円)、二次試験で295,000円から365,000円ほどかかる計算です。
この他にもスキーガイドのステージⅠかステージⅡ(厳冬期と残雪期の2種類)の選択科目があって、それぞれ60,000円から100,000円の検定試験料がかかります。山岳ガイドに欠かせない応急・救命処置の知識を学ぶためのファーストエイド講習会も受講が義務づけられていて、45,000円の講習費用が加算される仕組みです。
以上を全部合わせると、山岳ガイドステージⅠの資格を取得するのに50万円以上の費用が必要になってきます。ステージⅠの有資格者を対象とした上位資格のステージⅡは一次試験が書類審査だけで済みますが、二次試験はステージⅠと同様の講習・検定にクライミング講習・検定も加わります。
運転免許などと同じように、山岳ガイドの資格も3年ごとに更新の手続きが必要です。更新の費用は運転免許より高額で、宿泊費や交通費を合わせると1回あたり10万円程度はかかります。
ちなみに登山ガイドの資格にはステージⅠからⅢまでの3種類があって、ステージⅠの資格取得にかかる費用は合計で14万円ほどです。山岳ガイドよりはだいぶ安く済みますので、予算を考えた上で検討してみるといいでしょう。
山岳ガイドの年収はどれくらい?
山岳ガイドの年収について情報を調べてみましたが、信頼できるデータは見つかりませんでした。山岳ガイドはフリーランスとして活動している人が多く、一般の会社員のように平均年収を計算するのが難しいようです。
有名な山岳ガイドになると1,000万円以上の高年収を稼ぐ人もいるという話ですが、会社員の平均を上回る年収を稼いでいるガイドは一握りに過ぎないと見られます。
山岳ガイドを雇った場合に支払われる報酬は、1日あたり3万円程度が平均的な相場です。フリーの立場でガイドの仕事を月に10回引き受けたとすると、月収は30万円ほど稼げる計算となります。
実際には天候などの関係で仕事がなくなる場合も珍しくないだけに、山岳ガイドは収入が不安定な職業です。夏場に比べて冬場はどうしてもガイドの依頼が減ってしまうため、1年の間でも稼げる季節と稼げる季節で差が出てきます。会社員の平均年収を450万円とすると、1日3万円の報酬で同じ収入を稼ぐには150回の仕事依頼が必要です。
副業や兼業の山岳ガイドが多い理由
山岳ガイドの仕事に専念して生計を成り立たせるには、少なくとも年間100回以上の仕事依頼を獲得する必要があります。生活費を切り詰めればそれ以下でも暮らしていけないことはありませんが、山岳ガイドは何かとお金のかかる仕事です。登山客の案内で山に登るのに必要な自分自身の装備も、フリーの立場だとすべて自分で用立てることになります。
山岳ガイド一本で生活していくのはなかなか難しいとあって、ほとんどの人は兼業や副業のスタイルで依頼を受けているのが現状です。旅行会社や山小屋などで働きながら山岳ガイドの仕事をしている人もいれば、農業や店舗経営の傍らで依頼があればガイドの役目を引き受けている人もいます。
その気になれば一般の会社員でも土日を利用することで、山岳ガイドを副業にできないことはありません。体力を使う仕事なので本業に支障のない範囲で働く必要はありますが、自然と触れ合いながら登山客との交流も楽しめる点でやりがいのある仕事です。
まとめ
山岳ガイドには民間資格も存在しますが、資格がなければガイドの仕事ができないというわけではありません。資格を持っていた方が依頼を獲得するのに有利なため、ガイドを志す人の多くは費用をかけて資格を取得しています。山岳ガイドステージⅠの資格取得に50万円以上かかり、3年ごとの更新にも10万円ほど必要です。
名称が似ている登山ガイドは整備された登山道が対象で、山岳ガイドは岩稜や沢登りなども含めた幅広いコースが対象となってきます。登山ガイドの方が資格取得にかかる費用負担が軽く、山岳ガイドと比べて3分の1以下の予算で済みます。資格を取得する際には、そのへんも考慮に入れた上で検討してみるといいでしょう。