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マルクス『資本論』が再評価されている理由とは?名著の概要を解説

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マルクスの『資本論』はかつて「社会主義者のバイブル」と呼ばれる一方で、経済学を学ぶ学生にとって必読の書とされていました。社会主義が時代遅れの思想と言われるようになった中では、今さら『資本論』を読むのは意味がないと思いがちです。

非正規雇用の拡大やコロナ不況を背景に、今になって『資本論』を再評価する動きが広がっています。『資本論』は資本主義の仕組みや商品の価格が決まる法則について解説された経済学の古典的名著だけに、出版から150年以上経った今もなお読まれるべき価値を持った1冊です。

とは言え文庫版だと9冊にもなる大著で内容も難解だけに、誰もが気軽に読める本ではありません。取っつきにくいイメージのある『資本論』のあらすじを紹介するとともに、重要なポイントについてもまとめてみました。『資本論』に興味は持ちながら読む暇がないという人でも、この記事を読めば大まかな内容を把握できるようになります。

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『資本論』とは?

19世紀ドイツ出身の経済学者カール・マルクスが著した『資本論』は、資本主義の仕組みを解き明かした古典的な名著として長く読み継がれてきました。『資本論』の第1部が出版されたのは、今から150年以上も前の1867年にさかのぼります。

著者のマルクスはフランスのパリやベルギーのブリュッセル、イギリスのロンドンなど各地を転々としながら、共産主義の思想を掲げた革命家として活動を続けた人物です。志を同じくする友人・エンゲルスとの共著『共産党宣言』も有名ですが、マルクスは『資本論』をライフワークとして死の直前まで取り組んできました。全3部のうちマルクスの生前に刊行されたのは第1部だけで、第2部と第3部はマルクスの死後にエンゲルスが遺稿を編集した上で出版した部分です。

『資本論』はマルクスが1859年に出版した『経済学批判』を発展させる形で草稿が書き継がれ、49歳の1867年に第1部の刊行にこぎつけた労作です。これ以後もマルクスは貧困の中で『資本論』の執筆に取り組みましたが、第2部以降の出版が叶わないまま1883年に64歳でこの世を去りました。マルクスが残した膨大な遺稿を編集・清書したエンゲルスの献身的な努力がなければ、『資本論』の第2部と第3部が公になることもなかったところです。

これまでに数多くの訳者が『資本論』の日本語訳を出版してきましたが、筆者がかつて読破した大月書店のハードカバー版は5分冊で合計3,000ページ以上にも達する大冊でした。同じ大月書店の国民文庫版『資本論』は全9冊に及び、経済学部の学生でも読み通すのはなかなか大変です。それでも「読んでみたい」という人は、岩波文庫版より読みやすいと評価されている国民文庫版をおすすめします。

Bitly

『資本論』の概要

19世紀に出版された経済学書だけに今の時代とそぐわない面があるのも事実ですが、『資本論』で解明しようとした資本主義の仕組みそのものは今も昔も大きくは変わりありません。マルクスの生前に発表された『資本論』の第1部では、資本の生産過程について書かれています。死後に出版された第2部は資本の流通過程を扱い、第3部で資本主義経済の全体像が示されるという構成です。

第3部まで読み通すのは無理という人は、第1部だけでも読んでおけば資本主義の本質について理解が深まります。中でも商品と貨幣(お金)との関係について書かれた冒頭の部分は、『資本論』のエッセンスが凝縮されたような最重要の章です。

マルクスは商品の価値を「使用価値」と「交換価値」の2つに分けて考え、価格を決めるのは商品を作るのに必要な労働の量だと考えました。実際の価格は需要と供給の法則によっても大きく左右され、プレミアがついて価格が高騰する例も珍しくありません。そのため商品価格の源泉がわかりにくくなっている面もありますが、あくまでも基本は「その商品を作るのにどれだけの労働が必要か」で決まる商品そのものの価値です。

この基本さえ頭の片隅に置いておけば、商品の価格を見て得なのか損なのかが的確に判断できるようになります。こうした商品本来の価値と貨幣との関係性を理解することで、以下の章で展開される資本生産や資本流通の研究も理解しやすくなるのです。

あらゆる商品と交換可能な貨幣を使って生産手段を手に入れれば貨幣が資本へと転じ、再生産を続けることで剰余価値が生み出されます。資本が回転することで蓄積され、単純再生産から拡大再生産へと発展していく流通過程を解き明かしたのが第2部です。

第3部は剰余価値が利潤に転化する過程とともに、利子や地代についても言及されています。資本主義のあらゆる形態について理解したい場合は『資本論』全体を読み通す必要もありますが、資本主義の基本を理解する目的なら第1部を読むだけでも十分です。第2部まで読めば経営に関しても理解が深まりますので、第1部を読破したら第2部にも挑戦してみるといいでしょう。

『資本論』が再評価されている理由

本書は資本家が労働者を搾取することによって利益を得ているという点を明らかにしているため、ソ連を始めとする社会主義国家の樹立に対しても大きな影響を及ぼしてきました。かつての東ヨーロッパ諸国や現在の中国・北朝鮮に至るまでの社会主義国家にとって、『資本論』が国家を正当化する基本理念となっている点も否定できません。

1990年に東西ドイツが統一され、1991年にソ連も崩壊した後は、社会主義が時代遅れの思想と言われるようになりました。中国は現在でも社会主義国家ですが、実質的には市場経済に支配された資本主義も同然だと言われています。そうした中では『資本論』も以前ほど熱心に読まれなくなりましたが、ここ最近は再評価の動きが出てきている状況です。国家モデルとしての社会主義は失敗に終わったと見る風潮が支配的で、1990年代以降は資本主義優位の情勢が続いています。

とは言え非正規雇用の拡大や派遣切りなどを通じて格差が広がっている現状を見れば、資本主義にも限界があるのは明らかです。未曾有の景気が続いていたとされるアベノミクスの最中でも、富裕層と貧困層の格差は広がる一方でした。資本主義に内在する矛盾に多くの人が気づき始めている中で、『資本論』とマルクスの思想が再評価されるようになっているのです。

2020年に世の中を大きく変えてしまったコロナ禍に伴って、仕事を失ったりシフトを減らされたりして収入が激減した人が相次ぎました。生活苦に陥る人が続出する中で、経済の仕組みについて改めて考え直そうとする人が増えています。困難な時代を生き抜くための知恵を身につけるためにも、こうした状況を150年以上も前に予言していたマルクスの『資本論』が今こそ必要とされているのです。

Bitly

まとめ

『資本論』という人類の宝を残したマルクスは、生涯を通じて資本主義の矛盾と格闘し続けた人です。マルクスの思想を体現しようとした社会主義国家の多くは失敗に終わり、『資本論』も一時期は過去の遺物として忘れられ去られようとしていました。

それも資本主義でバラ色の未来が約束されればの話で、現実には富裕層がますます豊かになる一方で貧困層との格差は拡大しています。「ワーキングプア」という言葉が取り上げられるようになって久しいだけに、資本主義の問題点を明らかにした『資本論』が再評価されているのも当然の動きです。

労働者の待遇は大きく改善されたように見えて、21世紀の現代はマルクスが生きた19世紀と本質的に変わらない部分もあります。その最も基本的な法則を理解するためには、『資本論』は思想信条を抜きにしても一生に一度は読んでおきたい名著です。いきなり原典を読破するのはハードルが高いという場合は、『資本論』についてわかりやすく解説した本を紐解いてみるといいでしょう。

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