群馬や埼玉で相次ぐ家畜盗難事件とは?背景に技能実習生のコロナ苦境

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ここ最近群馬県や埼玉県などで家畜の盗難事件が相次ぎましたが、一連の事件にベトナム人のグループが関与している疑いが浮上してきました。盗難の真相はまだ明らかとなっていませんが、豚を違法に解体した容疑で複数のベトナム人が逮捕されたのです。

事件の背後にはSNSで豚の売買を行っていたベトナム人コミュニティが存在するとも見られ、逮捕されたベトナム人の多くは在留期限が切れた技能実習生でした。コロナの影響で仕事を失いながら祖国にも帰れず、生活が困窮する中で組織的な家畜盗難事件へと発展した可能性があります。現在進行中の事件から窺える日本社会の問題点について、労働力不足の観点から現状を考察してみました。

群馬県や埼玉県で相次いだ家畜盗難事件の謎

当ブログでも以前取り上げたように、コロナ禍で相次ぐ農産物の盗難は以前から農家を悩ます深刻な問題の1つでした。

農作物盗難が相次いでいる理由とは?転売目的のプロが犯人のケースも
今に始まった現象ではありませんが、全国各地の畑やビニールハウスで野菜や果物などの農作物盗難が相次いでいます。9月から11月の収穫期に多い農産物盗難が今年は7月頃から相次いだ理由について、転売目的のプロが犯人のケースを中心に実態を解説します。

主に野菜や果物などの園芸作物を栽培する農園が狙われるケースが多かった中で、最近増えているのが牛や豚・鶏など家畜の盗難です。被害は群馬県を中心として、埼玉県や栃木県・茨城県など北関東に集中しています。
被害の件数が最も多い群馬県内で被害が最初に確認されたのは、新型コロナウイルスの感染が拡大中の2020年7月頃でした。これまでに合計1,000頭近い家畜が畜舎からこつ然と姿を消しており、この記事を書いた時点で窃盗犯はまだ捕まっていません。

店舗や工場などと比べて警備が手薄な農場は窃盗犯に狙われやすいとしても、これまでは被害の大半が野菜や果物で家畜が狙われた例は決して多くはずです。これまでの農産物盗難とは様相がだいぶ異なるだけに、誰が何の目的で実行したのか謎とされていました。

普通なら盗んだ家畜を海外に転売・輸出した可能性を真っ先に疑うところですが、食肉市場ではほとんど出回っていない子豚が多く盗まれている点は怪しいところです。国内では2018年に初めて豚熱が発生して以降、生きた豚の海外輸出はコロナ以前から停止している状態でした。非合法の手段で売買される密輸でもない限り、盗まれた家畜が正規の手続きを経て海外へ流通した可能性は低いと見られています。

子豚を盗み出して飼育するにしても相応の施設や餌代が必要で、とても素人の犯行とは思えません。自家消費した可能性が濃厚と見られていた中で、これを裏付けるような続報が飛び込んできました。住んでいたアパートで豚を違法に解体したとして、群馬県や埼玉県に住んでいた複数のベトナム人が逮捕されたのです。

アパートで豚を違法に解体

日本の法律では指定されたと畜場以外の場所で獣畜の解体ができない決まりとなっているため、逮捕されたベトナム人の容疑も「と畜場法違反」でした。と畜場を設置するには都道府県知事の許可が必要で、アパートのような集合住宅は許可が与えられない「人家が密集している場所」に該当します。

逮捕されたベトナム人たちは豚をアパートのバスルームで解体していたものと見られ、家宅捜索では肉の塊や包丁なども発見されました。SNSには容疑者のものと見られるアカウントから、アパートの敷地内で子豚を焼いている様子を撮影した動画も投稿されています。

日本では違法となる自宅での豚の解体行為も、ベトナムでは決して珍しくありません。子豚の丸焼きも含めた食習慣の違いはともかくとして、彼らが豚を手に入れたルートが問題です。

容疑者は警察の取り調べに対して「SNSを通じて購入した」などと供述していますが、販売していた人物が許可を得ていたかどうかが重要な鍵を握ってきます。たとえ狩猟免許を持つ人が自分で捕獲した野生動物の肉であっても、食品衛生法の制約があるため無許可で勝手に販売することはできません。

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日本に滞在するベトナム人同士が交流するSNS上では、豚を解体する前後の写真や購入に誘う文章なども投稿されていました。許可を得ないままSNSで豚を販売していたとすれば、群馬県や埼玉県などで相次いだ家畜盗難との関わりも疑われきます。アパートで豚を解体したり子豚を丸焼きにして食べたりしたベトナム人自身が窃盗犯でないとすれば、家畜を盗み出した犯人が他に存在するはずです。

累計1,000頭近くもの家畜が盗み出されたのは、それだけの数を販売できるルートが確立されていた証拠とも言えます。それがSNS上でのベトナム人コミュニティとどうつながっていたのか、現在は警察の捜査が進められている最中です。SNSの投稿は家畜盗難事件が報じられるようになった時期にほとんどが削除されているだけに、捜査の難航も予想されます。

コロナで苦境に陥る技能実習生

これまでに逮捕されたベトナム人の多くは技能実習生として来日しながら、コロナの影響で仕事を失い在留期限が切れてしまった若者たちです。そうした事情もあって事件発覚後も同情の声は少なくありませんが、技能実習生が劣悪な労働環境に置かれがちな状況は今に始まった問題ではありません。

海外の人材が日本国内で働くことで高い技術を身につけ、母国の発展を担う人材として育成されるというのが技能実習生制度の表向きの理念です。そうした本来の理念からかけ離れ、技能実習生を安価な労働力として扱おうとする人権蹂躙の例が跡を絶ちませんでした。

受難が続いてきた技能実習生も度重なる法改正を経て、現在では労働力ではなく研修生に近い立場と見なされるように待遇が変わってきています。そのせいもあって技能実習生は日本での仕事に不満があっても自由に転職できず、コロナで仕事がなくなって生活に困窮する人が続出しました。

技能実習生全体の半数以上をベトナム人が占めていますが、コロナの影響でベトナム行きの航空便は全面運休が続いています。日本で仕事がなくなっても母国に帰国できない技能実習生を救済する目的で、9月からは技能実習終了後の外国人が異業種に転職できる特例措置も開始されています。

一連の家畜盗難事件はそれ以前に相次いで発生しており、コロナで生活に困窮した技能実習生が何らかの形で関わっていた疑いも否定できません。または彼らを救う目的で組織的な犯行が断続的に実行され、盗まれた家畜が食材として提供されていた可能性もあります。

事件の背景に労働力不足の問題

劣悪な労働環境に置かれがちな技能実習生の制度は国内外から批判を受けてきましたが、必ずしも悪い面ばかりではありません。母国で借金をしながら渡航費用を用立てて来日したベトナム人の中には、技能実習で母国に家を建てるほどの財を築いて帰国した成功例も少なくありません。

それほどまでに日本とベトナムとの賃金格差は大きいわけですが、日本の側にもこうした技能実習生を受け入れざるを得ない事情があります。世界でも例を見ないほどのスピードで少子高齢化が進行中の日本では、以前から慢性的な労働力不足の問題に悩まされてきました。特に近年は大学への進学率が高まってきているだけに、単純労働など大卒者がやりたがらない職種の分野で労働力不足が深刻です。

1960年代から1970年代頃までの日本であれば生産年齢人口が豊富で、大学への進学率も現在ほど高くはありませんでした。かつては地方の中卒者が「金の卵」と呼ばれ、集団就職列車に乗って上京し工場や店舗で働くのが当たり前だったのです。

東京一極集中が進んだ現在ではそうした地方の人材も減る一方で、少子高齢化がこれに追い打ちをかけました。地方の人材が担っていた労働力が不足してくると、次は海外の人材に頼らざるを得なくなってきます。そうした流れの中で本来は国際協力を目的とする技能実習生制度に企業が目をつけ、日本人だけでは賄いきれなくなった労働を補う戦力として便利に利用されてきたのです。

これまでは国の対応が十分でなかったせいもあって、劣悪な労働条件に耐えられず失踪する技能実習生も少なくありませんでした。そうした状況も法改正で改善されつつありますが、コロナ禍のような想定外の事態に直面した場合にはサポートしきれない面が出てくるのも避けられません。

コロナ不況の下では技能実習生のように最も弱い立場にある人たちが犠牲にされがちで、国からの支援もなかなか受けられずに喘いでいたいたものと想像されます。そんな中で起きてしまった家畜の連続盗難事件には、日本社会が抱える深刻な病理が如実に反映されているのです。

連続家畜盗難事件の背景まとめ

群馬県や埼玉県など関東地方で相次いだ家畜の盗難事件は、豚を違法に解体していたベトナム人が逮捕されたことで新局面を迎えました。事件の背後にはSNSでつながったベトナム人コミュニティが存在すると見られ、コロナで仕事を失った技能実習生の苦境を救おうとする動きだった可能性もあります。

法改正を重ねてもなおサポート体制が不完全だった技能実習生制度を補うべく、ベトナム人同士のコミュニティが間違った形で団結した結果だったのでしょうか。どのような理由があっても窃盗は許されることではありませんが、事件の背景には少子高齢化や地方衰退など、労働力不足を招いた日本社会の矛盾が浮き彫りにされているのです。

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