日本での普及度は今ひとつながら、ライブコマースは中国で大人気となっているネット通販のスタイルです。中国の大手通販サイトで大幅な割引セールが行われる11月11日の「独身の日」に合わせ、コロナで訪日が叶わず買いに行けなかった日本製品も爆買いされました。ライブ配信を利用しながらネット上で実演販売を行うスタイルはテレビショッピングと似ていますが、出演者と双方向でやり取りできる点が人気の一因です。
コロナ禍をきっかけに日本でも普及が加速しそうなライブコマースについて、ネット通販に革命を起こす可能性という観点から将来性を考察してみました。この記事を読めばライブコマースの基本が理解できるとともに、中国でいま何が起きているのかがわかるようになります。
ライブコマースとは?
中国で盛り上がっているライブコマースとは、ライブ配信にネット通販を意味する「Eコマース」を掛け合わせた造語です。動画を生配信して視聴者との交流を楽しむライブ配信については、以前にも当ブログで取り上げました。
ライブ配信の出演者が企業と提携し、動画の中で商品を紹介するというスタイルはYouTubeでもよく見られます。この場合は事前に撮影して編集した動画をYouTubeに投稿し、視聴者は好きなタイミングで再生するという仕組みです。テレビで言えば収録済みの番組を放送するのと同じで、動画としての完成度は高くなる反面、同時性は失われてしまいます。
ライブコマースも動画の中で商品を紹介するという点ではこれらと共通しますが、テレビの生中継に近いリアルタイムの熱気が大きな特徴です。ライブ配信は配信者と視聴者の間でコミュニケーションも可能なだけに、双方向のやり取りを通じて盛り上がるという面もあります。
同じように生放送がよく行われているテレビショッピングの場合は、通販番組から視聴者へと情報の伝達が一方通行の状態です。ライブコマースなら視聴者が参加することも可能で、商品を紹介する出演者からのレスポンスにつながります。こうしたリアルタイム性と双方向性を特徴とするライブコマースが中国で活況を呈し、ネット通販の新しいスタイルとして急速に普及してきているのです。
ライブコマースが中国で人気の理由
近年の経済発展を背景にIT業界で世界をリードするようになった中国では、人々の生活にも先進的なスタイルが取り入れられてきまいた。日本以上のネット通販大国と言われているせいか、中国はキャッシュレス決済の普及率がおよそ60%にも達します。
独身を意味する「1」が4つ並ぶ11月11日は中国で「独身の日」と呼ばれる記念日ですが、2020年にはネット通販最大手のアリババが実施するセールで7兆円以上にも及ぶ売上を記録しました。この日は人気ライバーが商品を紹介するライブコマースも活況を呈し、独身の日の売上に大きく貢献しています。
日本では普及がなかなか進まなかったライブコマースが中国でこれだけ人気を集めている理由は、日本以上のネット通販大国だからというだけではありません。日本でもしばしば問題にされているように、中国製品には海外ブランドを真似たような偽物が少なくないという事情があります。中国の消費者も自国製品の信頼性に不安を抱いている人が多く、信頼できる人物が紹介した商品なら安心して購入できるという風潮も見られるほどです。
かつて訪日中国人観光客による爆買いが話題になったのも、「日本製品なら安心」という信頼を得ていたからでした。そんな中国の人たちもコロナ禍の影響で日本を訪れるのが困難となり、リアル店舗では爆買い現象も影を潜めています。
ネット空間では日本製品を買い漁る爆買いの光景も見られるだけに、日本企業にとってはチャンス到来です。独身の日に合わせて日本企業の間でもライブコマースを通じて商品を紹介し、中国での盛り上がりに便乗しようという動きがありました。
日本で大きな話題を呼んだGoToキャンペーンの総事業費は1兆6794億円ですが、中国の独身の日はその何倍にも及ぶ売上を一企業がわずか1日で計上するほど経済効果の大きいイベントです。その盛り上がりに大きく貢献したライブコマースは中国国内のみならず、今後は全世界のネット通販業界に革命を起こすポテンシャルを秘めています。
コロナ禍が普及の追い風に
中国でこれほどの人気を呼んでいながら、日本ではライブコマースが今ひとつ盛り上がっていませんでした。ライブ配信そのものは日本でもすっかりお馴染みとなりましたが、商品の紹介が目的とわかれば引いてしまう視聴者が少なくないのです。SNS上でも「#PR」などとハッシュタグのついた投稿ですら敬遠されがちな傾向が見られ、日本人は広告に対する警戒感が強いように感じられます。
そんな気質を持つ日本人の間でも、新型コロナウイルスの感染が広がったことで買い物行動に変化が見られるようになりました。ネット通販を利用する人が増えるとともに、なかなか普及しなかったライブコマースにも盛り上がりの兆しが出てきています。
BASEライブやヤフオク!ライブなどすでに終了してしまったサービスがある一方で、新たにライブコマースのサービスを開始する企業も少なくありません。機能が拡張されたFacebook Shopでは新たにライブコマース機能が実装され、FacebookライブやInstagramライブを通じた商品販売が可能になってきています。
地方の小規模アパレル店舗がライブコマースを導入し、前年比で売上を3倍に伸ばした事例もありました。コロナ以前から地方の商店街では売上減少に歯止めがかからない状態にありましたが、ライブコマースを導入すれば遠方に住んでいる人にも商品を紹介できます。
商品に関する質問や感想がリアルタイムで表示され、視聴者にその場ですぐに返答できるという点がライブコマースの持つ強みです。ネット通販にありがちな不安を解消させる上でもそうしたリアルタイム性は大いに役立つだけに、コロナ禍で冷え込んだ消費を回復させる切り札となる可能性があります。
ライブコマースが物販を変える可能性
現在はまだ発展途上の感もありますが、ライブコマースには将来の物販を大きく変えるだけのパワーが秘められています。すでにネット通販が演じてきた物販革命をさらに一歩進め、リアル店舗が持っていた強みをも奪う可能性が出てきているのです。
ネット通販は場所や時間の制約を受けずに、いつでもどこでも商品を購入できる便利さが最大のメリットでした。Amazonや楽天市場に代表される巨大通販サイトは品揃えも豊富で、たいていの商品なら注文を通じて手に入れることができます。タイムセールなどを利用しすれば商品を安く購入することも可能ですが、商品の実物を直接手にとって見られないという点はネット通販の泣きどころでした。
リアル店舗なら商品の実物を見て品定めができる上に、わからない点があればその場で店員に質問することもできます。ネット通販に押され気味だったリアル店舗にしてみれば最後の砦とも言える双方向性も、ライブコマースが普及するようになればお株を奪われることになりかねません。
ライブコマースなら商品の細かい部分を確認したい場合に、「もっとよく見せて」というように注文をつけることも可能です。商品写真と説明文だけで販売する従来のスタイルと比べて臨場感が増し、実店舗に近い感覚で買い物ができるようになります。
伝統的な実演販売の口上を取り入れたテレビショッピングは一種のショーとしても楽しめますが、ライブコマースはよりいっそうエンタメ性の強い販売方法です。ライブコマースの持つ表現の可能性を伸ばしていけば、従来のネット通販にない買い物体験を提供できるようになります。
SNSやYouTubeで絶大な影響力を持つインフルエンサーがライブコマースに出演した場合、短時間で億単位の売上を計上したとしても不思議ではありません。フォロワー数がそれほど多くない人でも、ニッチなジャンルに特化すればライブコマースで稼ぐことも十分に可能です。従来型のネットショップやAmazonなどのプラットフォームを利用した物販ビジネスを展開している人の間でも、今後はライブコマースに進出する例が増えるものと予測されます。
まとめ
中国から人気に火がついたライブコマースは広告的手法を伴ったライブ配信のスタイルだけに、広告が嫌われがちな日本では普及がなかなか進んでいない状況でした。コロナの影響もあってネット通販を利用する人が増える中、そんな状況にも変化の兆しが見られます。中国での盛り上がりが日本にも飛び火し、商品を通じた双方向のコミュニケーションを楽しむ人が増えてきているのです。
そこに大きなビジネスチャンスがあると見てライブコマースに着目する企業が増えてくれば、巨額のマネーが動くようになります。企業の商品を紹介して収入を得る手法にも有力な選択肢が加わることになるだけに、コロナ禍をきっかけに1つの巨大市場が誕生する可能性が出てきている状況です。