中古の家電製品やゲーム・古本・古着などさまざまな中古品を安く仕入れ、利益を上乗せして売る「せどり」の手法はすっかり定着した感があります。せどりは誰でも気軽に取り組める副業の手段としても人気を集めていますが、転売を目的に購入した商品を売って利益を得るには一般の個人であっても古物商許可が必要です。
許可を得ずに転売で収益を得た場合には違法と判断され、罰則が適用されかねません。フリマアプリを使った個人対個人の取引にさえも、転売が目的であれば古物商許可が必要になってくるのです。
せどりや転売で稼ぐのに古物商許可を取得すべき本当の理由について、許可が不要なケースと比較した上で実例をまとめてみました。初心者にとってはいろいろとわかりにくい面のある古物商許可の仕組みも、この記事を読めば8分で基本的な知識が身につきます。
古物商許可がないとせどり・転売ができない理由
せどりは主に古本業界で使われてきた転売の手法でしたが、現在ではCDやDVD・ゲーム・玩具から中古家電・古着に至るまであらゆる商品が対象です。せどりよりも広い意味で使われる例が多い転売の対象は、物品ばかりでなくチケットや金券のようなものにまで及びます。
興行チケットの転売は2019年に施行された法改正によって禁止されましたが、新幹線回数券など交通機関の乗車券は規制の対象外です。興行チケットやマスクのように違法性のあるものでなくても、古物商許可を取得せずに転売を行った場合は違法になってします。
せどりや転売で違法にならないようにするには、所轄の警察署に申請を出して古物商許可を取得しなければなりません。このように中古品の転売で古物商許可の取得が義務付けられているのは、盗品の売買を防ぐのが最大の目的です。
誰でも許可なしで中古品の売買ができるようになれば、盗品を売って現金に換える行為が簡単に実現されてしまいます。今は会社員や主婦がメルカリに不用品を出品して簡単に小遣い稼ぎができる時代だけに、せどりや転売のハードルが低くなったと思いがちです。実際には転売でお金を稼ぐ行為に対しては商品の出どころや動機を疑われる可能性もゼロではなく、世間一般的にはまだまだグレーゾーンの稼ぎ方と見られがちな面もあります。
転売しようとしている品が盗品でないことを完全に証明するのは困難なため、盗品を売るような人物でないことを示して証明の代わりにするために古物商許可が必要です。古物商許可を取得するにはいろいろと条件が課せられるため、条件をクリアした人は国から中古品転売をしてもいいというお墨付きを与えられた形となります。それだけ中古品の転売というのは、「一歩間違えれば違法になりねない行為」と見なされているのです。
未使用の新品も古物の対象?
古物商許可に関する質問で多く見かけるのは、一度も使用したことのない新品を転売する場合も許可が必要なのかどうかという疑問点です。確かに未使用の新品であれば中古品に該当しないようにも思いがちですが、古物営業法上では新品であっても古物と見なされるケースが出てきます。
使用を目的として購入された品であれば、たとえ一度も使用されたことのない新品であっても古物の対象です。「古物」という字面には、一度でも使用されたことのある中古品を意味するようなイメージもあります。
実際には自分が使用する目的で購入した商品であれば、何らかの理由で使用しなかったとしても古物営業法上では「古物」です。仮に自分で使用する気がなかったとしても、他人に使用させる目的で購入した商品は同じように古物と見なされます。
古物に未使用の新品が含まれるのは、転売目的で取引される場合に盗品が紛れ込む可能性がゼロではないためです。古物商許可は盗品の売買を防ぐのが最大の目的となっているため、商品の仕入れ方法に盗品が紛れ込む可能性が少しでもある限りは未使用の新品でも「古物」の扱いとなります。新品と中古品の両方を区別なしに販売している店舗や通販サイトから購入した商品は、たとえ未使用でも古物営業法の対象となってくるのです。
古物商許可が必要でないケース
未使用の新品ですら古物に該当してしまうのだとすれば、メルカリに中古品を出品するにも古物商許可が必要のように思えてしまいます。家にある不用品をメルカリに出品して売る分には、リサイクルショップで買取してもらう場合と同様に古物商許可は不要と考えるのが一般的です。それらの品はもともと転売を目的に購入されたものではないため、中古品であっても古物営業法上の古物には該当しません。
自分で使用する目的で購入しながら、目的に合わなかったなどの理由で使用しなかった新品も同様の判断が下されます。特定の家電製品にしか使えない専用の消耗品を誤って購入してしまい、返品できなかったケースなどが考えられます。返品できなければメルカリなどを利用して必要な人に転売し、少しでも購入代金を取り戻したいと考えるのが人情です。
こういうケースにまでいちいち古物商許可が必要なのでは気軽に出品できなくなってしまうため、単発の出品であれば許可も必要でないと判断されています。新品のみを販売している店から購入した品であれば、たとえ自分で使用した後の中古品を売る場合でも古物商許可は必要ありません。
同じような商品を繰り返し何度も出品した場合は不用品処分の域を超えていると判断されてしまうため、古物商許可なしでメルカリに出品できるのも程度の問題です。個人が収集したコレクションを手放す手段としてメルカリへの出品を選んだ場合などは、違法かどうかの判断が微妙なケースに該当します。そういう事例では転売目的で仕入れた品を出品しているのと区別がつきにくいため、古物商許可なしの出品では違法性を疑われかねません。
個人が古物商許可を取得するのは、警察を含む世間に「自分は盗品を扱うような人物ではありません」と宣言することを意味します。少しでも盗品を疑われるような出品の仕方をするのであれば、自分自身のコレクションを売却するような場合でも古物商許可を取得しておいた方が無難です。
古物商許可を取得した後の注意点
せどりや転売で堂々と稼ぐのに欠かせない古物商許可は、一度所得してしまえば更新手続きなども基本的には不要です。とは言え古物商を名乗ることで一定の責任を負う必要も出てくるため、取得後も油断はなりません。
許可を得た古物商には古物の買取を行う際の本人確認義務に加え、取引内容を3年間記録保存する義務と、盗品など不正の疑いがある場合の通報義務という3つの義務があります。それらはリサイクルショップを運営する法人だけの義務と思いがちですが、古物営業法上では個人も法人も同じように義務が課せられるのです。
古物商許可を取得さえすれば、後は安泰というわけではありません。古物営業法に従っていないと営業が停止されたり、許可が取り消されたりこともあり得るという点には注意が必要です。
取引内容の記録が義務付けられている理由
古物商許可は盗品の売買を防ぐのが最大の目的ですので、万が一盗品を扱った疑いを持たれてしまった場合は捜査に協力しなければなりません。そうした場合に取引内容がしっかりと記録されていれば、警察が捜査を進める上でも重要な手がかりとなります。
取引内容の記録方法は古物台帳に記載する方法と取引伝票を綴じて保存しておく方法の他、パソコンにデータの形で記録しておく方法を加えた3種類です。パソコンに記録する場合は情報開示要求に応じて即座にプリントアウトできるような形にしておく必要があります。いずれの方法も最後に記載した日付から3年間は保存が義務付けられていますので、紛失やデータ消失などしないよう厳重な管理が欠かせません。
取得から半年以内に営業開始しないと許可が取り消される?
古物商許可は運転免許などと違って一度取得すれば定期的に更新したりする必要はありませんが、古物営業法に違反した場合は許可が取り消されかねません。盗品の捜査に協力しなかったり必要な届け出を怠ったり、公安委員会からの指示に従わなかったりして違反を繰り返した場合には営業停止処分もあり得ます。
古物商許可を取得しながら6か月以上経っても古物商としての営業を開始しない場合は、営業停止の対象です。営業開始後も休業の状態が6か月以上続いた場合は、同様の判断を下される可能性があります。いずれのケースでも営業停止処分で済むとは限らず、最悪の場合は許可が取り消される場合もあるという点には注意が必要です。
そもそも古物商許可はホームレスの人が所得できないように決められていますが、取得後に所在不明となった古物商が官報公示から30日以内に申し出がない場合は許可が取り消されてしまいます。メルカリでせどりや転売を始めると購入者との間でトラブルも起こり得ますが、相手と連絡を断ったりすれば許可が取り消される恐れもあるのです。
古物商許可に関する基礎知識まとめ
ネットオークションやフリマアプリが広く普及したことでせどりや転売の敷居が下がり、個人でも中古品を仕入れて手軽に転売できるようになりました。ITテクノロジーは大きく進化しましたが、インターネットを駆使すればやりたい放題に稼げるというわけではありません。インターネットを利用したせどりや転売にも古物営業法という法律の壁があり、個人でもリサイクルショップ並みのコンプライアンス遵守が求められるのです。
電脳空間にもリアル店舗と同様に古物営業法を適用しなければ、盗品の売買が横行することになりかねません。せどりや転売で稼ぐのに古物商許可が必要な真の理由は、盗品を売りさばいて現金に換えるような不正が過去に相次いだという証拠です。古物商許可を取得するには警察署に赴いて手続きしなければならず、2万円近い費用が必要な上に申請が認められるまで2か月ほどかかります。そうした手続きを煩雑に思いがちですが、無用の疑いをかけられずに正々堂々と転売を行うためには避けて通れない手続きなのです。