ネットワークHDDとも呼ばれるNASは企業だけでなく、家庭で使ってるという人も珍しくありません。NASはファイルサーバーとしてすっかり定着した感がありますが、普通の外付けHDDと比較すると価格面ではどうしても割高になってしまいます。
そんなNASの導入方法には3つのパターンが考えられ、導入の仕方によっては初期費用を抑えることも可能です。導入の難易度や機能面も含めたそれぞれの特徴を比較し、どれを選ぶべきか考察してみました。
NASを導入する3つのパターン
Photo by PJ (2011年10月18日) / CC BY-SA 3.0
NASを導入すれば複数台のパソコンやモバイル端末間でファイルを共有できるようになるだけに、大量の文書や写真・動画を保存しておくのに便利です。液晶テレビやレコーダーの録画容量を増やす方法としてNASを利用すれば、テレビ以外でも複数の端末で録画番組を視聴できるようになります。NASをバックアップ目的に使ったり、プリンタサーバーとして利用したりしている会社も少なくありません。
企業内や家族間でファイルを共有するのに便利なNASには、HDDが内蔵された完成品の他にHDDなしのNASキットも売られています。PCに関する知識があればHDD以外のパーツも調達してNASを自作することも可能ですが、完成品やキットと比べてどちらが得かという点に関しては意見が分かれるところです。
最近はSSD対応のNASも登場
パソコンに内蔵されるストレージとしては、ここ数年でHDDからSSDへの置き換えが進みつつあります。高速回転する磁気ディスクにデータを書き込むHDDと比べ、フラッシュメモリにデータを記録するSSDはアクセスの速さが最大の特徴です。
従来はHDDを使うのが普通だったNASの分野でも、最近はSSDに対応した製品が増えています。NASでSSDを使用するには消去可能なデータを伝えるTrim命令が欠かせないため、現状ではハイエンドクラスの製品に限られた機能です。SSDそのものの価格も同じ容量のHDDと比べて全般に割高ですが、予算に余裕があるヘビーユーザーの間では人気が高まりつつあります。
初心者でも手軽に導入できる完成品NAS
NASを導入する最も手軽なパターンは、HDDも含めて最初からすべてのパーツが揃った完成品を購入する方法です。そうした完成品のNASはPC周辺機器メーカーを中心にさまざまな機種が発売されており、一般の家電量販店でも購入できます。完成品のNASは自分でHDDを別に用意して取り付ける必要がなく、買ってすぐに使える点が最大のメリットです。
社内LANや家庭内LANにファイルサーバーとしてNASを導入する際には、何かと複雑な設定が必要になるイメージもあります。完成品のNASはそうした設定を簡略化する機能が内蔵された製品が大半で、ネットワーク初心者でもマニュアルに従って操作すればそれほど迷うことはありません。今までNASを使ったことがないという初心者や、パソコンのパーツ交換が苦手という人にはこうした完成品のNASがおすすめです。
完成品のNASが外付けHDDより割高な理由
HDDが内蔵された完成品のNASは電源を入れるだけで簡単に使える点がメリットですが、外付けHDDと比べると価格が割高になる点がデメリットです。最近は外付けHDDの低価格化が進み、1TBあたりの単価は3,000円程度にまで下落しています。HDD内蔵タイプのNASはだと安くても1万円以上するのが普通で、同じ容量の外付けHDDと比べて価格が倍という製品も少なくないものです。
単なる外付けHDDの代わりと考えた場合は割高となってしまいますが、CPUとメモリを備えていて独自のOSで動作するという点ではNASも1台のPCと変わりません。だからこそNASは単なる周辺機器の枠を超え、外付けHDDにはないさまざまな使い方が可能なのです。サーバー機能に特化したパソコンを導入したと考えれば、割高に感じられるNASの価格にも納得できるものです。
NASキットは拡張性の高さが魅力
完成品のNASは外付けHDDと比べて価格が割高なだけでなく、通常はHDDの用量を増やすことができない点もデメリットの1つです。NASにUSB端子が備わっている場合は外付けHDDを増設することで容量を増やすことは可能とは言え、ケース内にHDDをすっきり収納できる点では2台以上のベイを備えたNASキットの方が拡張性に優れています。
内蔵HDDも含めたパーツを自分で選べない点に物足りなさを感じるなら、初心者のレベルを脱しつつある証拠です。そのような人は将来的にHDD用量が足りなくなる場合を考えると、拡張性の点で有利なNASキットを選ぶのが無難だと言えます。
自分でHDDを選ぶメリット
NASを導入する2つ目のパターンとして挙げられるNASキットは、HDDなしの単体で売られている製品です。NASをネットワークHDDがとして捉えるなら、NASキットを購入しただけではまだ完全ではありません。NASキットは別売のHDDを追加することによって、初めてネットワークハードディスクとして機能するようになります。
HDDを別に用意しなければならない点は一見すると不利なようにも思いがちですが、この点は必ずしもデメリットとは言えません。自分でいくらでも大容量かつ高性能のHDDを選んで装着できるという点を考えると、自由度の高いNASキットの方が長く使い続けるのに有利です。以前と比べて価格がずいぶんと安くなった大容量HDDを選んで装着すれば、NASの割高感もだいぶ緩和されます。
初心者にもやさしいNASキットのDS218j
完成品のNASでは国内のPC周辺機器メーカーが高いシェアを持っているのと比べ、NASキットは海外メーカーの製品が中心です。中でもNASキットの分野でQNAPとともにシェア1位を争う台湾Synology社の製品は、コストパフォーマンスに優れていることから日本でも高い人気を誇っています。Synologyの最新モデルでも価格と性能のバランスに優れているのは、HDD2台が搭載可能で実売価格が2万円を切るDS218jです。
1.3GHzのデュアルコアCPUと512MBのメモリを搭載したDS218jは上位モデルの機能が省かれている面もありますが、家庭用としての基本性能は十分です。レコーダーの録画容量を増やすのに欠かせないDTCP-IPにも対応し、バックアップソリューションも備えているので万が一の故障にも安心できます。こうしたキットと別売HDDを組み合わせてNASを構築するのは中級者向けの方法ですが、DS218jなら初心者でも少し勉強すれば十分に使いこなせます。
【2021年5月31日追記】
1年前の時点でDS218jは実売価格が2万円を切っていましたが、現在は3万円前後に上昇しています。初心者でもセットアップしやすい安価なNASキットとしては、同じSynology社でも1ベイのDS120jがおすすめです。HDDは1台しか設置できませんが、現在の実売価格は15,000円を切っています。
NASを格安に構築できる自作の方法
NASキットはHDDだけを自分の好みや使用目的に合わせて自由に選べる製品ですが、それ以外のパーツは基本的に固定されます。NAS上級者になるとHDDだけでは飽き足らず、ケースやCPU・メモリなどすべてのパーツを自分で選びたくなるものです。NASはファイルサーバー機能に特化しているとは言え、独立したOSを持った1台のPCには変わりありませんので、その気になれば自作も十分に可能です。
PCの自作を趣味とする人の中には、HDDだけでなくPCケースやCPUなども使わなくなった品が余っているという人が少なくありません。それらのパーツを有効活用してNASを自作し、FreeNASのような無料のNAS用OSをインストールして運用すれば最も安上がりにNASを構築することができます。
NASを自作するにはPCに関する知識も必要
余ったパーツを流用したり格安のパーツを買い集めたりして自作NASを構築すれば、完成品やキットより低予算でNASを導入できるのは事実です。とは言えそのような形でNASを自作するにはPCパーツやサーバー用OSに関する知識も必要になってくるので、NAS導入方法としては難易度が高くなります。FreeNASは高機能な反面求められるハードウェア条件も厳しいだけに、条件を満たすパーツを新たに買い揃えるとなると予算が割高になる可能性も出てきます。
古いWindowsパソコンをNASとして再利用することも不可能ではありませんが、OSがそのままだとサーバー機能は大きく落ちてしまいます。低スペックのPCでも動作するフリーのサーバー用OSを古いPCにインストールすれば、格安NASの出来上がりです。いずれにしてもNASを自作するにはある程度の知識とPC自作経験が欠かせませんので、どうしても上級者に限定された選択肢となってきます。
NASの導入方法まとめ
PCに関する知識があれば、以上のような方法を使って低予算でもNASを自作することは可能です。とは言え大半の人はそこまでの知識を持っていないため、NASを導入するには完成品かNASキットのどちらかを選ぶのが現実的な選択肢となってきます。完成品は価格が少々割高ながらHDDが内蔵されていてすぐに使える安心感があり、自分で好きなようにHDDを選べるNASキットはコストパフォーマンスの高さが魅力です。
まったくの初心者なら少々予算をかけてでも、HDDが内蔵された完成品のHDDを選ぶのが無難な選択肢となってきます。NASキットを購入してHDDを自分で組み込むだけならそれほど難しくありませんので、少しでも費用を抑えたいという人におすすめの導入方法です。PCの構造についてある程度の知識がある人なら、導入費用を最も安くできる可能性のあるNAS自作にも挑戦してみる価値があります。