1969年に人類初の月面着陸に成功してから50年以上が過ぎた今も、月探査は思ったほど進んでいない状況です。人類にとって月はまだまだ遠い存在ですが、月の土地はすでに売られていて多くのオーナーが存在します。それもサッカー場ほどの広さの土地が、わずか数千円で売られている状況です。
月の土地がこれほど安く購入できるのはどうしてなのか、詐欺ではないのかどうか、不動産投資の観点から検証してみました。
月の土地とは?
月には呼吸できるような空気がなく、昼と夜の気温差が200℃以上にも達する過酷な環境です。月の地表には太陽や宇宙空間から大量の放射線も降り注いでいるだけに、人間の居住環境に適しているとは言えません。
将来的に移住して家を建てたりするのは難しそうですが、それでも月に土地を持っているというのはロマンのある話です。そんな夢を売るビジネスとして米国の企業が月の土地を販売し、これまでに約600万人の人々が購入してきました。
そもそも地球外不動産の所有権は象徴的な意味合いが強く、地球上の土地を所有するのと同じように考えるのは無理があります。オンラインゲームの世界ではゲーム内の土地が仮想通貨や法定通貨で売買されていますが、それと同じようなバーチャル商品と見なすべきです。
月の土地の購入方法
Amazonや楽天市場のような大手通販サイトで検索してみても、月の土地は売られていません。購入しようと思えば、独占販売権を持つルナエンバシー社に直接注文する必要があります。日本では代理店のルナエンバシージャパンのHPで購入が可能です。
注文の際にはHPに掲載されている中から欲しい商品を選び、「注文する」ボタンを押して権利者情報入力画面に進みます。名前や希望表示日・住所・電話番号といった必要事項を入力し、「この内容で注文する」ボタンを押しせば注文が確定する仕組みです。支払い方法はクレジットカード決済の他、コンビニ決済や代引き決済も利用できます。
月の土地の広さ
月の土地を購入する際には、権利者情報入力画面に1から20までの「エーカー数」を入力する項目もあります。1エーカーは約4,047平方メートルに相当し、テニスコートよりは大きくサッカーコートよりは小さいぐらいの面積です。
1坪は約3.3平方メートルですので、1エーカーはおよそ1,224坪ということになります。面積の単位でよく使われるヘクタールに直すと、1エーカーは約0.4ヘクタールに相当する面積です。
月の土地に残りはある?
販売の対象は地球から見える表の面だけですが、それでも買える土地は約55億エーカーあります。購入済みのオーナーが世界に600万人ほど存在するとしても、まだまだ多くの土地が残っているはずです。
現在は第3期の分譲中ということですが、「残りわずか」などという記述はHPにも見当たりません。これだけ多くの土地があれば、当分は売り切れの心配もなさそうです。
月の土地の価格
日本で最も地価が高い地域として知られる東京・銀座の一等地は、公示地価の坪単価が8,000万円前後にも達します。銀座で1エーカーの土地を購入しようとすれば1,000億円もの費用が必要になる計算ですが、月の土地は最小単位でわずか2,700円です。
購入した土地は遠い宇宙空間に存在するため、自分の土地を見に行こうと思っても簡単には行けません。前述のような理由で象徴的な意味合いしか持たないために、1エーカーの広さでもこれほどの安値で購入できるというわけです。
実際に月の土地を購入すると、以下のような品々が送られてきます。
- 月の土地権利書/月の憲法/月の地図
- 月の土地権利書(和訳・A4)/月の憲法(和訳・A4)
- 土地所有権の宣言書コピー(英文)
- オリジナル封筒
(出典:月の土地|ルナエンバシージャパン)
この他にもカードやファイルなど、さまざまなオプションを追加した複数の商品が販売されています。価格はオプションの組み合わせによって異なり、2,700円の他に3,250円から7,320円までの商品がラインナップされている状況です。
月の土地に税金はかかる?
地球上に存在する土地を購入する際には印紙税や登録免許税が発生し、購入後も土地を保有するだけで固定資産税を支払う必要が出てきます。
それらの税金はあくまでも土地のある国の税制に基づき、土地の購入者や所有者に対して生じる納税義務です。宇宙空間に存在する土地に対してはどの国家の税制も適用されないため、月の土地を購入しても税金は発生しません。地球上の土地を相続した場合は相続税の対象となりますが、地球外不動産は相続税に関しても対象外です。
月の土地の販売は詐欺でない?
月の土地がこれほど安く買えるとなれば、「詐欺ではないか」と心配にもなります。そもそも一企業が月の土地を販売することが可能なのかどうか、怪しいと思っている人も少なくないはずです。筆者も同じ疑問を持って所有権の根拠を調べてみましたが、ルナエンバシー社は合法的な手続きを経て月の土地を販売しています。
1967年発効の宇宙条約で、月を含む宇宙空間に対してはどの国家も領有権を主張できないことが規定されているのも事実です。領有が禁止されているのはあくまでも「国家」のレベルであって、民間企業や個人の所有に関しては禁止されていません。
ルナエンバシー社を設立したデニス・ホープ氏はこの盲点に着目し、1980年に月の所有権申請して受理されました。当時宇宙開発を行っていたアメリカ合衆国やソ連に加え、国連にも月の権利宣言書を提出しましたが、異議を唱える声はなかったということです。
これを受けて氏は月の土地の販売を開始し、ハリウッドのセレブや日本の芸能人を含めた大勢の人に購入されてきました。販売開始から何十年と経っているわけですが、詐欺の被害に遭ったなどという声も聞かれません。
代金を支払った対価として送られてくるのは、権利書や宣言書・封筒など土地の所有を示す品々です。オプションで購入できるカードやファイルも含め、数千円程度の価格に見合った商品と言えます。
月の土地は投資の対象になる?
月の土地の販売が詐欺でないとすれば、不動産投資の対象にしようと考える人が出てきても不思議ではありません。実際にゲーム内の土地が投資の対象となっているだけに、同じようなバーチャル空間と見なせばできないことはないはずです。
過去にはAxie Infinityというブロックチェーンゲーム内のバーチャル土地がNFTとして売りに出され、日本円にして約1.6億円で落札された例もありました。NFTは「非代替トークン」を意味する略語で、ブロックチェーンの技術を使ってデジタルデータに唯一の価値を付与した概念です。NFT化されたバーチャル土地がこれほどの高値で売れているのは、世界に1つしかないという希少価値が認められたことを意味します。
月の土地を持っている人は600万人にも達すると見られるだけに、それほどの希少価値を見いだすのは困難かもしれません。ヤフオクやメルカリの出品状況も確認してみましたが、月の土地の出品は見当たりませんでした。有名人が所有していた商品でも出品されない限り、購入時以上の価格で転売するのは難しそうです。
将来的に人類が月の資源開発に乗り出すことになった場合には、1984年に発効した月協定が問題となる可能性もあります。国家だけでなく、機関や団体・個人も月の土地や資源を所有できないと月協定に規定されているからです。
ただし月協定に批准しているのはオーストラリアやベルギー・オランダなどの13カ国に過ぎず、米国や日本など宇宙開発を行っている主要国は含まれません。そのため国家条約としての有効性には疑問の声もあります。
米国は月協定への批准を拒否し、2015年には個人や法人による月の資源を認める宇宙法を制定しました。米国の宇宙法が有効と判断された場合には、月で資源が見つかった土地の価格が高騰することもあり得ない話ではありません。いつになるかわからない「その時」に備え、宝くじを買っておくようなつもりで購入するのも夢があります。
まとめ
現状では月の土地も不動産投資の対象ではなく、夢を購入するためのバーチャルな商品と言えます。詐欺の要素が見当たらないかどうか検証してみましたが、これと言って怪しい点は見つかりませんでした。有名人を含めて何百万人もの人がすでに月の土地を購入し、ささやかな夢を所有している状況です。
1エーカーあたり数千円という販売価格も、注文後に送られてくる権利書などの品々と釣り合った価格と言えます。誕生日やクリスマスに一風変わったプレゼントを贈りたいという人は、購入を検討してみるといいでしょう。