お仕事小説としても楽しめるSFの古典『夏への扉』の魅力

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1956年に発表されたロバート・A. ハインラインの『夏への扉』は、SF小説の古典的名作の1つとして長く読み継がれてきました。日本のSFファンの間でも根強い人気を誇ってきた本作は恋愛小説としての側面を持つだけでなく、有能な機械技師であり発明家でもある主人公・ダンのお仕事小説としても楽しめる作品です。

時代とともに古びる運命が避けられないSF小説の古典でありながら、本作は21世紀の読者をも魅了する爽快さを秘めています。特許をめぐるスリリングな攻防戦も1つの読みどころとなっている『夏への扉』の魅力について、大衆小説に欠かせないロマンスや冒険といった要素から読み解いてみました。

『夏への扉』の概要

表紙に描かれた猫のイラストが印象的な本作は、時間旅行を扱ったSFでありながら恋愛小説としての面白さも兼ね備えています。本国アメリカでは必ずしもこの作品が作者ハインラインの代表作とされているわけではありませんが、日本のSFファンの間では古くから人気NO.1の評価を受けてきまいた。海外SF小説の人気投票を実施した場合、しばしば本作が1位に選ばれていたものです。

日本語版は長く福島正実訳で親しまれてきましたが、時代の要請に応える形で最近は新訳版も登場しています。若い読者にも読みやすく配慮されている訳文を採用した新訳と並んで、自身がSF作家でもあった福島正実の独創的な翻訳も根強い人気があります。原作が発表された1956年からすでに60年以上を経ていますが、今なお日本のSFファンに本作は読み継がれているのです。

タイムトラベル物の古典として高く評価

家事用ロボットなどを開発している主人公の機械技師・ダンは、「護民官ペトロニウス」の異名を持つ猫のピートを唯一の伴侶としていました。冬になると猫のピートが家にある11の扉を1つ1つ開けるように、飼い主のダンにせがんでいたことがタイトルの由来です。冬が大嫌いなピートは、扉のどれか1つが夏に通じると信じているのです。タイトルにつながるこのエピソードには、この作品のテーマとなる未来への旅が象徴されています。

作品が書かれた1956年から見て近未来に当たる1970年の「現在」と、それから30年後の2000年後が本作の主な舞台です。主人公のダンが30年後の未来へと移動する手段にはコールドスリープの技術が使われ、再び1970年に戻る際には2000年の時点で実験段階にあったという設定のタイムマシンが利用されます。いずれも21世紀の現在ではなお実用化されていない空想的な技術ですが、作中には実際に製品化が実現している掃除ロボットも登場します。

苦境に屈しない主人公のたくましさ

主人公のダンは生粋の技術者らしく器用な立ち振舞は苦手な反面、どんな苦境にも屈しないたくましさの持ち主です。ダンは親友のマイルズと会社を設立して掃除ロボットを売り出しますが、経営方針の違いから彼と対立するようになります。美人秘書ベルの裏切りもあってダンは会社を追放され、冷凍睡眠装置に送り込まれる羽目に陥りました。

30年後に目覚めたダンは、マイルズがすでに亡くなって会社も倒産している事実を知ります。歴史を改変して会社を立て直そうと画策した主人公は開発途上だったタイムマシンに乗り、1970年へと戻って改善案を実行しました。行方不明となっていた飼い猫のピートとも無事再会したダンはともに冷凍催眠入りし、再び目覚めた30年後に事業が成功したことを知るのです。

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『夏への扉』が愛読されてきた理由

SFファンのみならず一般読者の間でも本作が長く愛読されてきた理由の1つとして、波乱万丈の冒険物語として楽しめる点を挙げないわけにはいきません。自分を裏切ったマイルズとベルに対する復讐心が、主人公・ダンを突き動かす大きな原動力となります。タイムパラドックスという禁じ手を使ったダンの復讐劇は、彼の事業が未来に成功を収めることで成就するのです。

冷凍睡眠装置とタイムマシンを駆使して主人公が時代を行き来するというという設定はいかにもSF的ですが、主人公を行動を起こすもうひとつの動機となっているのは商売や発明への情熱です。仕事に対する熱い思いは時代を越えて現代の読者の心にも響き、働くことの原点を思い出させます。読んでいて主人公を応援したくなるという点では、サラリーマンに熱狂的な支持を集めている池井戸潤のビジネス小説にも通じる爽快さがあります。

アメリカ大衆小説らしいラブロマンスの魅力

困難に次ぐ困難を乗り越えてハッピーエンドを迎えるサクセスストーリーはいかにもアメリカ人らしい発想ですが、本作の魅力の1つとして恋愛小説としての要素も見逃せません。主人公のダンは親友マイルズの義理の娘で11歳のリッキイとも親しくしていましたが、冷凍催眠に入れられた時点でいったん離れ離れになります。最後に30年後の世界で再会した彼女は21歳の姿に成長しており、30年前の約束通り2人は結婚するという二重のハッピーエンドを迎えるのです。

作者のハインラインは他のSF作家に先駆けて自作を一般紙に掲載し、SF小説が大衆に広く読まれるきっかけを作りました。一般読者からの人気を掴むには科学技術を先取りした空想的要素ばかりでなく、こうした恋愛の要素も積極的に取り入れる必要があったのです。

科学に対する楽天的な世界観も魅力

長く愛読されてきた本作も発表から60年以上が過ぎました。作中で取り上げられた科学技術は古びた面もありますが、科学の明るい未来が謳歌されていた古き良き時代のノスタルジーに浸るのも悪くないものです。

時代の進歩とともに古びる運命が避けられないSF小説の中でも、冒険的要素や恋愛小説的要素を前面に押し出した本作は今も読まれる価値を持っています。特に中高年の人は、無限の可能性を持った科学文明に夢を託した時代の空気の中で育ってきた世代です。あの時代を生きた人々の共有していた未来への夢が、本作の中にはタイムカプセルのようにして封じ込められています。

同時代に書かれたSF小説の中には世界の破滅や終末期の宇宙を描いたような暗い作品も少なくありませんが、本作は猫や少女も魅力的に描かれた心温まるストーリーです。閉塞感の漂う現代の空気を束の間忘れられるような読書の対象としても最適の1冊なのです。

まとめ

猫好きのSFファンには特に人気の高い『夏への扉』ですが、そうでない人も波乱万丈の冒険小説として十分に楽しめます。最近のSF小説はマニアック過ぎてついて行けないという人でも、古くから読み継がれてきたこの作品なら読みやすいはずです。第一級のお仕事小説としても楽しめる本作の魅力は、発表から半世紀以上経った今も色あせていません。

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