春から初夏にかけての季節には、庭や河川敷などの笹藪でタケノコに似た新芽が出てきます。
そのへんに生えている笹のタケノコ、食べられないかな?
などと思っている人も多いのではないでしょうか?
笹にもいろいろな種類があるので、中には食用に適さない種類があるかもしれません。日本に自生している笹のタケノコは、たいてい食べられます。味は笹の種類によって差がありますので、
「笹のタケノコを食べてみたけれど、あまりおいしくなかった」
という場合があるかもしれません。
筆者が住んでいる東北地方は、笹タケノコで最も美味と言われる根曲がり竹(チシマザサ)が採れます。当地方で「タケノコ」と言えば孟宗竹のタケノコより、笹のタケノコを意味するくらいです。根曲がり竹のタケノコは高値で売れますので、タケノコ採りを副業にしている人もいます。
筆者も収穫物を販売こそしていませんが、根曲がり竹の笹タケノコを山で採ってきて食べたことが何度もありました。山では雑草のようにたくさん生えている笹の新芽にしては味も良く、味噌汁の具やタケノコご飯にすれば絶品です。
そこで今回は「笹のタケノコは食べられるのか?」をテーマに、実際にどれくらいの値段で売られているのか調べてみました。ただで手に入る笹のタケノコで食費を節約できれば、スーパーで他の食材を買うお金を稼いだのと同じことになります。
笹のタケノコ(笹の子)は食べられる!
笹のタケノコも竹のタケノコと同じく食用にされていて、出たばかりの新芽は「笹の子」とも呼ばれています。笹の子の味は種類によってかなりの差がありますので、食用に適する種類の笹があれば適さない笹もあるというわけです。
日本各地にはおよそ50種類ほどの笹が自生していて、春から夏にかけての季節になると新芽を出してきます(中には秋に新芽を出す種類もあるとか)。笹は繁殖力が旺盛な植物だけに、庭や畑では雑草として嫌われがちです。
河川敷や山林でもたくさん生えていますが、パンダと違って人間は笹の葉を普通食べません。タケノコの部分だけでも食用になるとすれば、季節限定で食費が大いに節約できるようになるはずです。
笹の種類によっては、食用にあまり適さないものもあります。観賞用として庭によく植えられているクマザサ(隈笹=葉の縁が白くなるのが特徴)は、「タケノコを食べる」という話をあまり聞かない種類の笹です。
同じようにクマザサと呼ばれる笹でも、「熊笹」という当て字で俗称されている笹には複数の種類があります。熊笹というくらいですので、いずれも「熊が出そうな山」に生えるタイプの笹です。チシマザサやチマキザサ・クマイザサ(九枚笹)といった種類の笹が、熊笹として総称されている笹に含まれます。
この熊笹に生えた新芽(タケノコ)であれば、食用にも十分に耐えるはずです。笹のタケノコは鮮度が落ちやすく、採ってから時間が経つと硬くなってエグみが出てきます。おいしくいただくには、採ってからできるだけ早く調理することをおすすめします。
メダケはニガタケ(苦竹)の別名を持つだけに、タケノコを食用にするには十分にアク抜きをする必要があります。ヤダケ(矢竹)のような竹に近い大型の笹も、普通はタケノコを食用にしません。食べられないことはないかと思いますが、食用にされて来なかったということは、食べるのに適さないほどまずいと思った方がいいでしょう。
一番美味なのはチシマザサ(根曲がり竹)のタケノコ
多くの種類がある笹の中でタケノコ(笹の子)が最も美味だと言われているのは、「根曲がり竹」や「姫竹」の異名を持つチシマザサ(千島笹)の新芽です。日本では北海道から本州の一部に自生し、本州では日本海側の各県や東北地方・北関東・長野県にかけて分布が見られます。
北海道では孟宗竹のような竹が生えないため、「タケノコ」と言えばこのチシマザサの新芽を意味するほどです。筆者が住む東北地方でも、チシマザサの新芽は「タケノコ」の名で山菜の一種とされています。
チシマザサは冷涼な気候を好み、本州の分布域は標高1,000m前後の高地が中心です。「根曲がり竹」の別名を持つように、チシマザサの根元は豪雪にも耐えられるように大きく曲がっています。根曲がり竹のタケノコも斜め横向きに生えるのが特徴で、成長するに従って上の方に曲がって伸びていきます。
チシマザサのタケノコはエグみが少なく、採れたては柔らかでとても美味です。アクもほとんどないため、皮をむいたものをそのまま味噌汁に入れて食べられます。
チシマザサのタケノコは、採れたての新鮮なうちなら生でも食べられるほどです。タケノコ採りをしていて道に迷った人が、採ったタケノコを生で食べて飢えをしのいだという話も聞きます。
笹タケノコが採れる季節
チシマザサ(根曲がり竹)のタケノコが採れるのは、5月から6月にかけての季節です。場所によってはもっと早くから新芽が出るところもありますが、どちらかと言えば春より初夏の山菜というイメージがあります。
味はチシマザサより落ちますが、他の種類の笹もタケノコ(笹の子)が採れるのは5月頃が中心です。孟宗竹など竹のタケノコは4月頃が旬ですので、5月以降は笹のタケノコを中心にすれば長く収穫を楽しめます。
根曲がり竹のタケノコが採れる場所
タケノコが最も美味なチシマザサ(根曲がり竹)は、涼しい気候を好む植物です。筆者が住んでいる地域ではそのへんの低い山にも根曲がり竹の笹が生えていますが、タケノコが出てきてもあまり食用にはされていません。
笹の子は竹のタケノコより細いだけに、皮をむくと中身がだいぶ減ってしまいます。太くて大きい笹の子の方が、食べごたえがあって味も良いです。
チシマザサのタケノコも他の笹や竹と同じく、地中に張り巡らされた地下茎から新芽を出してきます。同じ地下茎から前年以前に芽を出して成長した「親竹」が大きい笹ほど、新たに出てくるタケノコも太くて大きいのが多いです。
丈が高くて根元が極太の笹を見ると、「タケノコの時代もさぞ太かっただろうな(今はもう育ちすぎたけど)」などと想像してしまいます。太いものでも細いものでも皮の部分の厚さはそれほど変わりないだけに、太い笹タケノコほど中身が多く柔らかいはずです。根曲がり竹で良質なタケノコを見つけるには、できるだけ大きく育った笹の根元を探してみるといいでしょう。
標高の高い場所ほど気候が涼しく根曲がり竹の生育に適しているため、笹も大きく立派に育ちます。根曲がり竹の良いタケノコをたくさん収穫するには、人里離れた山奥に入っていく覚悟が必要です。北海道は本州より気候が冷涼なだけに、平地でも良質なタケノコが採れます。
笹タケノコは高く売れる?
当地方では毎年5月から6月頃になると、農産物直売所や朝市などで笹のタケノコが売られるようになります。インターネット上でもメルカリやYYahoo!オークションで、笹タケノコが数多く出品されている状況です。
竹のタケノコは2,000円前後で完売となっている例も多いですが、重量は5kgから10kgという出品が多くなっています。1kgあたりにすると500円前後が、メルカリやYahoo!オークションで売れているタケノコの平均的な相場です。
笹のタケノコは1,000円台で完売している例が多いものの、重量は1kg前後という例が目立ちます。1kgあたりの価格に換算すると1,000円以上になる例が多く、竹のタケノコより全般に高めの水準です。
笹の子は竹のタケノコより1本1本が小さいだけに、1kg分を集めるのにかなりの手間がかかります。鍬などを使って竹のタケノコを掘り出すのも結構な力仕事ですが、大きいものだと1本で1kg以上です。笹のタケノコの方が重量あたりに費やす採取の労力が大きいことから、1kgあたりの価格も竹のタケノコより高くなっているものと推定されます。
メルカリでは送料を出品者の側で負担するのが一般的ですので、収益を多く残すには重量が軽いほど有利です。したがって笹のタケノコは、竹のタケノコより収益性が高い商品になり得ます。
実際に筆者が住む東北地方では、根曲がり竹のタケノコが「儲かる山菜」として人気を集めているほどです。産地として知られる山には5月から6月のシーズンになると、タケノコ採りの車が早朝から行列を作ります。販売目的で山に入っている人も少なくないと見られます。
笹タケノコ採取の注意点
庭に生えている笹からタケノコを収穫するならともかく、山や河川敷で笹タケノコを採取する場合はいろいろと注意点もあります。中でも美味なチシマザサ(根曲がり竹)のタケノコを採取するには、大型の株が生えてるような場所で密生した笹藪に入っていく覚悟が必要です。
良質なタケノコを収穫しようと思えば思うほど、危険やリスクが生じることになります。笹タケノコを採取する際の注意点をまとめてみました。
遭難に注意
チシマザサの良質なタケノコが採れるのは、背丈を超えるほど大きな親竹(成長した笹)の周辺です。筆者がタケノコ採りをする際にも大きく育った笹の藪に入っていって、根元付近を探すようにしていました。
笹の繁殖力は極めて旺盛で、高地のように冷涼な気候下では大規模な群落の藪を形成します。登山道や遊歩道の道端でもタケノコが見つかることはありますが、収量を増やすには道なき道にも入っていかなければなりません。
タケノコ採りに夢中になっていると方角がわからなくなり、元の道に戻れなくなってしまいます。5月から6月にかけてのタケノコ採りシーズンには、山で遭難した事故のニュースが毎日のように報じられるほどです。無事に保護された例もありますが、残念ながら命を落としてしまった人も少なくありません。
筆者も10年以上前にタケノコ採りをしていて、帰り道がわからなくなったことがありました。背丈を超える笹の藪に四方を囲まれてしまうと、方向感覚が麻痺してしまいます。
元の道に戻ろうとして逆方向に進んでしまう場合もあり得るだけに、焦れば焦るほど深みにはまってしまうのが山の怖いところです。2人以上で行動し、互いに声を掛け合いながら位置を把握するという手もあります。笹の藪に入る際にはロープなどを使って帰り道を確保するなど、遭難を防ぐ対策を講じておくことといいでしょう。
筆者の場合はそれほど深入りしないうちに気がつき、太陽の方角を頼りにして元に道を発見できました。遭難しかけて以降は自重し、道から大きく外れた場所には入らないように注意しています。
熊にも注意
チシマザサのタケノコは人間が食べても美味なくらいですので、山に生息する熊にとっても大好物です。良質なタケノコの採れる笹藪には、熊が潜んでいる可能性があります。背丈を超える笹がびっしりと密生した藪は見通しがきないだけに、互いに接近してもなかなか気がつかないものです。
熊はもともと臆病な動物ですので、遠くで人間の姿を認めた場合はたいてい向こうから逃げてくれます。お互いに気がつかないまま笹藪でばったり遭遇するのが、熊に襲われる最も危険なパターンです。
予期もせずいきなり人間が目の前に現れた場合、混乱した熊は恐怖のあまり過剰な防衛反応に走ります。鋭い爪で顔や頭を攻撃されると大怪我が避けられず、最悪の場合は命を落としかねません。特に近年は全国で熊の出没が相次いでいて、チシマザサのタケノコが採れる地域ほど熊による被害が増えている状況です。
山で笹タケノコ採りをする際には、熊よけの鈴やラジオを鳴らす対策が効果的とされています。見通しがきかない笹藪の中でも、音で人間の接近を知らせる効果が発揮できるからです。万が一熊と遭遇してしまった場合に備えて、唐辛子スプレーなどの撃退グッズも用意しておくといいでしょう。
タケノコ採りに許可が必要な場合も
笹タケノコは庭や河川敷でも見つかりますが、食用に適した種類の笹は国有林や私有地の山林に多く生えています。自分の所有地以外の場所で笹タケノコを採取するには、基本的に所有者や管理者の許可が必要です。
国や自治体が管理している河川敷は河川法の対象となるため、個人の利用範囲であれば許可を得なくても植物を採取できます(一部で例外もあります)。
国有林に生えている植物を勝手に採取するのは、厳密に言えば森林窃盗罪に該当する行為です。これも個人の利用範囲にとどまっていれば、摘発されずに見逃されています。法律に違反するのが心配な場合は、個人の利用範囲でも管轄の役所に問い合わせてみるといいでしょう。
笹タケノコ採りがしたい場所が私有地の場合は、目的に関わらず土地所有者の許可が必要です。販売目的で笹タケノコを大量に採取しようとする場合は、河川敷や国有林であっても管理者の許可を得る必要があります。
まとめ
そのへんに生えている笹でも、笹の種類によってはタケノコ(笹の子)が食べられる場合があります。基本的にどの笹の子でも食べられないことはありませんが、食用に適さない種類だとはっきり言ってまずいです。苦竹の別名を持つメダケのように、よほどしっかりアク抜きをしないと苦くて食べられない種類もあります。
筆者が住む地域で採れるチシマザサ(根曲がり竹)のタケノコはエグみが少なく、笹タケノコの中では最も美味な種類です。それもある程度標高の高い山地で大きく育った株の根元を探さない限り、上等な笹タケノコはなかなか手に入りません。
孟宗竹などのタケノコと比べても希少価値が高いせいか、笹タケノコは1kgあたりの価格が高値で売れやすいです。他人の土地で販売目的の笹タケノコを採取する場合は、管理者や所有者の許可を得ておくといいでしょう。許可を得て採取した笹タケノコが高値で売れれば、季節限定の副業にもなり得ます。