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副業時間の管理に関する国の方向性が判明

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2019年7月下旬に「副業時間は自己申告」という見出しの記事が新聞やニュースサイトで報じられました。比較的地味な扱いだったせいもあって、記事の持つ重要性に気づかなかったという人も少なくありません。このニュースは厚生労働省の有識者検討会が出した報告書の内容について報じており、副業時間の管理に関して今後の法改正も視野に入れた国の方向性が示されています。

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1.副業時間に関する厚生労働省の検討会で問題が浮き彫りに

厚生労働省で副業のあり方を議論する検討会が行われた結果、このたび報告書がまとめられました。検討会では有識者の意見交換だけでなく、労働者を雇用する側の企業や使用者団体・労働者団体からもヒアリングを行った上で、公正な視点から副業のあり方が議論されています。PDF形式で公開されている報告書は厚生労働省のHPから誰でもダウンロードできますが、お役所的な堅い内容だけに読み通すのは骨が折れるものです。以下にその概要を紹介します。

副業時間を自己申告とした理由

ヒアリングと議論を進める中では、副業時間に関するさまざまな問題点が浮き彫りにされました。現行の労働基準法では労働者の健康を守る目的から、複数の事業所に雇用されている人の労働時間を合算した上で管理するものと規定されています。やむを得ず残業をさせる場合でも1日8時間週40時間という法定労働時間を上回る分については、時間外手当や休日手当の形で割増賃金を雇用主が支払わなければなりません。

このような労働基準法の規定を厳密に適用しようとすれば、副業の分まで含めた労働時間をどのように管理していくかという点が問題となってきます。企業へのヒアリングでは副業まで含めた日々の労働時間管理を徹底させるのは実務的に困難という回答が多数を占め、労働者の自己申告を前提とした上で事業所ごとに労働時間を管理するという1つの方向性が示されました。

今回の報告書を受けてリベラル系の報道では「副業の労働時間通算せず」「長時間労働を助長」といった報道がされています。複数職場の労働時間を通算することを義務付けた現行の労働基準法が改正されれば、副業の労働時間を通算せずに事業所単位で労働時間を管理できるようになるのも事実です。現時点でそれらは決定事項ではなく、あくまでも「考えられる選択肢」の1つとして報告書に記載されているに過ぎません。

とは言え将来的に労働基準法が改正されて労働時間の通算に関する規定が削除された場合、過労死ラインを超えるような長時間労働の抑止力も弱まるのではないかという懸念の声もあります。過重労働を抑制するはずの制度改革がかえって長時間労働を助長するような事態を招きかねないとして、労働者団体側は強く反発しています。

2.副業時間を自己申告するメリットとデメリット

以上のような議論を経て副業時間を自己申告するという方向性が定まったわけですが、一種の妥協案とも言えるこの意見にも疑問の声が上がっています。企業が副業分も含めた従業員の総労働時間を把握するのに自己申告を利用すれば、会社側としても事務手続きで楽になるのは事実です。政府が副業推進に舵を切った今も依然として副業解禁に踏み切れないでいる企業では、「本業がおろそかになる」「情報流出が心配」といった理由に加え、「労働時間の管理が難しくなる」という理由を挙げています。

副業時間を自己申告とする問題点

副業解禁がなかなか進まない背景には前述のような労働基準法の壁があって、現行の制度では副業分まで含めた労働時間を管理するのでは会社側の負担が大きすぎるという点も否定できません。本業と副業を合算した正確な労働時間を把握するのが実務的に困難なため、副業解禁が思うように進んでいないのが現状なのです。

副業時間を従業員の自己申告制とすればそうした問題も解決するかのように見えますが、自己申告は必ずしも信用できるとは限りません。副業している事実だけを報告しても、副業に費やしている時間を会社に教えたくないという人は少なくないものです。長時間労働を注意されたくないばかりに実際の副業時間より少なく申告したり、逆に会社の残業をしたくないという理由で実際より多く副業時間を申告する場合も考えられます。

会社が従業員の副業時間を正確に把握しようとすればするほど、プライバシーの領域にまで踏み込むことになりかねません。その点で自己申告制は労働者のプライバシーが保たれる点がメリットとは言え、検討会に参加した労働者団体からは労働時間の把握が甘くなるという批判的意見も出されました。

3.労働時間の自己申告は雇用契約の副業だけが対象?

今回の検討会で議論の対象となったのは雇用による働き方が中心で、非雇用の副業については報告書の最後の方で数行程度言及されているに過ぎません。雇用契約を結ぶアルバイトやパートは時給単位で給料が支払われるのが一般的なため、副業に費やした労働時間も容易に算出可能です。実際の副業はそうした雇用による働き方だけでなく、業務委託契約や個人事業・投資などさまざまな稼ぎ方が考えられます。確実に収入が得られる点では雇用による副業の方が有利ですが、副業禁止の会社でこっそり副業するような場合は雇用されない働き方の方が発覚しにくいと言えます。

非雇用の副業は副業時間の自己申告が困難

例えば細切れの空き時間をうまく利用しながらブログを運営して広告収入を稼いでいるような人の場合は、収入を得るのに費やした正確な労働時間を算出するのは困難です。さまざまなルートで安く仕入れた商品をAmazonやネットオークションで転売しながら副業収入を稼いでいる人もいれば、自分の得意分野を生かした教室を自宅で開催して収入を増やしているという副業講師も少なくありません。クラウドソーシングで記事作成やデータ入力・アプリ開発等の仕事を個人で請負っている人も空き時間を活用しているような例が多く、時間単価制でない限りは正確な副業時間を自己申告するのが難しいものです。

そうした非雇用の副業で得た収入は確定申告の際にも給与所得ではなく雑所得に分類されるため、税制上優遇される給与所得控除が適用されません。現行の労働基準法で合算の対象となっているのは、確定申告の給与所得控除と同じくアルバイトやパートなど雇用契約を結ぶ副業の話です。雑所得に分類されるような副業は労働時間と収入金額が必ずしも比例しないため、すべての副業に対して労働基準法を厳密に適用するには無理があります。

どのような副業でもお金を稼ぐにはある程度の労力が発生し、本業の仕事と合わせて長時間労働になると健康被害のリスクが高まる点では雇用による副業と変わりありません。現状の法制度ではそういった種類の副業まではカバーしきれず、あくまでも雇用する側の企業にどの程度まで責任を負わせるかという観点から議論が進められているような印象も受けます。

4.将来的な法改正で副業収入が増える可能性は?

今回の報告書では割増賃金に関する提案もいくつか紹介されていて、その中には注目すべき記述も見られます。例えば以下のように書かれた提案は、将来的な法改正で副業収入が増える可能性を示している点で見逃せません。

労働者の自己申告を前提に、通算して割増賃金を支払いやすく、かつ時間外労働の抑制効果も期待できる方法を設けること。
引用元:「副業・兼業の場合の労働時間管理の在り方に関する検討会」報告書(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/000536311.pdf

副業時間を自己申告することで割増賃金が支払われやすくなるように労働基準法が改正されれば、少なくともアルバイトやパートの副業は収入増につながる可能性が出てくるのです。

法律の厳格化が副業にマイナスとなる可能性も

実際には思惑通りに事が運ぶとは限らず、副業の受け入れ先となる企業の側で人件費節約の自衛策を打ち出してくる可能性も否定できません。パートやアルバイトの雇用契約で人件費が増大するのを避けようと思えば、働く人の権利が保護されていない業務委託契約へと求人を切り替えることもできるのです。

雇用による副業を保護するための法律を厳格化すれば副業の非雇用化につながり、副業を行う人が労働法制で保護されなくなるというジレンマがあります。今後は労使の代表が話し合う労働政策審議会が開かれ、そうした課題の解決に向けた具体的な議論が進められる予定です。その中で雇用によらない働き方の副業がどう扱われるかという点も、注目すべきポイントとなってきます。

5.現状では自分で健康管理するのが原則

労働基準法改正に向けた政府の取り組みはまだまだ始まったばかりで、副業時間の管理に関しては法整備が追いついていないのが現状です。法律が整備されるまでは副業時間を自己管理し、健康に害を及ぼすほどの長時間労働に陥らないよう注意していかなければなりません。

副業時間を会社に自己申告することで収入を増やせる可能性があるのは雇用による副業に限られそうですが、非雇用による副業の中には自由な働き方が可能な仕事や楽しみながら収入が得られる仕事も多くあります。雇用にはこだわらずに趣味と実益を兼ねるような副業を選んだ方が、健康を害することなく収入増を実現しやすいとも言えます。

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