食品や光熱費などの値上げが相次いで生活費が足りなくなり、治験に参加して急場をしのごうとする人が出てきています。短期間で効率的に稼げる高額バイトとして紹介されることも多いだけに、治験は副業の一種としても注目の的です。
治験ボランティアは医療の進歩に貢献できる点で重要な役目ですが、健康リスクのある危ない仕事のようなイメージも持たれがちです。副業としてはまだ一般的とは言えない治験について、謝礼金の相場や被験者に選ばれるための秘訣も含めた基本情報をまとめてみました。この記事を読めば治験に対する誤解が解消され、収入減のピンチを乗り切るヒントが得られます。
そもそも治験を副業にすることは可能？
治験とは薬や医療機器などの有効性と安全性を確認するために行われる臨床試験の1つで、厚生労働省の承認を目指す新薬が試験の主な対象です。ジェネリック医薬品や特定保健用食品・機能性表示食品など、新薬以外の薬やサプリメント類を対象とした臨床試験も行われています。治験には特定の病気を患っている人を対象とする案件や子ども向けの薬を対象とした案件もあって、必ずしも健康な成人を対象とする案件だけではありません。
一般的には「治験バイト」とも呼ばれていますが、被験者に支払われるのは給料や報酬ではなく「負担軽減費」です。治験そのものは有償のボランティアとして募集され、参加する間に他の仕事ができない補償を含めた謝礼金が対価として支払われます。
治験には通院で済む短期間の案件もあれば二泊三日など入院を要する案件もあって、1ヶ月以上を要する長期間の入院案件も珍しくありません。治験に申し込むと事前にさまざまな検査が行われ、健康に問題ないと判断された人が被験者に選ばれる仕組みです。申し込んでも必ず選ばれるとは限らない上に、一度被験者となった人は次回の治験まで数ヶ月空けなければなりません。
長期間の入院を伴う治験に参加できればまとまった収入を得られますが、安定して稼ぎ続ける副業の手段としては微妙な面があります。治験の多くは平日に実施されるため、一般的なサラリーマンの副業には不向きです。それほど長期間の入院が必要でない案件なら有給休暇取得で対応も可能とは言え、治験はどちらかと言うと自由のききやすいフリーランスや学生向きだと言えます。
治験でもらえる謝礼金の相場
2015年上半期の第153回芥川賞は又吉直樹さんの『火花』受賞が大きな話題を呼びましたが、同時受賞した羽田圭介さんの『スクラップ・アンド・ビルド』には治験に関する言及が見られます。この小説は新卒後5年間勤めたカーディーラーの会社を退職し、職探しをしながら認知症の祖父を介護する28歳の男性を主人公とする物語です。
独学で行政書士資格試験に合格するための勉強に励む主人公は無職生活が7ヶ月続いていますが、お金にはそれほど困っている様子がありません。彼には会社員時代の貯金に加え、「17泊の治験で稼いだ56万円がある」という設定です。
17泊という長期の入院を要する治験とは言え、56万円の謝礼金がもらえるとしたら滅多にない高額な案件です。これはフィクションの話ですが、実際の治験では1日あたり1万円から2万円程度が謝礼金の平均的な相場と言われています。
長期入院を要する案件ほど謝礼金が高額になる傾向も見られるだけに、17泊で56万円というのも非現実的な数字ではありません。通院タイプの治験だと1回あたりの謝礼金が7,000円～1万円ほどが平均的な相場ですが、入院タイプで多い2泊3日の例では6万円から10万円ほどに相場が上がります。
治験ボランティアに応募する方法
治験に参加するボランティアやモニターは医療機関などで随時募集していますが、普通の求人サイトには掲載されていません。治験を専門に扱う案件サイトというのがいくつか存在し、会員登録することで案件を紹介してもらえるようになります。
治験を仲介している代表的な案件サイトは以下の通りです。
登録した案件サイトで応募したい治験に申し込めば、指定された医療機関で医師の診察と事前健康診断を受けられるようになります。健康診断の結果は１週間ほど後に判明し、被験者に選ばれた人だけが治験に進めるという仕組みです。
治験の副業で注意すべきポイント
治験ボランティアはアルバイトの仕事と違って、お金を稼ぐために労働が必要になるわけではありません。病院でただ寝ているだけでお金がもらえる楽なバイトのようにも言われていますが、いろいろと制約が多い点には注意が必要です。
治験の参加日は自分の都合で変えることができず、実施する医療機関が指定したスケジュールに合わせなければなりません。同じ治験に参加する面識のない他人と相部屋の形で長時間過ごす形となるため、集団生活が苦手な人には不向きな面もあります。1日に何度も採血や採尿などを行って薬の吸収の仕方や排出の具合を調べる例が多く、そうした検査の障害となるお酒やタバコは我慢しなければなりません。
特定疾患のある人を対象とする治験を除き、被験者は人並み以上に健康であることを求められます。病院内は空気が乾燥していて夜間などは結構冷えるせいか、入院タイプの治験で2日目に風邪をひく人も少なくありません。治験中に風邪をひいたりしたらその時点で終了となってしまいますので、最後まで役目を果たすには健康管理が重要になってくるのです。
治験の薬が健康に及ぼす影響は？
治験で謝礼金以上に気になるのは、薬の副作用で健康に悪影響が出ないかどうかという点です。新薬の治験では人間にその薬が使われるのが初めてとなるため、予想外の副作用が生じる可能性もゼロではありません。とは言え治験の前には動物による入念な非臨床研究が行われ、安全性が確認された薬だけが治験に使われる仕組みです。
治験で重篤な副作用が生じる可能性は低いと見られますが、万が一健康被害が生じた場合でも速やかに治療が受けられます。副作用が重いことで知られる抗がん剤の治験は、健康な人ではなくがん患者を対象に実施されるの一般的です。新薬の治験で副作用が生じても軽い症状が大半ですが、体調に変化が出るリスクを頭に入れて参加する必要はあります。
病気やケガで入院した経験がない人にとっては、入院タイプの治験で病院に寝泊まりするだけでも結構なストレスです。健康に自信がある人でも慣れない病院生活で体調を崩すことはあり得ますので、治験に参加する前から規則正しい睡眠を心がけるなどの健康管理が欠かせません。
被験者に選ばれる秘訣
治験を扱うサイトに登録して案件に申し込んでも、被験者に必ず選ばれるとは限りません。謝礼金が高額な案件は人気があるので応募者が殺到し、事前健康診断の段階で落とされる人も多く出てきます。被験者に選ばれなかったとしても5,000円程度の謝礼金がもらえる上に、通常なら5,000円から1万円程度かかる健康診断を実質無料で受けられる点は大きなメリットです。
とは言え治験を副業にしようとする人にとっては、健康診断だけで終わってしまうのは決して満足できる結果ではありません。高額の謝礼金を受け取るには採血・採尿・心電図などの事前検査で健康体を証明し、被験者に選ばれる必要があります。
特に重要なのは血液検査で、中性脂肪やコレステロールなどの数値が高い人は被験者に適しません。事前検査の1週間くらい前から脂っこい食べ物を控え、和食や野菜中心のヘルシーな食事にすることで数値を改善できます。アルコールが血液中に残っていても被験者に選ばれにくくなりますので、数日前からお酒は控えるようにするのが鉄則です。
検査前から水分を多く摂取するように心がけていれば、尿を通じて老廃物の排出が進んで血液検査の数値も良くなります。検査当日も含め、1日1リットル以上の水や麦茶をこまめに飲むようにするといいでしょう。
健康診断の当日に睡眠不足で体調が悪いと検査で良い数値が出なくなりますので、日頃から規則正しい睡眠を心がける必要もあります。運動は健康に良いと思いがちですが、筋肉痛が生じると血液検査で炎症の値が高く出るという点には要注意です。事前検査の1週間前からは筋トレや激しいスポーツを控えると同時に、重い荷物も持たないようにする必要があります。
治験を副業にする方法まとめ
以上のように治験は薬の投与を受けるまでが結構大変ですが、事前検査をパスするコツがわかってくれば被験者に選ばれる確率も高くなります。健康な人を対象とした治験以外にも糖尿病患者や高血圧・気管支喘息・花粉症など、さまざまな病気を持つ人を対象とした募集も少なくありません。新薬の承認を目的とした治験だけでなくトクホなどの健康食品や化粧品を対象とした臨床試験モニターを募集しているサイトも多く見られます。
プロ治験者のように謝礼金だけで生活していくのは容易でありませんが、前述のようなリスクを承知した上で定期的に参加すれば副業にしていくことも可能です。被験者に選ばれる確率を高くして参加1回あたりに受け取る謝礼金を増やすためにも、自分に合った案件サイトへの登録は欠かせません。治験ボランティアは社会的貢献度が高い役目だけに、副業に収入以上の価値を求めたいという人にとってはやりがいのある活動です。
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