家庭菜園やガーデニングを趣味としている人の間で、野菜や園芸植物の栽培を副業にしようという動きが広がっています。それと同じように薬草の栽培も副業になりえますが、漢方の生薬として販売するのは難易度が高めです。
薬草を栽培だけでも許可が必要という誤解があるせいか、なかなか手を出せないでいる人も少なくありません。販売方法によっては許可が必要なケースもあるのは確かですが、薬草の栽培そのものは自由です。
販売には法律面の知識が必要になってきますので、薬草の栽培を副業にする方法について基本的な情報をまとめてみました。記事の後半では製薬会社で需要のある漢方の生薬や、フリマアプリで売れている薬草の種類についても紹介します。
薬草の栽培を副業にする方法
野菜や園芸植物を栽培して個人で販売し、会社勤務や主婦業の傍らで副収入を稼いでいる人は少なくありません。食用や観賞用植物の栽培が副業の手段になるのであれば、健康に役立つ薬草も同じように利用できるはずです。
山野に自生する薬草の多くは、古くから漢方の生薬として利用されてきました。園芸植物として人気の高い西洋由来のハーブも、民間療法に用いられてきた歴史があります。
野菜や果物・花卉類に比べると数は少ないものの、国内には薬草を栽培している農家も存在します。一般の個人が家庭菜園などを利用して薬草を栽培すれば、副業の手段になりそうなものです。
広く普及している野菜や果物などと違って、漢方の生薬となる薬草は栽培方法が確立されていない面もあります。したがって栽培の難易度は高めですが、販路さえ確保できれば副業にできないことはありません。
漢方薬の材料として販売することにこだわらなければ、メルカリなどを利用して個人客に薬草を販売するという手もあります。フリマサイトでは生薬以外のハーブ類も含め、多種多様な薬草が出品されている状況です。薬草の栽培を副業にする方法はその2種類に大きく分けられますので、それぞれの始め方について個別に解説していきます。
漢方の生薬として製薬会社に販売
薬草の栽培を副業にする確実な方法は、漢方の生薬を扱う製薬会社と契約を結んで納入するパターンです。本格的な薬草栽培に取り組んでいる農家と同じやり方ではありますが、その気になれば副業でもやってできないことはありません。当初はむしろ副業からスタートさせ、栽培ビジネスが軌道に乗ってきたところで専業化した方が安全と言えます。
漢方の生薬として需要のある薬用植物は気候に大きく左右される例が多く、安定した収量を確保できるだけの栽培技術がマニュアル化されているわけではありません。使用可能な農薬や農業機械が少ないために手作業が多くなりがちで、栽培には何かと手間がかかります。
生薬になる薬草は収穫できるようになるまで何年もかかる種類が多く、最初の数年間は収益ゼロの状態に耐える覚悟も必要です。種苗の品種や収穫物の品質をチェックする審査もありますので、審査に通らなければすべてが水の泡という結果になりかねません。いったん基準をクリアして納入できるようになれば、フリマサイトで薬草を売るよりも収益性の高い栽培ビジネスとなり得ます。
個人で製薬会社と交渉して販路を開拓するのはハードルが高いだけに、薬草栽培に力を入れている自治体では栽培農家への支援を行っています。栽培技術についても講習会を実施したりして情報を提供している自治体がありますので、興味がある人は周辺の役所に問い合わせてみるといいでしょう。秋田県や新潟県・福井県・岐阜県・大分県などの市町村で、薬用植物の栽培事業を実施している例があります。
個人対個人で薬草を売る
薬草の栽培を副業の手段にするもう1つの方法は、フリマサイトやネットオークションなどを利用して販売するやり方です。この場合は個人対個人の取引が基本になりますので、製薬会社に買取してもらうほどの売上は期待できないかもしれません。お小遣い稼ぎ程度の金額しか稼げない可能性もありますが、家庭菜園やガーデニングの延長でも薬草栽培を副業にできるという点で手軽な方法です。
ただし個人で薬草を販売するとなれば、薬機法(旧薬事法)や食品衛生法の制約も避けて通れません。出品の際のタイトルや説明文で薬用効果を強調すれば売れやすくなると思いがちですが、薬機法上はNGとなる販売方法です。たとえ薬草でも薬用効果を表現した売り方はできませんので、販促効果が下がっても無難な表現にする必要があります。
薬用効果を謳わない販売方法であっても、収穫した薬草を加工して販売する場合には保健所の許可が必要です。許可を得ていない状態だと、乾燥などの加工をせずに収穫したままの状態で薬草を販売するしかありません。付加価値を高めて売れやすくしようと思えば、面倒を厭わずに食品営業許可を得た上で乾燥などの加工を行うことになります。
個人で薬草を販売する手段として多く利用されているメルカリでは、両方のパターンで出品例が見られます。乾燥などの加工を施した薬草の方が手間をかけているせいか、出品価格も全般に高めの傾向です。
薬草の栽培に許可は必要?
以上のような方法で薬草の栽培を副業にすることは可能ですが、前項でも触れたような許可については注意が必要です。薬草の栽培で一律に許可が必要というわけではなく、ただ栽培するだけなら許可を得なくても構いません。
薬草の栽培を副業にするためには、育てた植物を何らかの形でお金に換える必要が出てきます。その過程で許可が必要になるケースと、不要のケースとに分かれてくるわけです。それぞれのケースについて詳しく解説していきます。
許可が必要なケース
漢方の生薬を医薬品として販売する際には、原則として医薬品販売業の許可が必要です。主に製薬会社や販売店などの事業者が取得すべき許可だけに、個人で許可を申請している人はほとんどいないものと推定されます。薬草の栽培農家が収穫物を乾燥させたりして加工し、契約先の製薬会社向けに出荷する場合は許可も必要ありません。
収穫した薬草を生薬として買い取ってもらう際には、栽培農家の側で葉や根などの有用部位を乾燥させた上で出荷するのが一般的です。出荷される生薬は薬効成分などの点において、日本薬局方と呼ばれる医薬品の規格基準書に記載された基準を満たしている必要があります。製薬会社の側でも独自の規格基準を設けているのが普通ですので、薬草を栽培しても必ず売れるとは限りません。
製薬会社で買取してくれなかった薬草でも、メルカリなどのフリマサイトを通じて消費者に直接販売することは可能です。すでに乾燥などの工程を経て加工している場合は、食品衛生法上の加工食品に該当してきます。乾燥野菜やドライフルーツ・干し椎茸などと同じ扱いとなりますので、販売する際には保健所への届け出が必要です。
屋外で天日干しにする場合は衛生面の問題から許可が下りにくくなりますが、屋内で乾燥機を使用する方法なら書類の提出だけで許可されるケースも少なくありません。販売に当たっては薬機法に抵触しないよう、「薬草」や「健康食品」ではなく「山野草」「野草茶」といった無難な名称で出品することをおすすめします。
薬用植物についてある程度の知識がある人なら、タイトルや説明文の薬草名を見ただけで薬用効果を期待してくれるはずです。購入者のヘルスリテラシーに頼るような売り方ではありますが、法律面でシビアな健康の分野で商売をするには仕方がない面もあります。
野菜や果物ほど多くありませんが、薬草の中にも品種登録されている例が存在します。種苗法の改正に伴って、登録品種を自家採種した種や苗の販売に育成者の許可が必要になりました。薬草も例外ではありませんので、登録状況を調べてから栽培することをおすすめします。
許可が不要のケース
保健所への申請が必要になってくるのは、薬草や野菜などを加工して販売する場合の話です。収穫した野草を乾燥させずにそのままの形で販売すれば、以上のような許可も必要ありません。根についた土を洗浄した上で販売する程度なら食品加工のうちには入りませんので、保健所での手続きが面倒という人にとっては選択肢の1つです。
薬草は葉や根などの有用部位を乾燥させることで、薬用効果が高まるという特徴もあります。薬草をそのまま薬膳料理の食材にする場合もありますが、乾燥させた上で利用するのが一般的です。その乾燥工程を販売者(生産者)の側で行うか自分で行うかによって、購入した人にとっては手間のかかり方が大きく違ってきます。
乾燥済みの状態で販売した方が商品としての付加価値が高まるため、高値で売れやすいのは確かです。許可の手続きを省略するために未加工の状態で販売する場合は、乾燥済みで売るより価格を安く設定する必要があります。収益性はどうしても低くなってしまいますが、数を多く売れば副業として成り立たせることも可能です。
薬草農家は儲かる?
ここからは副業に限らず専業の農家も含めて、薬草栽培の収益性について考察してみます。単純に計算すると「収益=売上-経費」ですので、薬草の栽培にかかった経費を上回る売上を得られれば収支は黒字になるはずです。
薬草栽培のノウハウは必ずしも確立されているわけではなく、扱う種類によっても経費や収益性が変わってきます。栽培にどれくらいの経費がかかるか一概には言えませんが、販売価格は需要と供給のバランスによって上下するのが普通です。栽培するのに費用や期間が多くかかる薬草ほど、高値で売れやすいものと予想されます。
2021年度の調査で購入実績のあった日本産生薬のうち、取引量で上位10種類の工場受入価格(1キロあたり)は以下の通りです。
- シャクヤク(芍薬)500円~1,500円
- コウイ(膠飴)1,400円~1,500円
- トウキ(当帰) 800円~2,200円
- ニンジン(人参)7,200円~15,800円
- サイコ(柴胡)1,500円~10,9200円
- センキュウ850円~2,500円
- オウギ(黄耆)500円~3,600円
- チンピ(陳皮)400円~700円
- コウボク(厚朴)400円~1,100円
- オウバク(黄柏)1,000円~2,650円
出典:生薬購入価格帯(2021年度実績)(日中生薬価格調査結果・日本産実績あり)(薬用作物産地支援協議会)
この中の「ニンジン」は野菜として流通しているセリ科の人参ではなく、「高麗人参」「朝鮮人参」とも呼ばれるウコギ科のオタネニンジンです。取引量は少なめですが、この他にもブシ(毒草として知られるトリカブトの塊茎)やセンブリ・サンショウ・オウレン・シンイ・コウジン・サフラン・ベニサラサなどは高値での買取実績が見られます。
漢方薬の原料となる生薬は、中国など海外からの輸入で大半を占めているのが現状です。需要の多い甘草(主にスペインカンゾウ)や冬虫夏草などは、2016年度の時点で日本産生薬の購入実績がありませんでした。
日本産の買取実績がないのはそれだけ栽培が難しい証拠だけに、国内で栽培している農家も極めて少ないものと推定されます。困難を乗り越えて国産品の栽培に成功できれば、製薬会社でも高値で買取してくれるはずです。
メルカリでも売れる薬草の種類
以上で紹介してきたのは、漢方の生薬材料として製薬会社に買い上げてもらう種類の薬草です。一般に薬草と呼ばれている植物は種類が非常に多く、西洋で古くから民間療法に用いられてきたハーブ類も含まれます。
それらの薬草は製薬会社だけでなく、個人の間でも薬草茶や食材として利用されてきました。スーパーでは売られていない種類が多いだけに、メルカリのようなフリマサイトにも数多く出品されています。自分で栽培して収穫物を利用したいという人の間では、薬草の苗や種もフリマサイトで人気の商品です。
出品の説明文で薬用効果をうたう表現はNGですが、山野草としての出品であれば問題ありません。トウキやシャクヤクなど製薬会社が買い上げているような薬草の出品例もあれば、ドクダミやヨモギなど身近な薬草の出品も見られます。ハーブ類を含めるとメルカリに出品されている薬草の種類は多岐にわたりますが、出品数の多い売れ筋商品は以下の通りです。
- トウキ(ヒュウガトウキ)
- シャクヤク
- ウイキョウ(フェンネル)
- クコ
- ゲンノショウコ
- ドクダミ
- ヨモギ
ハーブを栽培して販売する方法については、ハーブの栽培を副業にするには?ハーブを売るビジネスの始め方を解説で詳しく解説しておきました。
薬草栽培の副業まとめ
野菜の栽培を副業にする場合でも農協や卸売市場に納入する販売方法と、消費者に直接販売する方法の2通りがあります。薬草の場合は農協の代わりに製薬会社が主要な取引先となるだけに、副業で栽培ビジネスも難易度が高めです。
薬草は野菜や果物と違って薬機法の規制対象となるため、薬用成分などの点で審査基準をクリアする必要もあります。栽培を始めてから収穫できるようになるまで何年もかかる薬草が多く、収益化に時間がかかるという点も不利な材料です。農業の経験がある人ならともかく、初心者が副業でいきなり漢方の生薬栽培にチャレンジするのはリスクが大きいとも言えます。
まずは家庭菜園やガーデニングの延長で薬草の栽培を試み、うまく収穫できたらフリマサイトに出品してみるといいでしょう。自信がついたところで製薬会社とも交渉し、本格的な薬草栽培へと移行していくのが無難なやり方です。