高級車を専門にカーシェア事業を展開していた会社が経営破綻し、車に投資していたオーナーが途方に暮れるという事態になっています。高級車を購入したローン代金や任意保険料などはカーシェア会社が負担する仕組みでしたが、会社が倒産したことでオーナーに高額のローン返済義務が残されてしまったのです。
カーシェア会社の勧誘に乗せられて契約したオーナーの中には、購入した車を一度も見たことがなかったという人も少なくありません。高級車がすし詰めの状態となっている駐車場を見つけ出し、自分の車を探し回るオーナーたちの姿がワイドショーでも取り上げられました。
こうなってくると詐欺が疑われる商法でありながら、被害届を出そうとしても警察に受理されていない状況です。こうしたケースで詐欺罪が成立しにくい理由について、うまい儲け話に引っかからないための注意点と合わせて考察してみました。
カーシェアとは?
当ブログでは以前にもカーシェアリングについて取り上げ、家計を圧迫しがちな車の維持費をまかなうための手段として紹介しました。
駐車場運営会社などが提供するレンタカー型カーシェアリングのサービスとは違って、自分の所有する車を他人に貸し出して収入を得るのが個人間カーシェアリングです。Anycaに代表される個人間カーシェアリングでオーナーになるには、自分名義の車を所有していることが基本的な条件となります(他にも細かい条件あり)。Anycaのようなサービスを介して車の貸し借りをマッチングすることが可能になり、貸出料金から10%の手数料を引いた残りの金額がオーナーの収入となる仕組みです。
こうした一般的な個人間カーシェアリングのシステムを利用する限りは、今回のカーシェア会社倒産で被るような被害も普通はありません。利用していたカーシェア会社がサービスを停止した場合は、別のサービスに乗り換えることでカーシェア事業を続けることができます。
問題のカーシェア会社はレンタカー型のカーシェアリングに近い仕組みですが、貸出用の車は一般のオーナーに購入させて用意するという点で異なります。車の購入から維持費の支払いまでをこのカーシェア会社に大きく依存していたために、会社が経営破綻したことでオーナーにも甚大な被害が及んでいるのです。
うまい儲け話の実態
問題のカーシェア会社が手がけていたのは単なるカーシェアリング事業と言うよりも、カーシェア投資と表現すべき事業でした。すでに車を所有しているオーナーを募ってカーシェアリングのマッチングサービスに登録させるのではなく、車を所有していない人も含めた幅広い対象にカーシェア用の高級車購入を持ちかけていたのです。
車を購入したローンの代金はカーシェア会社から毎月振り込まれる仕組みで、保険料や車両税などの維持費もオーナーが自分で負担する必要はありません。ローンの代金や維持費は購入した高級車を貸し出すカーシェア事業でまかなえると称し、月に1万円程度の報酬も受け取れるという「おいしい話」でした。契約時には車購入費用の1割が支払われる上に、ローンを完済した7年後には車を100万円で買い取ってもらえるはずだったのです。
破綻したカーシェア会社の投資商法
一見するとオーナーにとってはリスクが少ない儲け話ですが、途中で会社が経営破綻してしまっては元も子もありません。カーシェア会社は車のローンや維持費を肩代わりするすることになりますが、それらの費用はすべてカーシェア事業で得た収益で補えるという説明でした。
月1万円の報酬や契約時とローン完済時に支払うお金まで含めると、会社側の収益がさらに減ってしまいます。それで事業が成り立つようにするには、オーナーから預かった車の貸し出しでよほど多額の収益を上げなければなりません。
しかしながらこのカーシェア会社は競合他社より大幅に安い料金で高級車を貸し出しいた実態があり、ビジネスモデルとしてはそれで経営が成り立つのかどうか怪しいところでした。経営破綻に至ったのもある意味で当然と言える流れだけに、カーシェア事業そのものよりもオーナーを募って高級車に投資させる方がビジネスの目的だったのではないかとも疑われます。
オーナーに購入させていた高級車はいずれも中古車で元の販売価格は当然高額ですが、騒動が勃発した後に駐車場で見つかった車の中には大きく破損しているような車両も少なくありませんでした。このカーシェア会社は中古の高級車を格安価格で購入し、倍以上の価格でローンを組ませてオーナーに購入させていた疑いもあります。
それらの車をカーシェア事業に使う以前の段階ですでに多額の収益を得ていたとすれば、一定の目的を果たしたところで計画倒産した可能性も否定はできません。計画倒産ではないとすれば事業の見通しが甘かったとしか言いようのない結果ですが、うまい儲け話で勧誘されたオーナーにしてみれば「騙された」という心境になるのも無理はないところです。
詐欺が立件される可能性は?
こうした商法は先に経営陣らが逮捕されたジャパンライフ事件にも通じる面があり、最終的に被害を被るのは多額のローン残債を背負うことになるオーナーたちです。健康器具の預託販売を利用したジャパンライフのオーナー商法でも、会社が倒産したことでオーナーたちは資金の回収が困難になっています。
ジャパンライフの例では当初から破綻が避けられないビジネスモデルでありながら自転車操業を続け、オーナーを勧誘していた点で詐欺に該当する商法です。今回のカーシェア会社も経営破綻に至った点では共通しますが、あくまでも事業活動に失敗した結果だと主張されてしまえば詐欺としての立件が困難になってきます。勧誘の際に説明された事業内容が実態と大きくかけ離れているとすれば、詐欺まがいの商法と言われても仕方がありません。
カーシェアリングは比較的新しいタイプのサービスだけに、ビジネスモデルとしてはまだまだ発展途上の面もあります。そうした中で車の購入に関する知識が乏しい若年層のオーナーを募り、信販会社も巻き込んで多額の投資資金を集める事業の危険性に疑いの余地はありません。オーナーから資金を募る方式の事業には大きな責任が伴うだけに、前例の少ないビジネスモデルの欠陥を経営陣がどこまで認識していたのかが焦点となりそうです。
カーシェア会社の破産で被害続出の理由まとめ
時代の最先端を行くカーシェアリングにはレンタカー型と個人間の2種類があり、経営破綻したカーシェア会社はどちらかと言うとレンタカー型に近いサービス形態でした。Anycaのような個人間カーシェアリングと異なり、カーシェア会社を介して高級車を購入したオーナーの中には購入した自分の車を一度も見たことがないという人も少なくありません。販売した商品の現物を顧客に渡さずに運用し、購入価格以上の利益を保証するという点ではジャパンライフとも共通する現金まがい商法の一例です。
それでもカーシェア会社が破綻の理由を単なる事業の失敗だと主張すれば、詐欺事件として立件するのは困難です。勧誘の仕方や車両の管理方法には大いに問題があると見なされますので、警察が本格的に動き出す事態となれば大規模詐欺事件に発展する可能性もあります。この事件が新手のオーナー商法と判断されるのかどうか、今後の成り行きが注目されるところです。
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