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農家は時給換算で379円?農業バイトより平均時給が安い理由を考察

農家は時給換算で379円?農業バイトより平均時給が安い理由を考察 転職
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少し前に稲作農家の平均時給がわずか10円という情報が出回って、農業の厳しさに改めてスポットが当てられました。スーパーの店頭から米が消えた「令和の米騒動」も、「米作りは儲からない」と言われる現実が背景にあります。野菜作りの農業は稲作より収益性が高いですが、他の業種より儲かる仕事とは限りません。

幸い農業に関しては、国が詳細な統計データを毎年集計しています。農水省の営農類型別経営統計に基づいて農家全体の収入を時給に換算した結果、労働時間1時間あたり「379円」という数字が算出されました。

一方で農業法人や農家が募集しているアルバイトの時給は、全国平均で1,100円前後の水準です。農家の平均時給と農業バイトの平均時給に大きな差があるのはどうしてなのか、農業の現状について考察してみました。

新規就農を検討している人はもちろんのこと、農業の仕事を経験してみたいという人にとっても、知っておいて損はない情報です。

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農家の平均収入は時給換算で379円?

時計と1万円札

農水省が公開している令和4年営農類型別経営統計(調査結果の概要)によると、全農業経営体の農業粗収益は平均で1,165.6万円でした。農業法人と個人経営の農家を合わせた全体の平均値です。農業粗収益には作物収入や畜産収入だけでなく、共済や補助金などの受取金も含まれます。

農業を営むには農業機械や設備費に加え、種苗購入費やさまざまな資材の購入にかかる費用も必要です。これらを合わせた農業経営費は、2022年の時点で1経営体あたり平均1,067.4万円でした。

農業粗収益から農業経営費を引いた残りの98.2万円が、最終的な収益となる農業所得です。農家の間でも経営規模にはかなりの差があるため、この数字だけでは多いのか少ないのかわかりません。

営農類型別経営統計(全農業経営体)には、1経営体あたりの自営農業労働時間が記載されています。2022年の自営農業労働時間は、全国の平均値で2、591時間でした。

農業所得98.2万円を自営農業労働時間2、591時間で割った数字が、農業経営体全体の平均時給「379円」です。最低賃金は2022年の時点でも961円でしたので、379円だと大きく下回る計算になります。

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稲作農家の時給は10円!?

農業の収益性は、栽培する作物の種類によっても差が見られます。畑作農家の農業粗収益は、2022年の調査時点で平均13、978、000円でした。農業経営費は11、750、000円ですので、農業所得の平均値は差し引き2、228、000円ということになります。

畑作経営の自営農業労働時間は平均3、211時間で、時給に換算すると693円という結果です。まだ最低賃金を下回る数字ですが、農業経営体全体の平均値よりは高いと言えます。

2024年になって「時給10円」という数字が大きくクローズアップされたのは、稲作経営の農家です。同じ2022年でも水田作経営に限った統計データによると、農業粗利益は1経営体あたり3、783、000円に下がります。

それでいて水田作経営の農業経営費は3、773、000円にも達しますので、農業所得の平均値はわずか10、000円にしかなりません。水田作経営の平均労働時間は1、003時間ですので、時給に換算すると9.97円ということになります。

稲作は畑作と比べてトータルの労働時間は少なく済みますが、稼げる金額が少ないわりに経費が多くかかるのが現状です。これまで米の市場価格が安く抑えられてきた一方で、米作りに欠かせない資材費や燃料費はここ数年で高騰しています。収益性が大幅に悪化した結果、稲作農家の平均時給がわずか10円という水準にまで低下してしまったわけです。

農家全体の平均時給が最低賃金を大きく下回ったのは、水田作経営が平均値を押し下げた結果でもあります。「令和の米騒動」を受けて、JAが農家に支払う米の概算金も大幅に引き上げられました。令和6年産の新米価格も大幅に値上がりしている状況ですが、稲作農家の平均時給は改善されるのではないかと見られています。

農業バイトの平均時給

以上のような統計データの数字を見ると、「農業の仕事は稼げない」と思いがちです。「農業に興味はあるけれど、稼げないならやめておこうかな」と思った人も少なくないのではないでしょうか?

農業の仕事で収入を得ている人は個人や法人経営の農家と、農業法人などに雇われて働くアルバイトに大きく分けられます。前述の営農類型別経営統計は、農業法人の経営者と個人経営の農家を合わせたデータです。

農業法人や個人農家に雇われたアルバイトの収入は、営農類型別経営統計の「農業所得」に含まれません。むしろアルバイトに支払われた給料は人件費の扱いで、「農業経営費」の一部です。

野菜の定植作業

求人検索エンジンのIndeedが集計したデータによると、日本での農作業の給与は2024年9月の平均で1,171円でした。この数字には正社員や契約社員も含まれますので、アルバイトの平均時給はもう少し低いと見るのが妥当です。

別の求人検索エンジンスタンバイに掲載された農業求人によると、アルバイト・パートの平均時給は1,166円となっています。アルバイト求人サイトのバイトルが集計した1,066円という数字は、農業に林業・漁業を加えたアルバイト・パートの平均時給です。以上のデータから、農業バイトの時給は全国平均で1,100円前後と推定されます。

2024年10月に改定される最低賃金は、全国平均で1,055円です。農業バイトの平均時給は最低賃金と同程度か、やや上回るくらいの水準にあります。営農類型別経営統計から算出した全農業経営体の平均時給が379円だったのと比較して、アルバイト・パートの平均時給はかなり高く設定されているのが現状です。

雇用契約を結んで働く限りは、雇用主は最低賃金を守る必要があります。不足しがちな労働力を確保するためにも、農家全体の平均より高い時給でアルバイトを雇わざるを得ない状況なのです。

農家手伝いの謝礼

雇用契約を結んで働くアルバイトとは別に、個人農家では知り合いに農作業の手伝いを依頼するのが昔からの習わしでした。農家の手伝いは雇用ではないため、都道府県ごとに決められた最低賃金は適用されません。労働の対価として食事や飲み物などを提供する他に、少しばかりの謝礼を現金で渡す場合もあります。

謝礼の金額を時給に換算すると、最低賃金以下だったという例は珍しくありません。筆者も友人の農家を何度か手伝いましたが、4月に稲の苗箱運びを手伝った際の謝礼は3日分で1万円でした。休憩時間を除くと合計21時間働いたことになるため、時給に換算すると476円です。

現金では最低賃金の半分程度しか稼げなかった計算ですが、農作業の合間には昼食やお菓子・飲み物などもご馳走になりました。帰りには夕食代わりの弁当も持たせられたので、友人も謝礼の他にお金をだいぶ使ったはずです。食事代が浮いたことを考えると、謝礼が少なめでも額面以上の価値があったと言えます。

軽トラの荷台に積んだ稲の苗箱

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人手不足の農家を支援するボランティアに応募すれば、農家に知り合いがいない人でも同様の体験は可能です。ボランティアとして農家の手伝いをすると、たいていは食事や飲み物の提供を受けることになります。有償ボランティアには謝礼も出ますが、金額は最低賃金以下という例が多いです。

ボランティアに近い形態のアルバイトとして、農家に住み込みで働く求人も募集されています。宿泊費や食費・光熱費などが控除されて給料が最低賃金以下になる場合もありますが、違法ではないという話です。

まとめ

軽トラの荷台から取り出した野菜の苗

農業の仕事をお金に換算すると、時給でいくらになるのかを検証してきました。筆者自身が経験した「農家の手伝い」には最低賃金が適用されないため、時給換算で476円という結果でした。自分で農業を営む個人の農家も、時給に換算すると最低賃金以下という人が多いものと推定されます。

農水省の営農類型別経営統計から導き出した数字上では、2022年の調査時点で平均時給は以下の通りです。

  • 全農業経営の平均 379円
  • 水田作経営の平均 10円
  • 畑作経営の平均 693円

これらの数字はあくまでも、統計データから導き出した平均値です。個々の農家の実態を必ずしも反映していない可能性もありますが、農業経営の厳しさは数字からも伝わってきます。

最低賃金以上の給料でアルバイトを雇うだけの余裕がある農家や農業法人は、全体のごく一部にすぎません。個人農家の多くは筆者の友人のように手伝いを頼んだり、ボランティアの支援を受けたりしてやり繰りしている状況です。

そんな中でも雇用契約を結んで働く農業バイトは、最低賃金以上の給料をもらえるという点で恵まれていると言えます。農業のアルバイトは全国の平均時給が1,100円前後で、他の業種のアルバイトと比べても遜色はありません。農業の仕事に最低賃金が適用されるかどうかで、1時間あたりの稼げる金額に大きな違いが生じているわけです。

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