養蜂の仕事と言えば養蜂場に就職する働き方を想像しがちですが、副業で週末養蜂に取り組む人が増えています。ビルの屋上やベランダなどを活用すれば、都会でも養蜂は可能です。
実際に週末養蜂を始めるには巣箱や専門の器具も必要になってきますので、蜂蜜の販売方法と合わせて基礎知識をまとめてみました。この記事を読めば、週末養蜂の副業は儲かるのかどうかが理解できるようになります。
副業の週末養蜂とは?
あらゆる昆虫の中でもミツバチは蜂蜜やローヤルゼリーなど有用な生産物を生み出すだけに、鶏や牛などと同じように家畜の一種として飼育されてきました。ミツバチの飼育を行う養蜂も畜産業の1つに数えられ、養蜂家は広い意味での農家に該当します。
養蜂で収入を得るには必ずしも専業にする必要があるわけではなく、栽培農家や会社員などの副業にもなり得る仕事です。平日は会社の仕事をこなし、土日の休日に養蜂の仕事を行う「週末養蜂」が静かなブームを呼んでいます。近くに蜜源がある場所に巣箱を設置しておけばミツバチが勝手に蜜を集めてくれるため、毎日付きっきりでなくても蜂蜜を収穫して販売できるようになるというわけです。
週末養蜂は趣味の延長と思われがちですが、販売方法を工夫すれば費用を上回る収益を残すことも可能になってきます。初期費用を回収して以降は収益が積み重なっていくため、家庭菜園で作った野菜を販売するのと同じように、趣味と実益を兼ねた副業の手段になり得ます。
養蜂を始めるのに許可は必要?
自分の所有地や借りた土地に巣箱を設置しても、飼育するミツバチは他人の土地や公有地にある草木から花の蜜を集めてくる可能性があります。養蜂家同士で蜜源を巡るトラブルにも発展しがちなだけに、行政がミツバチの飼育状況を把握するための法律が整備されてきました。養蜂振興法と呼ばれるこの法律の規定に従って、ミツバチを飼育する者はたとえ趣味の養蜂であっても管轄の都道府県に届出が必要です。
養蜂の飼育対象は主にセイヨウミツバチとニホンミツバチですが、以前はニホンミツバチを飼育するのに届出が必要ありませんでした。養蜂振興法の改正後はニホンミツバチの飼育にも原則として届出が必要になり、都道府県によって対応が異なる状況です。セイヨウミツバチを飼育する場合は必ず届出を行い、ニホンミツバチを飼育する場合は都道府県に確認した上で必要なら届出を行います。
収穫した蜂蜜を販売する場合は、採取した蜂蜜を無加工でそのまま販売するなら保健所への届出は不要です。蜂蜜に加熱などの加工を行って販売する場合は、食品衛生法に定められた食品加工に該当するようになります。
加工食品を販売するには、たとえ個人の副業であっても保健所の許可が必要です。許可を得るには専用の加工施設を用意する必要もありますので、蜂蜜販売のハードルが一気に高くなってしまいます。
非加熱・無加工のまま蜂蜜を販売する場合でも、賞味期限(通常は2年程度)の明記は必要です。蜂蜜を1歳未満の乳児に食べさせると、ボツリヌス菌による食中毒を起こす恐れがあります。蜂蜜を販売する際には加熱・非加熱に関わらず、そうした注意書きの記載も欠かせません。
週末養蜂に適した場所
養蜂に使うミツバチの巣箱は縦横の寸法が50センチ×40センチ(ニホンミツバチの巣箱は30センチ四方)ほどで、1メートル四方の場所があれば設置できます。近くに蜜源となる植物があれば、自宅の庭やベランダに巣箱を設置することも可能です。
自然豊かな山間部や郊外はもちろん、都会でも公園の草木や街路樹など蜜源となる植物は意外と多くあります。ミツバチは半径2キロほどの範囲を飛び回って蜜を集めてくれるため、最近はビルの屋上に巣箱を設置する養蜂業者まで登場しているほどです。
近くに蜜源となる植物が多ければ多いほど蜂蜜の収穫が増えやすいだけに、専門の養蜂業者は大規模な花畑に巣箱を設置しています。趣味の延長で週末養蜂を始める場合でも、庭付きの一戸建て住宅に住んでいる人は有利な条件です。家庭菜園の延長として畑の一角に巣箱を設置し、趣味の養蜂を楽しんでいる人も少なくありません。
マンションのベランダでも養蜂は可能ですが、集合住宅では近隣住人の理解が得にくい点で高いハードルがあります。一戸建て住宅でも住宅密集地では分蜂や糞害などの発生が予想されるだけに、近隣への配慮が欠かせません。
特に初心者はトラブルを避けるためにも、近くに人が住んでいないような環境で養蜂を始めるのがおすすめです。巣箱を一度設置したらできるだけ動かさないようにするのが基本ですので、最初の場所選びが重要になってきます。
空き地などを借りて巣箱を設置する場合は、適度な木陰があってじめじめしていない場所を選ぶのがポイントです。理想的な場所はすでに他の養蜂家が確保している場合もありますので、ミツバチの行動範囲となる半径2キロ以内に競合する養蜂場がないかどうか確認しておくといいでしょう。
養蜂に使う器具
ミツバチを飼育するための巣箱さえ用意すれば養蜂を始められますが、主要な生産物となる蜂蜜を効率的に採取するには他にもいろいろと器具が必要になってきます。蜂に刺されないようにするための装備も含めると、養蜂は何かと道具を使う仕事です。
ミツバチ飼育の基礎となる巣箱は19世紀頃に欧米で考案され、現在ではある程度標準化されています。セイヨウミツバチを飼育する際には、37センチ×48.6センチ×25.2センチという内寸の普通式巣箱を使用するのが一般的です。
自然の群れを誘導して巣を作らせるニホンミツバチの場合は、一回り小さい縦横30センチ高さ15センチほどの待ち箱を使用します。巣箱の材料には杉の板を使う例が多く、巣の成長に合わせて巣箱に重ねる継箱も必要です。
実際にミツバチが巣を作るのは巣礎を土台とする巣脾と呼ばれる枠で、巣礎シートは巣枠にハニカム構造の蜜蝋を塗って巣を作りやすくしてあります。普通式巣箱にはこの巣脾枠が10枚ほど入りますが、女王蜂が継箱にはいらないよにようにするための隔王板と呼ばれる仕切りも欠かせません。
この他にも巣枠の取り外しや巣箱の清掃に使うハイブツールと、煙を吹きかけてミツバチをおとなしくさせるための燻煙器は用意しておく必要があります。蜂に刺されないようにするための防護服は必須というわけではありませんが、顔を覆う面布や手袋は用意しておいた方がいいでしょう。
巣箱から蜂蜜を採取する際に、巣脾にしがみついている蜂を落とすための蜂ブラシもあれば便利な道具です。取り出した巣脾から蜂蜜を採取するための遠心分離機も、養蜂業を効率化する器具の1つに数えられます。ニホンミツバチを飼育している人の中には蜂蜜特有の風味を生かすため、遠心分離機を使わず自然に垂れた蜂蜜を採取している人も少なくありません。
週末養蜂を始めるのにかかる費用
巣箱以外にも用意すべき器具が多いせいか、養蜂は何かと費用がかかる趣味というイメージがあります。養蜂を始めるのに必須となる巣箱に関しては、ホームセンターから杉の板材を買ってきて自作することも可能です。DIYのスキルは求められますが、自分で作ることで完成品を購入するより半分以下の費用に収まります。
完成品の巣箱は専門店だけでなくAmazonや楽天市場でも売られていますので、「自分で作るのは苦手」という人におすすめです。価格は1万円台という例が多く、ニホンミツバチ捕獲用の箱は1万円を切る商品もあります。
巣箱と蜜蝋や教材がセットになったニホンミツバチの初心者向け養蜂キットも売られていて、価格は2万円前後です。ニホンミツバチの養蜂は野生の蜂を捕獲する方法だけに、週末養蜂を始める費用も安価に済みます。
蜂蜜の収穫量が多いセイヨウミツバチの養蜂を始めるには、巣箱だけでなく蜂そのものの購入も必要です。女王蜂と働き蜂に巣箱や養蜂器具がセットになった入門キットも売られていますが、販売価格は6万円前後に達します。養蜂器具を持っている人であれば、1万匹ほどの種蜂と巣箱のセットを約4万円で購入することも可能です。
巣箱を扱うのに必須の燻煙器や養蜂用の防護服は数千円程度で、遠心分離機は1万円台から売られています。Amazonや楽天市場では燻煙器や蜂ブラシ・蜂蜜ナイフなど、養蜂器具がセットになったツールキットも5,000円台から7,000円台で購入可能です。
養蜂の生産物
週末養蜂を副業にするには、ミツバチの飼育で得られる生産物を販売してお金に換える必要があります。以下のような品々が、養蜂業者で実際に商品化している生産物です。
- 蜂蜜
- ローヤルゼリー
- プロポリス
- 花粉(花粉荷)
- 蜜蝋
- ミツバチそのもの
ローヤルゼリーやプロポリス・花粉荷は健康食品の材料として一定の需要があります。ミツバチの群れそのものも農作物の受粉用として、農家からの購入が期待できる商品です。
ローヤルゼリーやプロポリスなどは採取するのに特殊な技術や機械を要し、商品化するまでに多くの工程を経る必要もあります。そうなると保健所の許可が必要な加工食品に該当してきますので、副業レベルの週末養蜂で売るには不向きな商品です。副業で養蜂に取り組んでいる人の多くは、最もポピュラーな生産物である蜂蜜の販売で収入を得ています。
蜂蜜の販売方法
蜂蜜も野菜や果物などと同じように農産物の一種ですので、販売方法も家庭菜園で収穫した野菜を売る場合とそれほど変わりありません。農産物の販売方法としては、以下のような例が考えられます。
- 道の駅や農産物直売所で店頭販売する
- 知り合いの洋菓子店やパン屋さんに買い取ってもらう
- 蜂蜜買取サイトで買取してもらう
- フリマサイトやネットオークションに出品する
- 楽天市場やAmazonなどの大手通販サイトに出店して販売する
- 個人でネットショップを開設して販売する
この中で最も手軽な販売方法は、メルカリやラクマなどのフリマサイトに出品する売り方です。特にメルカリは利用ユーザーが多いだけに、蜂蜜マニアの人にも商品を見つけてもらいやすくなります。
フリマ形式だけでなくオークション形式での出品も可能なヤフオクなら、希少価値の高い国産蜂蜜を少しでも高く販売するのに有利です。いずれも売上の全額が自分の収入になるわけではなく、6%から10%程度の手数料が売上から引かれます。
BASEやSTORES・カラーミーショップなどのサービスを利用すれば、個人でネットショップを開設することも可能です。それぞれ初期費用・月額料金0円のプランが用意されていて、売上から引かれる手数料もフリマサイトより低く抑えられます。ネットショップを開業する方法については、以下の記事で詳しく解説しておきました。
週末養蜂はどれだけ儲かる?
主に蜂蜜の販売で収入を得る週末養蜂を副業にしても、売上がイコール収益となるわけではありません。巣箱や専用器具などの購入費用がかかりますので、売上からそれらの経費を引いて残った金額が最終的な収益です。メルカリやヤフオクなどのプラットフォームを利用して蜂蜜を販売した場合は、販売手数料も売上から引かれることになります。
フリマサイトでは送料も出品者側で負担するのが一般的です。出品した蜂蜜が完売したと仮定して、年間の売上は「どれだけの量の蜂蜜を生産して販売できるか」にかかってきます。1つの巣箱から採取できる蜂蜜の量はミツバチの種類によっても異なりますので、セイヨウミツバチとニホンミツバチに分けて収益性を試算してみました。
セイヨウミツバチとニホンミツバチの違い
法人経営の養蜂業者で飼育例の多いセイヨウミツバチは、野生のニホンミツバチより採蜜量の多いところが特徴です。ニホンミツバチは1年に1回しか蜂蜜を採取できませんが、セイヨウミツバチなら何度も採取できます。
順調にいけば1群れで年間合計50kg以上の採蜜も可能なだけに、市販されている蜂蜜はほとんどがセイヨウミツバチ由来の製品です。養蜂家にとっては生産性が高い蜂と言えますが、飼育するには女王蜂を含む蜂の群れそのものを巣箱とともに購入する必要があります。
ニホンミツバチの採蜜量は1群れ年間3~5kg程度で、平均するとセイヨウミツバチの10分の1程度しか蜂蜜が採れません。セイヨウミツバチの蜂蜜は大量生産が可能で、近年は中国産の安価な製品が出回るようになりました。国産の蜂蜜は流通量が国内市場の5%程度で希少性が高いせいか、メルカリやヤフオクでも高値で売れています。
蜂蜜の出品価格は1,000円前後から1万円以上までさまざまですが、100gあたりの価格相場は数百円ほどです。特にニホンミツバチの蜂蜜は希少価値が高く、1kgの瓶入りが3本2万円以上で売れた例も見られます。仮に100gあたり400円で蜂蜜が売れたとすると、ニホンミツバチは1群れで年間15,000円前後、セイヨウミツバチは年間20万円ほどの売上になる計算です。ニホンミツバチの蜂蜜は高値がつきやすい上に、経費もセイヨウミツバチより少なく済みます。
採蜜量はその年によって異なり、農作物と同様に豊作の年もあれば不作の年もあります。セイヨウミツバチの購入費用が4万円とした場合、1群れから10kgの蜂蜜が採れれば元が取れる計算です。ニホンミツバチを飼育する場合に巣箱を自作すれば経費が安く上がるだけに、もっと少ない採蜜量で元が取れます。
飼育する群れの数を増やして養蜂の規模を大きくすればするほど、稼げる金額は単純計算で多くなるはずです。収穫した蜂蜜を売って得られる収益が1群れで年間15,000円としても、100群れを飼育すれば年収は150万円になるというわけです。
いずれの試算も飼育が順調にいって平均的な量の蜂蜜を収穫し、相場通りの価格で売れた場合の話です。さまざまな原因で採蜜量が少なかったり、思ったほど売れなかったりすれば、最終的な収益が試算を下回る可能性もあります。週末養蜂の初心者は費用のリスクが少ないニホンミツバチの飼育からスタートし、自信がついたところで採蜜量の多いセイヨウミツバチの飼育に挑戦してみるのが無難です。
副業の週末養蜂まとめ
週末養蜂を始めるには何かと費用がかかるだけに、飼育に失敗して群れを全滅させてしまうようなリスクも計算に入れなければなりません。飼育がうまくいって良質な蜂蜜が収穫できれば、市販品より割高な価格でも売れる可能性が出てきます。
養蜂はアルバイトの仕事と違って、働いた分だけ確実に稼げるとは限りません。儲かるかどうかは、その人の才覚しだいです。趣味と実益を兼ねた副業としては格好の気分転換になり得ますので、生き物の飼育が好きな人は週末養蜂への挑戦を検討してみるといいでしょう。