新型コロナウイルスのパンデミックによって世界中の経済が混乱に陥り、日本でも観光業界や飲食業界・エンタメ業界など多くの業種で仕事を失う人が続出しました。コロナ禍で収入が大きく減ってしまった人の間では、手持ちの貴金属類や高級ブランド品を売って現金に換えようとする動きも広がっています。金やプラチナなどの貴金属製品は装飾品や調度品にも使われてきた一方で、いざというときに換金できるという点では株や不動産などにも匹敵する資産なのです。
貴金属の買取を行う店舗では整理券を出して対応に当たるほどの活況を呈していますが、その背景には世界的な金相場の高騰という見逃せない事情があります。コロナ禍で金の取引価格が高騰しているのはなぜなのか、今後の見通しと合わせて最新情報をまとめてみました。今が本当に金の売り時なのかどうかという点についても、悪質な貴金属買取業者への注意点と合わせて解説していきます。
【2021年7月7日追記】砂金の買取に関する情報を追加しました。
金買取に走る人が増えている理由
貴金属類やアクセサリー・ブランド品などを買取に出す人が増えているのは、言うまでもなく新型コロナウイルスの影響で収入が減ってしまった人が相次いだことが最大の理由です。緊急事態宣言が発令されたことでイベントの中止や営業の自粛が相次ぎ、娯楽やレジャーの提供に従事していた多くの人たちが仕事を失ってしまいました。
営業を続けた店舗の中にも時短営業の影響で給料が減らされ、生活費を切り詰めなければならなくなった例は少なくありません。緊急事態宣言が解除された後も飲食業界や小売業界・観光業界ではコロナ以前の客足が戻らず、大規模なイベントやコンサートは再開のめどが経っていないのが現状です。
東日本大震災やリーマンショックを超える出来事となったコロナ禍の後遺症はまだまだ続くと見られ、感染拡大の収束が見通せない中で多くの人が今後の生活に大きな不安を抱えています。入ってくるお金が減ってしまったのであれば、手持ちの資産を売却して臨時収入を得ようとするのが当然の成り行きです。
自粛生活の中でクローゼットを整理したりして断捨離を行い、アベノミクス景気の恩恵を受けていた頃に購入したブランド品や貴金属類を手放そうとする人が相次いでいます。特に金貨や金の延べ棒などの金製品は買取に出せば高く売れるだけに、生活費や公共料金支払いの足しにするには十分な臨時収入です。ブランドバッグや財布・腕時計なども買取を行う店の選び方さえ間違えなければ、商品の状態や在庫の状況によっては高価買取の可能性があります。
世界的な金相場の高騰も一因
金買取に走る人が増えているのは、コロナの影響で減ってしまった収入の補填だけが理由ではありません。金の買取価格は世界市場における金相場とも連動しており、金の取引価格が上がれば買取価格も上昇し、下がれば下落する傾向があります。それ以外にも買取業者の個々の事情によっても査定額は上下しますが、金製品を売るのであれば金相場が上がったタイミングを逃さないのが高く売るコツです。
金相場は2000年代以降上昇傾向が続いており、特にここ数年は上昇ペースが顕著になっていました。金はあらゆる金属の中でも化学的性質が最も安定していて錆や腐食に強く、加工が容易で保存がきくことから安定資産とされています。
世界情勢が安定していて経済も好調な時期には投資マネーが株式市場に集中するため、金相場に大きな変動はありません。世界情勢が不安定になって経済が悪循環に陥ると株式相場が下落し、安定資産である金が買われて相場が高騰するという仕組みです。株価が大きく下落してしまうと株券は紙くずになってしまいますが、化学的性質が安定している金の価値は変わりません。
過去にも1973年のオイルショックや1990年に勃発した湾岸戦争、2001年の9・11同時多発テロなど、有事の際には金相場が高騰しました。今回のコロナ禍もそれらの出来事に匹敵する世界的な危機となっているだけに、同じように金相場の高騰が起きています。
世界市場において金はドル建てで取引され、日本では円建てに変換されて取引が行われることから、円高や円安の影響も無視できません。ここ数年にわたって日本における金の買取相場が上昇傾向にあったのも、アベノミクス効果で円安傾向が続いていたのが1つの要因です。
コロナ禍で日本経済も混乱に陥っているためアベノミクス効果もリセットされる可能性はありますが、今のところは世界的な金相場の高騰が優勢となっています。金の取引で国内最大手の田中貴金属工業の金買取価格を見ると、2020年6月の平均値で過去最高の6,554円を記録しました。こうした金相場の世界的な高騰を受けて国内の貴金属買取業者でも査定アップが期待できることから、金貨やインゴットなどの金製品を買取に出す人が続出しているのです。
【2021年7月7日追記】田中貴金属工業の金買取価格は、2021年7月7日の時点で6,972円にまで上昇しています。6月には一時7,444円まで買取価格が高騰しました。コロナ禍が長引いていることで経済への不透明感が広がり、安定資産の金を買う動きが続いているものと見られます。
自分で採ってきた砂金は買取できる?
現在では操業しているところも少なくなりましたが、日本はかつて世界でも有数の金産出国でした。全国各地には今でも金の鉱脈が残されているため、風化によって川に流れ出した砂金が発見されています。金の相場がこれほど高騰しているとなれば、自分で砂金を採ってきて一儲けしようと考える人も出てきて当然です。
しかしながら自然の川や体験施設で採れたような砂金の大半は、銀などの不純物が多く含まれて純度が低くなっています。ナゲットと呼ばれるような大きい金塊でも発見しない限り、普通に換金しようとしても高値では売れません。むしろ砂金には熱心なコレクターが存在するため、ネットオークションなどに出品した方が高く売れる可能性があります。
砂金採りで収入を得る方法については、以下の記事で詳しく解説しておきました。
悪質な貴金属買取業者には要注意
金相場は1980年以降20年ほどの間は低迷していましたが、その後は長期的な上昇傾向が続いてきました。金買取は極めて収益性の高いビジネスモデルとなり、近年は21世紀のゴールドラッシュとも言える状況です。
ここ10年ほどの間で貴金属買取業者が急増しているのも、金の価値がそれだけ跳ね上がっているという経済的な背景があります。金買取の実績がなかったベンチャー企業の参入が相次ぎ、訪問買取や出張買取などの手法を駆使して金製品を買いあさるようになりました。
貴金属の買取は最低限のノウハウを勉強するだけで簡単に開業できる面があり、店舗を持たない営業方式なら開業資金もそれほどかかりません。家々のタンスやクローゼットに眠っている金製品を発掘して安く買い取れば、高値で転売することで効率よく収益が得られるようになるのです。
貴金属買取業者がこれだけ増えてくると、中には詐欺まがいのやり方で金やプラチナ製品を騙し取るような悪徳業者も出てきます。電話で手当たりしだいに営業をかけて不用品を買い取るなどと話を持ちかけ、相手の自宅を訪問して貴金属類を安値で強引に買い取ろうとするのが悪徳業者の典型的な手口です。
リーマンショック以降にこうした押し買いと呼ばれる被害が相次いだことから、現在では訪問買取に対してもクーリングオフが適用されるようになりました。特定商取引法が改正された結果、8日以内なら押し買いされた貴金属類も返品を請求できるようになったのです。
こうした悪質な貴金属買取業者の多くは所在地や代表者が定かでなく、連絡先の電話番号も携帯電話の番号になっているという共通した特徴が見られます。金の買取に必要な古物商許可番号がHPに記載されているかどうかという点も、悪質業者を見分けるポイントの1つです。
金買取価格の高騰は今後も続く?
以上のように金の買取市場は空前とも言うべき活況を呈していますが、本当に今が売り時なのかどうかという点に関しては慎重な意見もあります。金相場の高騰が今後も続くのであれば、史上最高値がさらに更新される可能性が出てくるのです。
コロナ禍は収束が見通せない状況で、世界では感染が拡大し続けています。日本では経済との両立を図ろうとする方向に舵を切りつつあるとは言え、本格的な第二波第三波が襲来すれば経済へのさらなるダメージは避けられません。
仮に日本での感染状況が落ち着きを取り戻したとしても、不安定な世界情勢が続くようだと投資マネーは冷え込んでしまいます。世界経済が大きく減速する中では株式市場への投資はリスクが大きすぎため、資産がゼロになることがない安定資産の金へと資金が流れるのではないかと予想されるのです。
コロナショックで金が売られる動きも
今回のように世界経済が危機に直面した場合でも、金相場が必ず高騰するとは限りません。2008年に世界を揺るがしたリーマンショックの際には、一時的ながら金相場が大きく下落した出来事もありました。想定外の事態に直面して世界中の投資家がパニックに陥り、手持ちの金資産を売却して現金を確保しようという動きに出たのです。
金は普遍的な価値を持つ安定資産とは言え、そのままでは煮ても焼いても食えません。生命の危険さえ感じさせるほど深刻な事態に直面すると、人間というのはなかば本能的に現金を手元に残そうとするのが普通です。
今回のコロナ禍においても世界的な危機が明らかになった当初には、同じような金相場の急落現象が見られました。世界的な感染拡大が長期化するにつれて金を買い戻す動きが見られるようになりましたが、相場下落は投資家の動向だけが原因ではありません。
容易に溶かして加工し直すことができる金はリサイクルの世界的な仕組みが確立されており、金相場もそうしたグローバルな流通を前提に上昇傾向が続いてきた面があります。それが新型コロナウイルスの感染拡大で世界の主要都市がロックダウンを断行し、金をリサイクルする流れがストップするという事態に陥りました。一時的に金の需要が低迷した影響もあって、相場の急落につながったと考えられます。
コロナ禍収束後に予想される金相場
このように新型コロナウイルスの影響で金相場は乱高下しましたが、今後は再び上昇傾向に転じると予想されます。どう見ても今回のコロナ禍が短期間で収束するとは考えにくく、世界経済への影響が長引くことは避けられそうにありません。短期的に見れば金相場の一時的な下落も起こり得ますが、年単位では上昇傾向が続くと見るのが妥当です。
新型コロナウイルスのワクチンと治療薬が行きわたり、ある程度の集団免疫が確立されれば、現在のような混乱も落ち着いてくると予想されます。世界の経済が再び回り出すとともに投資マインドも回復し、金市場に流出していた資金は株式市場に戻ってくるはずです。
【結論】投資が目的なら金相場の見極めは慎重に
以上に解説したような事情から歴史的な高水準にある金相場も、現在の高値がいつまでも続くとは限りません。かと言って今の水準がピークとも限らず、新型コロナウイルスの感染状況によってはさらに高騰する可能性も秘めています。
コロナ禍の行く末がどうなるのかは誰も正確には予測できないだけに、今後の金相場は先行きが不透明です。投資を目的として金製品の買取を考えている人は、金相場の動向しだいでは損をする可能性も残されています。
今すぐに金製品を現金に換えたいという人にとっては、そうした世界情勢を考慮している余裕もありません。もう少し待てばもっと高値で売れる可能性もあるとは言え、現在の相場でも十分に高水準です。今が売り時かどうかという点に関しては、今すぐ金を売って現金に換えたいという必要性があるかどうかにかかっていると言えます。
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