コロナ禍でエッセンシャルワーカーが敬意を集めた理由を経験者が検証

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2020年に猛威をふるった新型コロナウイルスと関連して、耳慣れないカタカナ言葉の新語が数多く登場しました。テレワークやパンデミックなどの用語はコロナ以前から存在しましたが、コロナ禍で新たに使われるようになった英語由来の言葉も少なくありません。ソーシャルディスタンスやクラスター、ステイホーム、ロックダウンなどと並ぶコロナ用語として注目されたのが、「社会的に必要不可欠な仕事に携わる労働者」を意味するエッセンシャルワーカーです。

緊急事態宣言で在宅勤務や営業自粛が求められた中でもエッセンシャルワーカーは仕事を休めず、人々の健康や生活を守るためにリスクを冒して働き続けなければならなりませんでした。閉塞感が広がる中で医療従事者などのエッセンシャルワーカーを称える声が世界各地で起こり、感謝のメッセージが相次いだのは記憶に新しいところです。

仕事というものに対する考え方を改めるきっかけにもなったコロナ禍を通して、エッセンシャルワーカーと呼ばれる仕事の必要性が再認識されました。筆者もかつてスーパーの従業員として働いた経験があり、エッセンシャルワーカーを内側から見る視点の持ち主でもあります。今後の待遇改善も考えられるエッセンシャルワーカーの存在意義について、経験者の観点から考察してみました。

【2021年6月28日追記】エッセンシャルワーカーの反対語について、情報を追加しました。

コロナ禍で注目されたエッセンシャルワーカーとは?

そもそもエッセンシャルワーカーという言葉は、アメリカやイギリスなど英語圏の国で使われていた言い回しです。新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけにさまざまな関連語が海外から輸入された中で、エッセンシャルワーカーも日本で使われるようになったのです。新型コロナ関連の報道ではそうしたカタカナ言葉が多用されて混乱を招いている面もあるだけに、日本語を大切にしたいと考えている識者の中にはそうした風潮を苦々しく思っている人も少なくありません。

日本語としての是非はともかくとして、エッセンシャルワーカーの概念そのものは学ぶべき点も多いものです。英語でessentialとは「絶対必要な」「欠くことのできない」という意味を持つ言葉で、ワーカー(労働者)と組み合わさることで「必要不可欠な労働者」という意味になります。

実際には社会生活の維持に必要な職業であっても、緊急事態宣言下でテレワークが可能だった職種はエッセンシャルワーカーの対象外と見なされました。したがってエッセンシャルワーカーとは在宅勤務が困難で、なおかつ社会生活の維持に欠かすことのできない仕事に就いている人たちを意味します。

エッセンシャルワーカーの反対語は?

英語でessentialの反対語は、「non」がついた「nonessential」です。nonessentialには「非本質的な」「不必要な」という意味があります。つまりエッセンシャルワーカーの反対語は、「本質的でない仕事に従事する労働者」を意味する「ノンエッセンシャルワーカー」です。観光業や娯楽施設・飲食サービス業など、コロナ禍で不要不急と言われた業種に従事する人々が該当します。
ノンエッセンシャルワーカーだからと言って、「不必要な仕事」というわけではありません。観光や娯楽も人々の心を豊かにくれるという点で立派な仕事ですが、必要最低限の生活を維持するのに欠かせない仕事ではないため、ノンエッセンシャルワーカーに分類されてしまうのです。

エッセンシャルワーカーと呼ばれる業種の特徴

具体的にエッセンシャルワーカーの範疇に属する職業には医療や介護の従事者だけでなく、スーパーやコンビニ・ドラッグストアなどの従業員も含まれます。宅配・物流・交通機関・ライフライン関係の仕事に携わる人や、農業・漁業など第一次産業の担い手も人々の生活を維持するのに欠かせない存在です。さらには警察や消防を含めた公務員全体もエッセンシャルワーカーに入るという考え方があり、定義があいまいな面も見受けられます。

広い意味での公職が世の中の秩序を維持するのに必要な仕事なのは確かですが、一部の公務員の間ではテレワークも実施されていました。エッセンシャルワーカーに敬意を表する声が起こった背景には、在宅勤務が困難なために感染リスクを冒して勤務を続けなければならなかった点もあります。

スーパーやドラッグストアなどと同様に食料品や医薬品・日用品を販売していても、通販サイトの運営者はエッセンシャルワーカーに該当しないと見るのが一般的な考え方です。通販の商品を注文客の自宅まで届ける宅配業者の配達員は、感染リスクにさらされる点から見てもエッセンシャルワーカーに該当します。

食料品や医薬品以外の商品を販売する店は同じ小売業でも「不要不急」と判断され、百貨店やアパレルショップなどで営業自粛が相次いだのは記憶に新しいところです。スーパーなどと同じように食べる物を対面で提供する店であっても、飲食店は緊急事態宣言下で営業自粛の対象とされて休業を余儀なくされました。したがって飲食店の従業員もエッセンシャルワーカーではないと見なされますが、これはあくまでも感染防止の観点から見た分類です。

一口に飲食店と言っても安くておいしい料理を提供する大衆食堂のような店もあれば、緊急事態宣言下では悪者にされがちだった「接客を伴う飲食店」もあります。デリバリーを利用した料理宅配やテイクアウトに活路を見出した店もありましたが、緊急事態下での「生活の維持」には外食が含まれませんでした。

それまで外食に頼っていた客層の多くが自宅での調理に転じたため、スーパー来店客が急増して従業員の負担増につながった面も否定できません。それまでは外食と内食に分散していた需要に極端な不均衡が生じ、手軽に食べられるインスタント食品の品切れが続出しました。新型コロナウイルスの感染が急速に拡大された中では医療崩壊の危機も懸念されましたが、人々の食を担う業界でも同じような崩壊の恐れがあったのです。

歴史から読み解くエッセンシャルワーカー

すべての職種に対するエッセンシャルワーカーの割合は50%ほどを占めると見られますが、これでも生産性の向上によって以前より割合が少なくなった結果です。自給自足の経済が当たり前だった時代は大半の人がエッセンシャルワーカーで、貴族などごく一部の特権階級だけがその上に君臨していました。

江戸時代の日本には士農工商の身分制度があり、食料を生産する農民は武士階級に次いで身分が高かったという事実は日本史の教科書にも書かれています。職人や商人より農民の方が上と見られていたのも、エッセンシャルワーカーとしての重要性が認識されていた証拠です。

当時は今よりも食料自給率がはるかに高く、人口を支えるだけの米を生産するのに広大な農地を必要としていました。現在では東京一極集中が進んだ影響もあって地方が衰退してしまいましたが、昭和の時代には今よりも地方の経済に独立性がありました。そうやって日本列島の隅々にまで人が住むようになったのも、米や雑穀などの農作物を栽培する土地を求めてご先祖様たちが農地を開拓していった結果です。

全国各地に土着した人々から何代も経た子孫の代になると、必ずしもその土地に住み続ける必要はなくなってきます。米の生産性が大幅に向上した上に海外から輸入する食料の比率も増え、エッセンシャルワーカーとしての農民は以前ほど人数が必要とされなくなったのです。

社会の分業化が進んでさまざまな職業が成立し、自分で食料を生産しなくても世の中を便利にするための仕事をしながら生活を維持できるようになりました。そうした中でも食料品を販売する店の従業員や配達員・医療従事者などは、人々の社会生活を維持するために今なお必要とされる職業です。

生活水準が向上するごとに新たなエッセンシャルワーカーが次々と生み出され、「誰かがやらなければならない仕事」として人々の生活を支えることになります。その中には物流関係やエネルギー関係など江戸時代に存在しなかった職種も含まれますが、高度に発達した現在の生活水準を維持するには必要不可欠の仕事です。

エッセンシャルワーカーとして働く意義とは?

コロナ禍にあってはあらゆる仕事が大きく3種類に分けられ、感染拡大を防ぐためにそれぞれ違った対応を迫られました。IT職や事務職などテレワークが可能な職種はいろいろと不便を強いられながらも、在宅勤務に移行することで感染リスクを避けられます。観光業やエンタメ業界の仕事、飲食店の従業員などはイベント中止・営業自粛の影響をもろに受け、働きたくても働けない状況に追い込まれました。

そうした中でエッセンシャルワーカーだけは感染リスクにさらされながらも働き続けなければならず、最も損な役回りを演じていた面があります。スーパーやドラッグストアの従業員と医療従事者がエッセンシャルワーカーとして一括りにされ、同じリスクを背負う仕事として語られることになろうとは、2019年までの時点では誰もが想像しませんでした。

そうしたリスクが明らかになった今後もエッセンシャルワーカーとして働き続けるには、人々の生活を維持するのに欠かせない仕事に対する誇りを持つ必要があります。医師や警察官・消防士・運転士などは子供がなりたい職業ランキングでも男子の上位に入る人気の仕事だけに、そうした自負心も持ちやすいものです。女子のランキングでも医師や看護師・薬剤師が上位に入っており、医療従事者の根強い人気ぶりが窺えます。

スーパーやドラッグストアの従業員は憧れの職業になりにくい仕事ですが、今回のコロナ禍を通じて存在意義が認知されたのは明るい材料です。筆者もかつてスーパー従業員として働いていた時期には、食を通じて地域の人々に貢献しようという自覚がありました。同僚たちの間もそういう意識を持って働いていた人が多く、自分たちは市民の台所を担っているのだという誇りが仕事の支えとなっていたのです。

スーパーやコンビニ・ドラッグストアの従業員は誰にでもできる仕事だと思いがちですが、そうした一種の責任感を持てない人はすぐに辞めてしまう傾向も見られます。医療職や介護職なども含めたエッセンシャルワーカーの仕事を続けるには、人々の生活を維持するのに必要不可欠の役割を担っているのだという意識が欠かせません。スーパーやドラッグストアの従業員などは賃金の水準が決して高くありませんでしたが、仕事の重要性が再認識された今後は待遇が改善される可能性もあります。

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自粛の対象にならない職種への転職

逆にコロナ禍で仕事を失ったり、営業自粛やイベント中止の影響で収入が大きく減ってしまったりした人の中には、もっと安定した仕事に転職しようという動きも見られます。2019年までの世界がいつまでも続くと思っていた中で思いもよらなぬ緊急事態に直面し、多くの人が戸惑っているのが現状です。1つの職業を選んでスキルを身につけるには長い期間を要するのが普通で、コロナ禍で世の中の様相が一変したからと言って簡単には生き方を変えられません。

今回のコロナ禍は100年に一度のパンデミックとも言われ、ほとんどの人は経験したことのない事態に直面しています。自粛の対象とされてしまった職業の中には、100年前にスペイン風邪が大流行した後で生み出された仕事も少なくありません。そういう職業は今回のような事態をほとんど想定していなかったために、唐突に営業自粛を求められて大混乱に陥ったのです。

テレワークやリモート出演などでうまく対応できた仕事はまだ恵まれている方で、それができない仕事は死活問題に直面しました。ノンエッセンシャルワーカーと呼ばれる仕事を生活の糧としている人は今後に備え、日頃から対策を講じておく必要があります。

エッセンシャルワーカーのように自粛の対象とならない仕事に転職するというのも1つの手ですが、医師や看護師などは誰でも簡単になれるわけではありません。エッセンシャルワーカーの中でも転職が比較的しやすいのは、スーパーやドラッグストアなど求人の多い店舗の従業員です。仕事に必要な免許や資格を持っていれば、配達業や介護職という選択肢もあります。

今までの仕事に未練があって転職には踏み切れないという人でも、いざというときに収入減のピンチを救う副業の手段を確保しておけば心強いものです。ウーバーイーツ配達員やクラウドソーシングといった副業の手段は、緊急事態下でも貴重な収入源として重宝されました。今後を見据えて副業を始める際には、テレワークやエッセンシャルワーカーと関連性のある仕事を選ぶのが賢明です。

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不要不急と判断された仕事の存在意義

緊急事態宣言下では政府からも不要不急の外出を控えるように通達があり、多くの人がこれに従いました。同時に営業自粛の対象とされた飲食業や娯楽業・観光業などは、不要不急産業と判定されたも同然です。それらの業種で仕事に携わっていた人にとっては、自分がこれまで取り組んできた仕事の意義が問われる形となりました。

産業構造から見れば食料品生産・流通と物流・ライフライン維持・医療・介護・行政など、エッセンシャルワーカーが担い手となる業種が社会の基盤となっているのも事実です。家電や鉄鋼・化学製品など製造業の仕事がその上に乗っかり、テレワークが可能だったオフィス業務がその上に位置して社会生活を制御しています。

最低限の生活を維持するのに必須ではないと判断されて自粛の対象とされてしまった業種は、そうした産業構造の中でも辺縁に位置すると見なされてきました。それらの業種はエッセンシャルワーカーに十分な人員が確保されていて、ライフラインも守られているという前提の上で初めて成り立つ仕事なのです。

もしも世の中が大きな災厄に襲われてエッセンシャルワーカーが人員不足に陥った場合には、他の業種から人員を補填しないと社会が回らなくなります。コロナ禍が一段落して元の日常が戻ってきたら、不要不急と判断されていた仕事にも需要が回復されるはずです。

緊急時には営業自粛が求められるような仕事でも職業として成り立ってきたのは、ある意味で豊かさの象徴でもあります。不要不急産業と判断されてしまった仕事をしている人でも、自分たちは世の中を豊かにする役割を担っているのだという誇りを持つことは可能です。平時に人々を楽しませてくれる職業が存在しなければ、エッセンシャルワーカーにとっても味気ない世の中になってしまいます。

エッセンシャルワーカーに関する考察まとめ

世の中に存在する職業は人々の生活を豊かにする役割を担う仕事と、必要最低限の生活を維持するために欠かせない仕事に大きく分かれます。緊急事態宣言が発令されるような非常時には、人々の生活を豊かにする仕事はどうしても軽視されがちです。コロナ禍がもたらしたさまざまな危機の中でも、このような仕事の分断は人々の間に不公平感を与えました。

求人検索エンジンのIndeedによる求人動向推移に関する調査では、スーパー・コンビニ・ドラッグストアの3業種や物流関係で仕事の検索数が2020年4月以降に急増しています。営業自粛の対象とされて仕事を失った人が安定して稼げる仕事を求めた結果と見られますが、エッセンシャルワーカーの重要性が再認識された点も反映されているはずです。

パンデミックのような非常時には仕事に対する意識が大きく変わり、エッセンシャルワーカーを志す人が増えるのが自然の成り行きだと言えます。自粛の対象とされた職業でも、平時にはエッセンシャルワーカーと別の意味で重要な役割を果たしてきました。アフターコロナの時代にどちらの職業を選ぶべきなのか、コロナ禍は仕事というものの意義について考え直すきっかけを与えてくれた出来事だと言えます。

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