養殖業と言えばタイやブリ・ウナギのような食用魚を想像しがちですが、錦鯉や金魚・メダカのような観賞魚も盛んに養殖されています。中でも錦鯉は高値で売れる可能性があるため、養殖業は一攫千金の夢があるビジネスです。
日本で開発された錦鯉が高値で取引されている理由について、養殖ビジネスを開業する方法と合わせて基礎知識をまとめてみました。錦鯉の養殖業で稼げる金額の目安や費用についても、品評会やオークションの情報とともに記事の後半で詳しく解説します。
錦鯉の養殖ビジネスが儲かる理由
日本庭園のある豪邸の池には、優雅に泳ぎ回る色鮮やかな錦鯉が似合います。高度経済成長期には富裕層の象徴として、錦鯉を池で飼うのが一大ブームとなりました。バブル崩壊後は錦鯉のブームも一段落しましたが、近年は中国や東南アジアなど海外富裕層の間で人気を集めています。
現在は第2の錦鯉ブームとも言えるほどの活況で、養殖の対象は第1次ブームの頃と違って輸出向けが中心です。色ツヤや模様・大きさなどに優れた錦鯉は人気が高く、1,000万円以上の高値で取引されています。錦鯉を養殖するにはある程度の初期投資やランニングコストも必要ですが、高く売れれば費用を大きく上回るような高収益を稼ぐことも可能です。
錦鯉の養殖業者は家族経営の例も少なくないだけに、高齢化や後継者不足が問題となっています。世界的に見れば売上を大きく伸ばすチャンスのある成長産業でありながら、養殖業の担い手は決して多いとは言えません。拡大する需要に対して供給が追いついていないことから、錦鯉の取引価格が高騰してる面もあるのです。
すでに飽和状態の市場に新規参入するのと違って、錦鯉の養殖ビジネスにはまだまだ開拓の余地があります。海外の富裕層が持つ潤沢なマネーを背景としたビジネスだけに、新規参入者にも稼ぐチャンスが十分に与えられている状況です。
錦鯉は新潟県発祥?
新潟県の小千谷市や旧山古志村では農家の副業として、古くから錦鯉の養殖が盛んに行われてきました。冬期間の食用として育てられてきた鯉の中から、突然変異で鮮やかな色をした個体が生まれることもあり得ます。そうした個体を選んで飼育し、品種改良が重ねられた結果、観賞魚としての錦鯉を育てる文化が地域に根付いていったのです。
新潟県は現在でも錦鯉の生産高で日本一を誇り、米と並ぶ輸出品目としても高い市場シェアを維持しています。県内の養鯉場で育てられた錦鯉は、国内外の愛好家に向けて出荷されてきました。
出典:つげ義春「ほんやら洞のべんさん」(小学館文庫『紅い花』所収)
1968年(昭和43年)に書かれたつげ義春の漫画「ほんやら洞のべんさん」は、錦鯉の養殖が盛んな新潟県の魚沼地方を舞台とした作品です。作中で登場人物が養鯉場から錦鯉を盗む場面が描かれ、当時から輸出用の高級錦鯉が10万円の高値で売れている様子が窺えます。今は錦鯉1匹が高級車にも匹敵するほどの高値で取引されているだけに、防犯カメラを設置する養鯉場も出ている状況です。
錦鯉の養殖を副業にする方法
もともとは農家の副業として発展してきた経緯があるだけに、錦鯉の養殖は他に本業の仕事を持っている人でもチャレンジが可能なビジネスです。従業員を雇って法人経営している養鯉場が幅を利かせていますが、本場の新潟県には個人事業主や家族経営の養鯉場も珍しくありません。錦鯉の養殖を副業にする手段は養鯉場で募集している求人を探す方法と、自分で養殖ビジネスを開業する方法の2通りが考えられます。
養鯉場の求人を探す
錦鯉の養殖が盛んな新潟県や広島県を中心として、全国各地には業者が経営する養鯉場がいくつか存在します。業者で募集している求人が見つかれば、錦鯉の養殖を仕事にすることも可能です。
仕事内容としては錦鯉のエサやりや飼育池の清掃など日常的な世話だけでなく、時期が来れば産卵や選別・出荷作業も行います。冬季間は屋内環境で錦鯉を飼育することになるため、鯉を池上げしてハウスに移動させる作業も大切な仕事です。早朝や深夜に出荷作業をするケースや、土日に開催されるイベントに向けて準備や後片付けをするケースもあります。
人手不足の養鯉場も少なくないとは言え、募集されている求人の多くは平日の日中にフルタイムで働く正社員が大半です。錦鯉養殖の仕事そのものがレアな求人という事情もあって、副業の手段にできるような求人はなかなか見つかりません。ある程度の資金が用意できる人であれば、いっそのこと自分で錦鯉の養殖ビジネスを開業するという手もあります。
自分で錦鯉の養殖ビジネスを開業する
もともとは農家が半分道楽のような副業として、錦鯉の養殖を始めたのが起源とされています。養殖池やハウスを整備できるような土地を持っていれば、個人でも同じようにして錦鯉の養殖ビジネスを開業することは可能です。
業者に依頼した場合は、養殖池を作るのに150万円から500万円ほどの費用がかかります。春から秋にかけての季節は池で飼育しますが、気温の下がる冬場はハウスや小屋などの屋内に鯉を移動させて飼うのが一般的です。
近年は小型の錦鯉を水槽で育て、ネットオークションで販売するという新しいスタイルの養殖ビジネスも登場しています。大きく稼ぐには養殖池を使って大型の錦鯉を育てるのが王道ですが、水槽で育てる養殖ビジネスなら副業として始めやすいところがメリットです。
どちらにしても多かれ少なかれ初期費用とエサ代などの運転資金は必要だけに、黒字化するまでにある程度の時間を必要とします。開業資金を回収できるようになれば、以後は錦鯉の販売で得た収益からランニングコストを引いた分が丸々儲けになる仕組みです。
錦鯉を売る方法
手間暇をかけて立派な錦鯉を育て上げたとしても、買ってくれる人がいなければ養殖ビジネスが成り立ちません。養殖ビジネスを成功に導くためには、販路の開拓が重要になってきます。個人的なツテを頼って購入者を見つける方法もありますが、錦鯉を売る一般的な方法は以下の3パターンです。
- 錦鯉の販売店に売る
- 即売会を兼ねた品評会に出品する
- オークションにかける
それぞれ詳しく解説します。
錦鯉の販売店に売る
飼育していた錦鯉の売り先として、誰でも思いつくのは金魚や熱帯魚などの観賞魚を販売している店舗です。全国各地にあるアクアショップの中には、錦鯉の買取が可能な店舗もあります。かねだいなど出張買取に対応した店舗を利用すれば、近くにアクアショップがない場合でも錦鯉の買取が可能です。出張買取を利用するには1匹あたり1万円前後の手数料もかかりますが、自分で業者に持ち込めば手数料を節約できます。
錦鯉を売る他の方法と比べ、販売価格の方はあまり期待できません。店側でも高価な錦鯉を安く仕入れる手段として、個人客からの買取に力を入れている面があります。趣味で飼っていた錦鯉を何らかの理由で手放す目的ならともかく、錦鯉養殖ビジネスの販売手段には不向きな方法です。
品評会に出品する
錦鯉を売る2つ目の方法は、展示即売会を兼ねた品評会への出品です。上位に入賞するほどの高評価を得た錦鯉は、品評会を訪れた愛好家から購入の申し込みを受ける可能性があります。アクアショップなどの店舗に買取してもらうのと比べ、愛好家と直接取引すれば高値で売れやすくなるというわけです。
毎年秋頃を中心に全国各地で錦鯉の品評会が開催されますが、中でも全日本総合錦鯉品評会は世界一の錦鯉を決める大会として、各国の養鯉業者と愛好家が一堂に会します。各部門の優勝者には海外の錦鯉オーナーも名を連ねていますが、日本の養鯉業者が預かって飼育しているケースが大半です。
品評会で入賞しても賞金が出ないのが普通ですので、買い手がつかなければ出品料の分だけ赤字になってしまいます。その代わり購入希望者が出て価格交渉がまとまれば、出品料を回収して十分にお釣りが来るぐらいの収益を残すことも可能です。
品評会で高評価を獲得した錦鯉に対して、数十万円以上の高値がついた例も珍しくありません。錦鯉の価格相場はあってないようなものだけに、金に糸目をつけない愛好家と出会えれば養殖ビジネスの収益も青天井です。
オークションにかける
毎年秋頃を中心に開催される品評会とは別に、全国各地で錦鯉の競り市が行われています。国内の愛好家だけでなく、錦鯉の流通業者や仲買人が海外の顧客から委託されて参加している例も珍しくありません。近年はタイやシンガポール・インドネシアなど、東南アジアの富裕層が流通業者を介して高額で落札するケースが増えています。
海外の富裕層に落札された錦鯉は、必ずしも現地へ輸送されるとは限りません。本場の日本で開催される品評会への入賞を目指して、日本の養鯉場に鯉を預ける人も少なくない状況です。こうした競り市は春先から秋頃にかけて年に数回ほど開催される例が多く、錦鯉を高値で売る方法として利用されています。
品評会では鯉の大きさが重視され、近年は90cm以上でないと上位入賞は難しいと言われているほどです。競り市でオークションにかけられる錦鯉はまだ若い個体が中心で、大きさよりも柄や体型のバランス・色艶とった点を重視して品定めされています。親の系統も加味しながら競りにかけられ、最も高値をつけた人が落札するという仕組みです。
2020年以降はコロナの影響で品評会や競り市が中止になるケースも相次いだせいか、ネットオークションに錦鯉が出品される例も増えています。この記事を書いた時点では、ヤフオクに1,500件近い錦鯉の出品が確認されました。過去180日間に落札された例も17,000件以上を数え、錦鯉の販売方法としてすっかり定着している様子が見て取れます。
落札された錦鯉の最高額は?
海外の富裕層が数多く参加するようになったせいか、錦鯉の有名な競り市では1匹1,000万円以上の高値がつく例も珍しくありません。これまでの最高額とされているのは、広島県のオークション会場で2019年に出た2億300万円という落札の例です。
ちなみにヤフオクで過去180日間に落札された錦鯉の最高額は約70万円、平均額は8,195円(2022年1月9日現在)となっています。70万円で落札された錦鯉は新潟県の養鯉場で養殖されていた3歳のメスで、サイズは61cmでした。
錦鯉の養殖ビジネスはどれだけ儲かる?
実際に錦鯉の養殖ビジネスを始めたとしても、稼げる金額は育てた鯉の品質や経営規模によってかなりの差が出てきます。1,000万円以上の高値で落札されているのは、年間3,000万匹ほど生まれた鯉の中から選ばれた一握りの個体に過ぎません。稚魚から育てる過程で見込みのありそうな個体が選別され、大事に育てられた一部の鯉だけが品評会や競り市の晴れ舞台に立てるというわけです。
1年間の生存保証がついた競り市の場合、落札された鯉が1年間無事に生き延びる必要もあります。いろいろと不確定要素が多いだけに安定した収益を維持するのは難しい面もありますが、一攫千金が狙えるという点が錦鯉養殖ビジネスの最大の魅力です。高値で売れるような鯉を育てられれば、会社員の平均的な年収を上回る収入を稼ぐことも夢ではありません。
錦鯉の養殖には開業資金が平均500万円ほど必要で、運転資金も年間600万円前後かかります。それだけ錦鯉の養殖はお金がかかるビジネスですが、1匹1,000万円以上で売れれば、それらの費用を一気に回収することも可能です。思うように売れないと赤字になるリスクもあるだけに、錦鯉の養殖ビジネスを始めるにはそれなりの覚悟も必要になってきます。
副業で養殖ビジネスにチャレンジするなら、初期費用が錦鯉より安く済むメダカの養殖もおすすめです。メダカも品種改良が進んで観賞魚として人気が高まっているだけに、ヤフオクでは高値で落札される例も出てきています。メダカの養殖については、以下の記事で詳しく解説しておきました。
錦鯉の養殖ビジネスまとめ
日本で古くから愛好されてきた錦鯉も、近年は海外の富裕層に高値で売れる例が増えています。錦鯉の養殖は一攫千金が狙える有望なビジネスですが、個人で開業するとなれば高額の資金も必要です。
自分で育てた鯉を売る方法は販売店への買取と品評会への出品、オークションへの出品という3通りのパターンが考えられます。過去の競り市では2億円の高値がついた例もあるだけに、あらゆる養殖業の中でもトップクラスの収益性が期待できるビジネスです。ある程度の開業資金を用意することが可能で生き物を育てるのが好きな人は、錦鯉の養殖ビジネスにチャンレンジしてみるといいでしょう。