ニンテンドースイッチやプレイステーション5といった人気ゲーム機で、リスティング広告を悪用した偽販売サイトによる被害が相次いでいます。検索結果と連動して表示されるリスティング広告をクリックして移動した先の販売サイトで注文しても、商品が届かないまま業者と連絡が取れなくなって代金を騙し取られてしまうのです。
似たような偽販売サイトはゲーム機以外のジャンルでも確認されていますが、最近はやはり検索連動型広告の悪用が目につきます。偽販売サイトへの誘導にリスティング広告が使われているのはどうしてなのか、ネット広告配信システムの盲点を突いた詐欺の手口について最新情報をまとめてみました。
人気ゲーム機の偽販売サイトが登場
新型コロナウイルスの感染が広がったことで外出を控える人が増え、巣ごもり需要でゲーム業界が活気づいています。発売されたばかりのプレイステーション5(PS5)や、根強い人気を誇るニンテンドースイッチなど、人気ゲーム機は品薄の状態で入手が難しくなってきている状況です。
需要の急増を見込んで転売ヤーの動きも活発化し、メルカリやヤフオクではそれらのゲーム機が市価より高い価格で出品されています。クリスマスシーズンを迎えて品薄状況がさらに深刻化しそうな情勢ですが、少しでも安く手にれたいと思って怪しげなサイトに注文するのは禁物です。
Googleやヤフーで「スイッチ」「PS5」などと検索すると、検索結果と連動して広告が表示されます。通常の検索結果より上に表示されるためどうしても目立ってしまいますが、偽販売サイトに誘導される広告が紛れ込んでいる可能性があるという点には注意が必要です。
実際にリスティング広告と呼ばれる検索連動型広告をクリックし、移動した先の通販サイトでゲーム機を注文しても商品が届かなかったという被害が発生しています。たいていは代金を銀行振込ですでに支払った後で、なかなか届かないのを不審に思って業者に問い合わせようとしても連絡がつきません。
こういうケースではいつまで待っても商品が届かないのが常で、数万円の代金を騙し取られる結果となってしまいます。似たような偽通販サイトによる被害は以前から存在しましたが、最近はリスティング広告を悪用してサイトに誘導する手口が目立つようになりました。
ゲーム機以外の偽販売サイト
リスティング広告を使って偽の販売サイトに誘導する例は、ゲーム機以外にもさまざまなジャンルの商品や店舗で確認されています。Amazonや楽天市場そっくりに作られた偽通販サイトは珍しくありませんが、2020年夏頃には高性能の掃除機で知られる家電メーカーのダイソンで偽通販サイトが確認されました。
決して安くはないダイソン製品を、市価の80%OFFなどという激安価格で販売するように装っているのが偽サイトの特徴です。安さに釣られて注文しても商品が届かなかったり、全然関係のないマフラーのような品が届いたりします。
同じような偽通販サイトはゲーム機や掃除機などの家電製品だけでなく、家具や衣料品のジャンルにも及んでいる状況です。最近発覚した例で見ると、インテリア小売大手のニトリを装った偽通販サイトが複数確認されています。
商品の画像は本物のニトリ通販に掲載されているのと同じ画像を勝手に使用していますが、販売価格が大幅に安くなっているのが特徴です。うっかり信じて注文してしまった人のもとに商品は届かず、代金だけを騙し取られる結果となりました。被害が相次いだのは多くの通販サイトでブラックフライデーのセールが行われた11月下旬が中心だけに、大幅な値引きに対して被害者は不審に思わなかったのです。
他に作業服の小売事業が好調のワークマンでも偽通販サイトが確認されており、同じように極端な低価格で商品が掲載されています。いずれも検索結果と連動して表示された広告が悪用されているのが特徴で、本物と見分けがつきにくくなっているだけに厄介です。
リスティング広告が悪用されている理由
このような偽の通販サイトがネット上に存在していても、訪問者がなければ被害も発生はしないはずです。そのままでは消費者に存在を知られることもありませんが、何らかの形で偽サイトに誘導されてしまうと被害につながります。
偽サイトに誘導するための手口としては、以前は電子メールやSMS(ショートメッセージサービス)にURLを記載する手法が中心でした。最近はTwitterやInstagramなど、SNSに掲載された広告から誘導する手口も増えています。
SNSで流布されている情報の中にはデマも少なくはなく、必ずしも信頼性が高くないとも言われてきました。これに比べるとGoogleやヤフーなどの検索エンジンはガイドラインがしっかりしているため、検索結果も以前よりは信頼できるようになったと言われています。2016年に一大騒動を巻き起こしたWELQ問題をきっかけに検索エンジンのアルゴリズムが大きく変更され、信頼できるサイトの情報が検索上位に表示されるように変わってきているのです。
オーガニック検索と呼ばれる自然検索はそうやって信頼性を取り戻しましたが、検索結果と連動して表示される広告に関してはまだまだ問題があります。リスティング広告は特定のキーワードごとにオークション形式でクリック単価が決定され、広告の品質と入札価格で表示順位が決まる仕組みです。
表示された広告がクリックされると広告料が発生しますが、広告主にとってはオーガニック検索よりも上の目立つ位置に広告を掲載できるメリットがあります。いかにも広告という感じのバナーと違って、普通の検索結果と同じテキストで表示されるためクリックされやすいという点もメリットの1つです。
すでに自然検索の方は詐欺まがいの業者による悪質なサイトが検索上位から排除されているだけに、検索結果に対してはユーザーから一定の信頼が獲得されています。より目立つ位置に表示されるリスティング広告もまた同じような信頼の目で見られやすいため、広告主にとっては他の広告形態より効果的なサイト誘導経路となっているのです。
そんなリスティング広告のメリットが詐欺業者に悪用され、注文しても商品が届かない偽通販サイトへの誘導に使われ始めています。検索エンジンが何年も費やして回復に努めてきた信頼性が、一部の不適切な業者によって再び危ぶまれている状況です。Googleやヤフーもこうした状況を放置するはずがありませんので、今後は何らかの形でリスティング広告の健全化に向けた取り組みが行われるものと見られます。
偽販売サイトに騙されないための対策
リスティング広告はどのような業者でも簡単に出稿できるというわけではなく、事前の審査を通らなければ広告を出すことができません。景品表示法に違反するような表現やポリシー違反があれば審査を通過できないため、実際に検索結果と連動して表示されている広告はいずれもそれらの条件をクリアしているはずです。
それにも関わらず代金を騙し取られるような偽販売サイトが広告に表示されてしまうのは、詐欺業者の手口がそれだけ巧妙化してきている証拠だと言えます。通販サイトで表示が義務付けられている責任者名や住所・電話番号がきちんと掲載されていても、偽サイトの場合は本当なのかどうか知れたものではありません。実際にゲーム機の偽販売サイトに記載されていた住所は、実在する企業の住所を勝手に使った偽の情報でした。
そこまで徹底的に調べないと偽サイトかどうか見破るのが難しくなってきているだけに、騙されないためには相手の上を行くほどの注意力が必要です。こうなった以上は検索結果と同時に表示される「広告」枠の情報を安易に信用せず、「偽サイトかもしれない」と最初から疑ってかかるぐらいの姿勢が求められます。
リスティング広告を出稿している業者の多くは真っ当な会社ですが、純粋な検索結果では必ずしも上位に表示されないからこそ広告を出しているのも事実です。同じ検索結果の画面で並んで表示されているからと言って、リスティング広告とオーガニック検索を同じ判断基準で比較はできません。広告はあくまでも広告と割り切り、参考程度と見ておけば偽サイトに誘導されるリスクも下げられます。
どうしても広告をクリックしたくなった場合には、移動した先のサイト名やURL・運営者情報で別に検索してみるのも1つの対策です。いちいち検索するのは面倒でもありますが、それぐらいやらないとリスティング広告を悪用した偽通販サイトの被害はなかなか防ぎきれません。
実際に購入手続きまで進んだ場合でも、支払い方法が前払いの銀行振込だけというサイトには注意が必要です。振込先が個人名義の口座というのも、まともな通販サイトではまずあり得ません。ニトリやワークマン・ダイソンのような企業の偽通販サイトを見破るには、オーガニック検索で確認できる正規サイトのURLと比べてみるのが一番です。
偽販売サイトの現状まとめ
家電製品などのジャンルで相次いだ偽販売サイトへの誘導経路としては、以上のようにリスティング広告を悪用するのが最近の傾向です。信頼性を取り戻しつつあった検索エンジンも、広告の枠に関してはまだまだ詐欺業者の付け入る隙が残されています。
偽サイトに誘導する手口は年々巧妙化しているだけに、一般ユーザーが見破るのは容易でない状況です。被害に遭った人の多くは、こうした情報を知らないために騙されてしまったものと見られます。リスティング広告本来の目的を理解していれば警戒心も働き、騙される確率を大幅に下げられるはずです。