タイムバンクは著名人や専門家の時間を通貨のように売買できるアプリとして、ITビジネスや投資に関心を持つ人の間で注目の存在でした。堀江貴文氏を始めとするインフルエンサーも多く参加していましたが、現在ではサービスの名称が「レット(Let)」に変更されています。通販アプリやクーポンアプリとしての性格が強くなり、サービス開始当初の特徴だった時間の売買アプリというコンセプトが薄れつつある状況です。
タイムバンクがレットへと名称を変更したのはどうしてなのか、革新的なアプリとして登場したサービスの現状について調べてみました。
(旧)タイムバンクとは?
タイムバンクは時間を通貨や株式のように売り買いする取引所として、2018年にサービスが開始されました。アプリを使って購入できるのは堀江貴文氏や落合陽一氏のような著名人や専門家の時間で、有名スポーツ選手やアーティスト・アイドルの時間も含まれます。時間を購入した人は指定の用途で時間を使用できるだけでなく、株式などと同じように長期間保有することも可能です。
販売される時間は売買の状況によって価格が上下し、トップクラスの有名人は1秒あたり数百円で時間が売り買いされていました。何らかのジャンルに関して専門的な知見やスキルを持つ人なら、タイムバンクで自分の時間を売ることで収入が得られるようになります。
タイムバンク生みの親となったのは、当ブログでも以前に紹介した『お金2.0 新しい経済のルールと生き方』の著者・佐藤航陽氏です。佐藤氏は2018年に株式会社タイムバンクを設立し、同社の代表取締役社長にも就任しました。
タイムチケットとの違い
時間を売り買いするサービスと言えば、「わたしの30分、売りはじめます」のキャッチフレーズでもおなじみのタイムチケットも話題を集めています。タイムバンクとタイムチケットはどちらも「時間」に着目したサービスという点で共通していますが、タイムチケットで販売される時間は出品者自身で金額を決められるのが特徴です。
これに対してタイムバンクは運営会社が販売開始当初の時間価格を設定し、発行後は売買によって「市場価格」が変動します。タイムチケットはココナラのようなスキルシェアサイトに近いサービスで、時間を販売している人も無名の一般人が中心です。
各分野の専門家から芸能人まで多彩な人たちが時間を売り出していたタイムバンクは、時間の取引そのものをビジネスにしようとしたサービスでした。タイムチケットの方がサービスも単純でわかりやすいせいか、現在でも時間の売買という当初の事業設計通りサービスが継続されています。
タイムバンクがレット(Let)に名称を変更
サービス開始から3年目に当たる2020年には、タイムバンクで大きな動きがありました。サービス名から「タイム」のキーワードが消え、レット(Let)という新たな名称への変更に踏み切ったのです。サービス名の変更に伴って、社名も株式会社タイムバンクから株式会社レットへと変更されていました。
一般に広く普及していたサービスであれば名称変更は大きな賭けとなりますが、タイムバンクは現状のサービス実態とサービス名がかけ離れていた面があったのも事実です。時間の売買を行う取引所という当初のコンセプトが薄れ、現在は通販サービスや店舗のクーポンチケット販売へと軸足を移しています。
新たなサービスの認知度を高める目的で採算度外視のキャンペーンを次々と実施したせいか、CMの効果もあってアプリのユーザー数そのものは2019年以降に大きく伸びました。現在はコロナ禍で大量の在庫を抱えた企業の「訳あり商品」を扱うマーケットとして、レットのサービスが紹介されている状況です。「タイムバンク」の名残をとどめたWebメディアのタイムバンク証券によると、サービス名の変更は物販ビジネスとしての事業売却を視野に入れた動きとも見られます。
タイムバンクが名称変更に踏み切った「大人の事情」
名称を変更してまでしてタイムバンク(レット)が時間売買機能をフェードアウトさせようとしているとすれば、さまざまな副業を紹介してきた当ブログとしても少々残念な部分はあります。タイムバンクは佐藤航陽氏が提唱した「お金2.0」の画期的なアイデアを検証する場としてスタートしながら、サービスがうまく浸透しなかった面も否めません。一部のインフルエンサーや専門家には一定の評価を得ても、一般ユーザーにはサービスの仕組みが新しすぎて理解しにくかったのでしょうか?
時間を購入する人がいなくなってしまえば販売していたインフルエンサーも離れていき、サービスそのものが成り立たなくなってしまいます。このままでは事業の存続が危ぶまれるという中で、タイムバンクは時間売買以外のサービスに活路を見いだしてきました。商品が最大99%OFFで購入できるお得なセールや対象商品が50%ポイントバックされるキャンペーンの方が、一般ユーザーにとって魅力的なサービスです。
事業を存続させるためにそうしたわかりやすいセールやキャンペーンに走った結果、サービス名の由来となった時間売買機能は薄れてしまいました。レットへの名称変更はサービス実態と名称の不一致を解消させようというのが名目ですが、新たなサービス名でネガティブなイメージを払拭しようという意図も見え隠れします。
ブロックチェーン技術に支えられた仮想通貨はもちろん、ユーザー同士のつながりに支えられているSNSやフリマアプリも開始当初から順調だったわけではありません。さまざまな試行錯誤を繰り返しながら技術やサービスが改善された結果、現在は多くの人が利用するサービスへと大きく進化を遂げました。イノベーションを起こすには失敗を恐れずに挑戦する意欲も欠かせないだけに、うまくいかなかった場合の引き際も考えておく必要があります。
タイムバンクは単なるサービス終了ではなく名称変更という選択肢を選びましたが、サービス開始当初のコンセプトからすれば、新たなサービスとして再スタートを切ったようなものです。時間の売買という画期的な取り組みは残念ながら断念することになりそうですが、訳あり商品をお得に購入できるアプリとして生まれ変わろうとしています。クーポンチケットの販売に「お金2.0」のアイデアがどう生かされるのか、レットの今後の動向にも注目です。
タイムバンクが名称を変更した理由まとめ
インフルエンサーの時間を株や通貨のように売り買いしたり保有したりできたタイムバンクも、ひっそりと名称変更してレット(Let)に生まれ変わっています。現時点では時間売買機能が完全になくなったわけではありませんが、新名称が象徴するように現在は物販やクーポン販売がサービスの中心です。
「お金2.0」の画期的なコンセプトに基づいてスタートしたタイムバンクの事業も、わかりやすさを求める一般ユーザーには思ったほど浸透しませんでした。ユーザーを取り込むためにはお得なセールやキャンペーンで集客するのが効果的だっただけに、サービスの実態と名称がかけ離れていたのも事実です。
両者を一致させようというのが名称を変更した名目上の理由ですが、その背後には何かとお金がかかる事業の存続に関わる「大人の事情」があります。事業が振るわなくなってマイナスのイメージが定着しつつあった「タイムバンク」の名を捨て、新たなサービス名を掲げた実質的な再スタートと見るのが妥当です。
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