当ブログではペットシッターやブリーダーなど、動物や生き物を扱う仕事をいくつか紹介してきました。日本の伝統的な職業として知られる鷹匠もまた、そうした仕事の1つです。
鷹匠と言えばテレビ番組や各地のイベントにも登場して人気を集めていますが、ほとんどの人は本業でなく副業として活動しているものと見られます。一方でカラスやハト・ムクドリなど、糞害や騒音被害をもたらす鳥を追い払う目的でも鷹匠への依頼が増えている状況です。
害鳥駆除の観点から注目が高まっている鷹匠になるには資格が必要なのかどうか、知られざる職業の実態について徹底調査してみました。鷹匠の仕事で稼げる収入の目安についても、記事の後半で詳しく解説します。
鷹匠とは?
そもそも鷹匠というのは、鷹狩と呼ばれる伝統的な狩猟術の下で成立した職業の1つです。鷹匠と呼ばれる人は鷹狩に使われる鷹の調教を行い、貴族や武士の鷹狩に従事するのが主な役目でした。
伝統猟法としての鷹狩は世界各地に存在しますが、日本では第16代仁徳天皇の時代に行われたのが最古の記録です。戦国時代から江戸時代の頃には武家の間で鷹狩が盛んに行われ、鷹匠は将軍家や大名に仕える職業として確立されました。
Photo by 江戸村のとくぞう(2010年1月2日) / CC BY-SA 4.0
現在に至るまで継承されてきた鷹狩には、大きく分けて2つの系統があります。将軍家や大名の間で広まった鷹狩はオオタカやハヤブサなど中型の猛禽類を使い、カモやキジなど鳥類の獲物を捕獲するレジャーとしての狩猟です。
一般に鷹狩と言えばこちらの系統がイメージされますが、東北地方の山間部に暮らす農民の間で継承されてきた鷹狩の系統も見逃せません。後者の系統の鷹狩はオオタカやハヤブサより大型のクマタカを使うのが特徴で、捕獲する獲物もウサギやタヌキなどの動物が中心です。鷹狩で捕獲した動物の毛皮は高く売れたため、冬期間に収入が途絶える豪雪地帯の農民にとっては貴重な副収入でした。
クマタカを使った鷹狩の系統は昭和の時代に衰退し、現在は山形県在住の松原英俊さんが「最後の鷹匠」と言われている状況です。現代の鷹匠も自分で鷹を飼育するという点では、両系統の伝統的な鷹匠と共通します。動物愛護の関係から鷹狩が難しくなってきている中で、鷹匠も活動の場がイベント出演や害鳥駆除へと大きく様変わりしている状況です。
鷹匠の流派
オオタカやハヤブサなど中型の猛禽類を使う系統の鷹狩は、今もなお伝統が脈々と受け継がれています。現在までに存続している鷹匠の流派は、諏訪流と吉田流という2つの系統です。
諏訪流の鷹匠は鷹を神の化身として敬い、「鷹を主人と見なして仕える」という教えを特徴としています。吉田流は巣立ち前の雛から調教するのを得意としてきた流派ですが、諏訪流は巣立ち後の若鷹を調教するのが得意な流派です。
保存会の活動は諏訪流の方が活発な状況で、年6回の月齢講習会の他にも実演会・講演会を各地で開催しています。諏訪流では鷹狩体験や神社奉納など多彩な委託業務も展開しており、テレビや新聞・雑誌に数多く取り上げられてきました。最近はテレビ番組や各種イベントで鷹匠を目にする機会も増えていますが、その多くは諏訪流の鷹匠と見られます。
鷹匠になるには?
鷹狩の風習は伝統芸能や茶道・華道などと同じように、家元を通じて師匠から弟子へと伝統的な作法や技術が代々伝えられてきました。鷹匠になるには師匠に弟子入りするのが一番の近道ですが、特定の流派に所属せずに独学で鷹を調教することも不可能ではありません。
鷹狩ができる程度にまで鷹を調教できれば師匠につく必要はないとは言え、基本的には人に懐かない鷹を調教するのは至難の業です。普通に弟子入りしても鷹を扱えるようになるには3年以上かかると言われているくらいで、独学ではもっと長い年月を費やすことになるものと予想されます。諏訪流などの流派に門下生として入会し、講習会に参加して師匠の指導を受けるのが確実な方法です。
各流派の門下生になるには、入会金と月謝や講習会の実費など費用が必要になってきます。諏訪流の場合は正会員の入会金が30,000万円で月謝は5,000円、個人の賛助会員は入会金なしの年会費が1口10,000円です。
この他にも自分で鷹を飼うには、ウズラ肉などのエサ代が必要になってきます。飼育小屋を設置するのにある程度の広さを確保した場所も必要なため、集合住宅よりは一戸建て住宅に住んでいる人に向いた仕事です。
鷹匠になるための資格
米国と違って日本には鷹匠の国家資格がなく、民間団体で認定試験を実施しています。鷹匠の民間資格は国家資格と異なり、名称独占資格や業務独占資格ではありません。独学で鷹を調教して鷹狩ができる程度の技術を身につければ、資格を取得しなくても鷹匠を名乗ることは可能です。
普通は独学で鷹を調教するのが難しいことから、ほとんどの人は民間資格を取得した上で鷹匠を名乗っています。鷹狩で生計を立てるのが困難となった今の時代に鷹匠の仕事で収入を得るには、イベント出演や害鳥駆除などの依頼を受ける必要があります。そうなった場合に自称鷹匠では信頼が得られないため、民間団体で認定する資格が役に立ってくるのです。
日本鷹匠協会と日本放鷹協会の認定試験については、現時点で試験実施の情報が確認できませんでした。諏訪流放鷹術保存会では「鷹匠補」「鷹匠」「師範鷹匠」の3種類に分けて、それぞれ認定試験を実施しています。
諏訪流に門下生として入会した当初の会員ランクは、「手明」と呼ばれる立場です。認定試験に合格して手明から鷹匠補に昇格すると、鷹匠を補佐する立場となります。さらに鷹匠の認定試験に合格すれば、諏訪流で一代限りの鷹匠として活動を許される仕組みです。師範鷹匠の認定試験に合格した人は、門下生の指導や支部の開校が許可されます。
鷹匠が仕事を依頼される場面
現代も活動中の鷹匠で、生計を立てる目的で鷹狩を行っている人はほとんどいません。鷹匠が収入を得る手段としては、イベントの出演や害鳥駆除の仕事で得た報酬が中心です。
放鷹術の実演イベントや鷹匠体験・撮影イベントなど、全国各地で開催されるさまざまなイベントで鷹匠への出演依頼があります。この他に幼稚園・保育園・学校での教育活動や介護施設でのアニマルセラピー活動、企業の集客イベントなどで活躍中の鷹匠も少なくありません。それだけ鷹匠というのは珍しい職業で視覚的なインパクトも絶大なだけに、テレビ出演や雑誌の取材なども含めた依頼を受ける可能性も大いにあります。
イベント出演やメディアの取材はエンターテインメント性の強い仕事ですが、鷹匠が収入を得るために行うもう1本の柱は害鳥駆除の仕事です。害虫や害獣駆除を行う企業の中には鷹匠を雇い入れ、効果的な害鳥駆除のサービスを打ち出している会社もあります。そうした依頼を個人で獲得できれば、会社に所属していなくても害鳥対策の仕事で収入を得られるようになります。
鷹が害鳥対策に役立つ理由
鷹匠は時代遅れの職業と見なされがちですが、近年は害鳥駆除の観点で見直されつつあります。特にカラスはゴミ集積場を荒らしたり、糞を撒き散らしたりしする被害が跡を絶ちません。巣の近くではカラスも攻撃的になり、人が襲われる被害が発生しています。
都市部以外でも、カラスにやハトなどの害鳥に畑が荒らされる農業被害が続出している状況です。猛禽類の置物や目玉風船など視覚的な効果を狙ったカラスよけグッズも売られていますが、頭のいいカラスにはすぐに見破られてしまいます。鳥類の中でもカラスは突出して高い知能を持つだけに、光や音・超音波を使った対策も慣れられてしまえば効果が持続しません。
決め手に欠けると言われてきたカラス対策の中で、例外的に高い効果を発揮しているのが鷹を使った鳥害対策です。鷹匠が使うオオタカやハヤブサはカラスにとって天敵となるため、被害に悩まされている場所でそれらの猛禽類を放つだけでカラスを追い払う効果があります。
テレビ東京系で放送された「世にも珍しいお仕事ファイル~それって稼げるの!?」という番組でも、カラスの鳥害対策を行う鷹匠の女性が紹介されました。この女性は父親とともに鳥害対策の会社を立ち上げ、企業や自治体からの依頼に応じて出動している現役の鷹匠です。
農地に群がっていたカラスに向けて鷹匠の女性が鷹を放つと、目にも留まらぬ早業で鷹は1羽のカラスを捕獲してしまいました。許可を得て捕獲しているとのことですが、鷹匠の害鳥対策で実際に捕獲するのは珍しいケースです。
実際に捕獲される場面を見せることで他のカラスに対する絶大な効果を発揮し、「この場所はエサ場ではなく自分たちがエサにされる恐ろしい場所だ」と認識させることに成功します。カラスは賢い鳥ですので、一度そういう恐怖心を植え付けられた場所には寄り付かなくなるというわけです。
鷹匠がカラスを捕獲するのに狩猟免許は必要?
ハシブトガラスやハシボソガラスは鳥獣保護法の対象となっているため、原則として捕獲が禁止されています。いずれも狩猟鳥獣には含まれていますので、自治体の許可を得れば捕獲することも可能です。
鷹狩は銃やワナを使った猟と違って狩猟法の対象ではなく、狩猟免許が不要な自由猟法の1つに数えられます。許可を得た上で猟期や猟区などの規制を守っていれば、鷹を使ってカラスを捕獲することも可能になるというわけです。
カラスを捕獲させずに鷹を飛び回らせるだけでも、鳥害対策には一定の効果を発揮します。数ヶ月から半年にわたって鷹を定期的に放つ必要はありますが、「この場所には天敵の鷹がいる」と学習させれば、カラスよけグッズと違って継続的な効果が期待できるようになります。そうした点が評価された結果、カラスの被害に悩まされている地域で鷹匠が引っ張りだことなっているのです。
大量の群れがねぐらに集まって近くの住民に騒音被害をもたらすムクドリや、マンションに糞害を与えるハトの対策にも鷹は効力を発揮しています。グリーンフィールドやオオヨドコーポレーションなど、鷹匠を使った害鳥対策を行っている会社も少なくありません。
鷹匠の収入はどれくらい?
鳥害対策の会社を立ち上げたという前述の女性は鷹匠の仕事を専業としていますが、ほとんどの鷹匠は副業レベルの収入にとどまるものと推定されます。害鳥対策で需要が高まっているとは言え、鷹を使った駆除活動はまだまだ一般的な認知度が低めの状況です。
イベントへの出演も不定期で安定した収入を得るのは難しいことから、鷹匠を本業の仕事にするのは厳しい面があります。職業としては珍しい部類に入るせいか、鷹匠全体の平均年収について調査したデータは見つかりませんでした。
害鳥対策で鷹匠が出張する場合の料金は、交通別で1回あたり3万円から5万円程度が平均的な相場です。カラス対策で鷹を飛ばす場合は1回だけではカラスが戻ってきてしまうため、3カ月から半年にわたって合計20回から30回ほど飛ばす必要があります。鷹匠を使った害鳥駆除を行うグリーンフィールドの例では、カラス対策1セットの料金が50万円から120万円と紹介されていました。
鷹匠が個人で害鳥の依頼に応じる場合も、これに準じた料金設定にするのが無難です。月にどれくらいの依頼を獲得できるかによって収入が左右されますが、1回3万円の料金設定で月に4回出動すれば12万円稼げる計算となります。この他にイベント出演の依頼もこなしていけば、鷹匠も高収入が稼げる副業の手段となります。
鳥害対策の会社を立ち上げた鷹匠の女性はテレビの取材に対して、月の収入が20万円ほどと明かしていました。鷹以外にもハヤブサやミミズクなど30羽の猛禽類を飼育しているため、エサ代だけでその20万円は消えてしまうという話です。つまり1羽あたりのエサ代は月に1万円弱になる計算ですので、飼育する鷹が1羽だけなら十分な収益が残せることになります。
まとめ
東北地方の山間部でクマタカを使った鷹匠の系統は後継者不足に悩まされ、現在は絶滅寸前の状況です。オオタカやハヤブサなど中型の猛禽類を使う鷹匠の流派は後継者の育成にも積極的で、イベント出演や害鳥駆除に活路を見いだしています。特にカラス対策など害鳥駆除の分野では鳥よけグッズの効果に限界がある中で、生きた鷹を使う絶大な効果が高く評価されてきました。
カラスやハト・ムクドリの被害は都市部でも多発しているだけに、鷹匠ビジネスは副業としても十分に成り立ち得ます。鷹は人になかなか懐かない上に飼育小屋を設置する場所やエサ代も必要で、誰にでも簡単にできる仕事ではありません。生き物が好きで伝統文化を愛する精神の持ち主なら、鷹匠になれるだけの資質があります。この仕事に興味がある人は流派の門下生として入門し、認定試験への合格を目指してみるといいでしょう。