マーケティングに関わる仕事をしていると、レッドオーシャンやブルーオーシャンといった言葉を耳にする機会が増えてきます。端的に言えばレッドオーシャンは競争の激しい既存市場を意味し、ブルーオーシャンは競争のない未開拓市場を意味するマーケティング用語です。
中小企業や個人事業主は強豪がひしめくレッドオーシャン市場で勝ち目がないため、敢えてブルーオーシャン市場を開拓すべきだと言われてきました。困難も予想されるブルーオーシャン市場を開拓すべき理由について、副業ビジネスを例にマーケティング理論を考察してみました。ブルーオーシャンとよく似た概念の「ニッチな市場」に関しても、記事の後半で意味の違いを詳しく解説します。
ブルーオーシャンとは?
オーシャン=oceanとは「大洋」「海洋」を意味する英語で、ブルーオーシャンを詩的に表現すれば「青い大海原」というほどの意味になります。対立する概念のレッドオーシャンは「赤い海」と直訳されますが、マーケティング用語では「血で血を洗うような激しい競争が繰り広げられている市場」を意味する言葉です。これに対してブルーオーシャンはそうした競争とは無縁の市場を意味し、ライバルのいない未開拓市場を示す言葉として使用されてきました。
イメージとしてもレッドオーシャンは多数のライバル同士が激しく戦闘を繰り広げ、海が血で赤く染まった光景が想像されます。これと対照的にブルーオーシャンのイメージとして思い浮かべるのは、どこまでも続く青い海を1隻の船が悠々と航行する姿です。
獲物が多い近海は漁をやりやすいだけにライバルの漁船も多く、すでに魚を獲り尽くされた後に出航しても不漁に終わってしまいます。陸地から遠い沖合の海の方がライバルとなる漁船の数も少なく、うまく魚群を発見できれば大漁になるというわけです。
ブルーオーシャンとブラックオーシャンの違い
このようにブルーオーシャンはレッドオーシャンの対立概念として使われていますが、より正確に定義すれば「ライバルが少ないために価格競争が起きにくい市場」ということになります。まったくの未開拓市場でライバルが皆無の場合には、光の届かな深海を意味する「ブラックオーシャン」と呼ぶのが適切です。
ブラックオーシャンは既存の市場と隔絶されていますが、ブルーオーシャンは既存市場から完全に独立しているわけではありません。レッドオーシャンとはつながった状態にあるため、市場価値が認められるようになればブルーオーシャンもレッドオーシャン化する可能性があります。特許などの理由で他の企業の参入が困難な独占市場を形成しているブラックオーシャンと比べ、ブルーオーシャンはライバル他社が価値に気づいていないために未開拓となっている市場です。
社員の平均年収が2千万円を超えることで知られる株式会社キーエンスは、自動制御機器やセンサー機器の分野でライバルがほとんど存在しない独占状態にあります。ブラックオーシャン市場を掌握していて価格競争にさらされていないために、収益性が高く社員の平均年収が国内1位を独走し続けているのです。ブルーオーシャン市場の事例としては、1000円カットの先駆けとなったQBハウスや任天堂のゲーム機Wiiなどがよく挙げられます。
弱者はレッドオーシャンを避けるべき理由
以上は企業の手がける事業の例でしたが、個人が副業を行う場合でもレッドオーシャンやブルーオーシャンは収入に深く関わってきます。コンビニや飲食店のバイトで稼ぐような副業なら働いた時間に応じて決められた金額の給料がもらえるため、ライバルとの競争を意識することはありません。YouTuberやアフィリエイトなどビジネスの要素がある副業に取り組もうとする場合には、常に競合相手の存在を意識する必要があります。
すでにYouTubeそのものがレッドオーシャンと化していて新規参入者には稼ぎにくい状況ですが、中でも「やってみた」系や歌・ダンス系の動画は飽和状態です。人気の動画ジャンルはどれも強豪がひしめく状況にあり、今から新規参入しても再生回数やチャンネル登録数を増やしていくのは容易でありません。
ブログや商品紹介サイトに広告を掲載して稼ぐアフィリエイトも同様で、検索ボリュームが多く報酬の単価が高いジャンルは激戦区と化している状況です。むしろYouTuberや所属事務所が募集する動画編集の仕事や、アフィリエーターが募集する記事ライティングの仕事をクラウドソーシングで受注した方が、副業として確実性の高い稼ぎ方だと言えます。それらの仕事募集も報酬単価の高い案件は争奪戦の様相を呈しており、激しい競争にさらされるという点ではレッドオーシャンと変わりありません。
ライバルの数と需要との関係
従の立場で報酬を受け取る立場ならまだしも、自分が主となって副業ビジネスを切り拓いていく場合は相応のリスクを背負うことになります。ライバルとの競争に敗れた場合は収入が0になるリスクもあるだけに、よほどの勝算がない限りはレッドオーシャン市場を避けるのが無難です。
もちろんそういう市場には大きな需要があって、収益性も高いからこそレッドオーシャンと化しているのだと言えます。レッドオーシャンと化してる市場には表面的な収益性の高さに釣られ、「自分も同じように稼ぎたい」と安易に参入する人が跡を絶ちません。ライバル勢が目を向けようとしないブルーオーシャン市場は一見すると需要がないように見えるため、参入してもほとんど稼げないのではないかと思いがちです。
本当に稼げないからこそブルーオーシャン状態となっている市場も少なくはありませんが、すべての未開拓市場が稼げないというわけではありません。大手企業や強豪ライバルほどそういうリスクのある市場を避けようとする傾向が強いだけに、ライバルとの競争では劣勢を強いられる弱者はそういう市場にも目を向ける必要があります。一定の需要はありながらライバルが不在のブルーオーシャン市場を発見できれば、当面は激しい競争で消耗することなく、効率的に稼げるようになるというわけです。
ブルーオーシャンはニッチな市場?
競争相手の少ない市場を意味するブルーオーシャンに似た概念として、マーケティング担当者がよく口にする「ニッチな市場」が挙げられます。この場合の「ニッチ」とフランス語に由来する言葉で、もともとは装飾品などを飾る壁の隙間を意味する建築用語でした。
哺乳類が恐竜の全盛時代を生き延びたような生物学的戦略を意味する言葉としても使われてきましたが、マーケティング用語としての「ニッチ」は規模の小さい隙間産業を意味します。富裕層向けの高級品やオタク向けの萌え商品などは、ニッチ市場の典型的な例です。
真空管ラジオや爬虫類の剥製といったマニアックな趣味の領域でも、「こんなものを欲しがる人がいるのか」と驚くような商品に需要があります。メルカリやヤフオク!にはどんぐりや貝殻からレコード・掛軸に至るまでさまざまな出品が見られ、ほとんど無数とも言えるニッチ市場が形成されている状況です。
ブルーオーシャンとニッチ市場の違い
こうしたニッチな市場を対象とするのは物販ビジネスだけでなく、代行業やスキルシェアなどサービス提供で稼ぐ副業ビジネスにも及びます。同じ代行業でも家事代行や運転代行などはライバルも多くレッドオーシャン化していますが、謝罪代行や遺品整理代行・お遍路代行などは隠れた需要が期待できるニッチな分野です。
ココナラやストアカに代表されるスキルシェアサービスでも、占いやイラスト作成・料理教室・ヨガ教室などはライバルがひしめいています。その一方ではスキルシェアの需要も多様化している中で、サービス出品者が少ないニッチなジャンルもまだまだ多く残されている状況です。
これらのニッチなジャンルも一種のブルーオーシャン市場だと言えますが、レッドオーシャンでしのぎを削る強豪がこうした規模の小さい市場に着目する可能性は低いと見られます。ニッチなジャンルはすでに開拓されている小規模の市場を意味するのと違い、ブルーオーシャンは将来的にレッドオーシャンに転じる可能性も秘めた未開拓の市場です。
ブルーオーシャン市場と先行者利益
今をときめくYouTubeやココナラもサービス開始当初はユーザー数が少なく、動画投稿やサービス提供を行うライバルは決して多くはない状況でした。ブルーオーシャンの状態だった時期にいち早く参入し、ビジネスモデルの成長に大きく貢献してきた先行者が現在も優位に立っている状況です。
同じようにユーザー数が増加傾向でありながらライバルがまだ少ない新規サービスを発見できれば、激しい競争で消耗することなく先行者利益が得られます。その気になれば世の中の隠れた需要に着目し、自分自身でそうしたブルーオーシャン市場を生み出すことも不可能ではありません。
ブルーオーシャン戦略の有効性
ココナラやメルカリのような既存サービスを利用する形でも、意外な需要のあるブルーオーシャン市場を自分で作り出すことは可能です。強豪は何よりも効率性を重視するだけにニッチな市場は無視しがちで、すべての商品ジャンルやサービスの領域をカバーしているわけではありません。強者が見落としている隙間にこそ、弱者が入り込む余地があるというわけです。
どんなに小さな市場でも自分がパイオニアになれば、その道の第一人者として先行者利益が得られるようになります。いずれ強豪にも目をつけられてレッドオーシャンと化する可能性もあるとは言え、ライバルが着目するようになれば市場として見込みがあるという証拠です。
こうしたブルーオーシャン戦略は大手企業でも新規事業開発で実践されていますが、副業ビジネスに取り組む個人こそ身につけたい戦略だと言えます。実際に新参者でもココナラのスキル販売やメルカリ転売で成功している人は、ライバルの少ないジャンルを狙って出品している人が大半です。
まずは狭いながらもライバルの少ない市場で実績を積み重ね、評価が高まってきたところで広い市場に打って出るという戦略も考えられます。同様の戦術はYouTubeやアフィリエイトでも効力を発揮しますので、ライバル対策に消耗している人は視点を変えてみるといいでしょう。
ブルーオーシャン市場を開拓すべき理由まとめ
ライバルの少ない未開拓市場を意味するブルーオーシャンは、強敵がひしめくレッドオーシャンほど大きな需要を持つ市場ではありません。それだけに強豪からは見落とされがちで、弱者でも生き残れる可能性がある有望な市場です。
マニアックな需要を満たす形で細々と成り立っているニッチな市場と違って、ブルーオーシャンはいずれレッドオーシャンと化する可能性もあります。市場価値が広く知られるようになればライバルも次々に参入してくると予想されるだけに、そうなる前に先行者利益を得くのが弱者の知恵です。
大手企業も採用しているブルーオーシャン戦略を身につければ、個人の副業レベルでも成功の確率が上がります。レッドオーシャンの波に飲み込まれるよりは、ブルーオーシャンに退避した方が生き残れる可能性が出てくるのです。