家庭菜園やガーデニングを趣味にしていると、取れた種を売ってお金に換えられればいいな、などと思ってしまいます。実際にメルカリやヤフオクには野菜や花の種が数多く出品されていますが、知識がないまま出品した場合は違法になりかねない点に注意が必要です。
種苗法が改正されたことで「自家増殖で種を作るのは禁止」などという不正確な情報が流れ、農家の間でも混乱が生じてます。本当のところはどうなのか、メルカリで種を売って収入を得ようという場合に知っておきたい基礎知識をまとめてみました。
メルカリで種を販売するのは違法?
改正種苗法が2021年4月に施行されたことで、種の販売が制限されるようになっています。これまでは個人でも野菜や花を栽培して種を採取し、メルカリやヤフオクで販売するのに支障はありませんでした。種の販売は趣味と実益を兼ねた副業にもなり得るところでしたが、法律が改正されたことで違法になるケースも出てきています。
登録品種の種を自家採取して販売する際には、その品種を開発した育成者の許可が必要です。許可を得ないで登録品種の種をネットオークションなどに出品し、種苗法違反で逮捕される事例も相次いでいます。
自家採取した種の販売が無条件でNGというわけではなく、違法の対象となるのはあくまでも登録品種の話です。品種登録されていない一般品種や在来種・固定種であれば、従来通り自家採取した種でもメルカリやヤフオクに出品して販売できます。
詳しくは種苗法の改正について(農林水産省)をご覧ください。
種苗法が改正された理由
種苗法が改正された背景には、日本で開発された野菜や果物などの品種が海外に流出しているという深刻な問題がありました。海外に持ち出された種を使って栽培された低品質な農作物が、安価に輸入されて市場に悪影響を及ぼしています。ブドウの高級品種「シャインマスカット」や、イチゴの人気品種「とちおとめ」などがその代表的な例です。
品種開発には多大なコストがかかっているため、海外に種が流出してしまうと大きな経済的損失を被ってしまいます。こうした事態を未然に防ぐ目的で種苗法が改正され、野菜や果物などの登録品種は原則として自家増殖が禁止されることになったのです。
登録品種と一般品種の違い
漫画や音楽・映画などの作品には著作権が存在するため、作品を販売する際には著作権者に使用料を支払うのが当然です。特許が認められた技術についても同様に、その技術を使用して製品を作る際にはライセンスを持つ権利者に使用料を払わなければなりません。植物の新品種も法律上は知的財産権の1つとして扱われるため、品種登録は著作権や特許の植物版とも言える制度です。
現在市場に出回っている農作物や園芸植物のすべてが品種登録されているわけではなく、野菜に関しては全品種の9%にとどまります。登録されていない一般品種に関しては、種の採取も販売も禁止されていません。育成者の権利が保護されているかどうかという点が、両者を比較した場合の最大の違いです。品種登録迅速化総合電子化システムで検索すれば、自分の栽培している植物が登録品種に当たるかどうかが判別できます。
自家採取した種を販売する方法
種苗法改正に伴う混乱の中で、「農作物の種を採取する行為はすべて禁止」というような誤解が生じています。不可になるケースが出ているのも事実ですが、その対象はあくまでも登録品種だけの話です。
品種登録されていない植物の種であれば、メルカリやヤフオクに出品しても法律に違反しません。自家採取で販売できる種には以下のような種類がありますので、それぞれの概要を解説します。
固定種
Photo by Togabi(2017) / CC BY-SA 4.0
野菜や果物などの農産物には登録品種と一般品種という違いの他に、F1種と固定種の違いもあります。スーパーの野菜売り場で大半を占めるほど栽培の主流となっているF1種は、生育期間や形状などが均一に揃いやすく収量も多いという点がメリットです。
ホームセンターなどで売られている種の大半はF1種で、家庭菜園でも1回に限って同じメリットを享受できるようになります。これはメンデルの遺伝法則によって、雑種第一代は優性の遺伝子が反映された種ができる仕組みを利用した栽培方法です。F1種はコピー不可の状態で売られているDVDソフトのようなもので、種を採取しても二代目以降には同じ形質が受け継がれません。
これに対して固定種の方は、農家が栽培と自家採種を繰り返しながら改良してきた品種です。優れた形質を受け継いだ種だけを取捨選択した結果、栽培の再現性が高まって固定化されてきます。固定種であれば種の採取も意味がありますので、品種登録されていない限りは市場価値のある商品です。
在来種
Photo by Jason7825(2007) / CC BY-SA 3.0
固定種はF1種よりも環境への適応能力が高く、その土地の気候や風土に適した伝統野菜として長く栽培されてきました。在来種の代表的な伝統野菜としては、鹿児島県原産の桜島大根や長野県原産の野沢菜などが挙げられます。
在来種の大半は品種登録されていないため、許可を得なくても自家採取した種の販売が可能なケースは少なくありません。中には在来種を改良して品種登録している例もありますので、ブランド化された伝統野菜の種を自家採取して販売する際には登録状況の確認をおすすめします。品種登録されていない伝統野菜の種は種苗店や通販サイトでも扱っていないケースが多いだけに、メルカリやヤフオクに出品して希少価値をアピールする販売方法も可能です。
登録から25年(または30年)以上が過ぎた登録品種
著作権物や特許と同じように、品種登録にも保護期間に限りがあります。著作権の保護期間は著作者の死後70年まで、特許は出願の日から20年です。登録品種の保護期間は木本性の植物で登録から30年、それ以外の植物は25年となっています。この期間が過ぎれば著作権や特許が切れた場合と同じように、登録品種であっても自家採取した種の販売が可能です。
品種登録迅速化総合電子化システムで検索したデータには、「育成者権の消滅日」も記載されています。この欄に過去の日付が記載されている品種であれば、許可を得なくても登録品種を利用するのに法的な問題はありません。
品種登録されている種を販売する方法
品種登録されている植物であっても、自分で栽培して採取した種を絶対に販売できないというわけではありません。育成者権の許可を得れていば、登録品種から採取した種苗を販売することも可能です。
品種登録迅速化総合電子化システムの検索データには、出願した育成者権者名も記載されています。育成者と連絡が取れる場合は、自家採取した種の販売許可が得られるように交渉してみるといいでしょう。必ずしも交渉が成立するとは限りませんが、首尾よく許可が得られれば種の販売に向けて大きく前進します。
メルカリなどを通じて登録品種の種を販売する際には登録名で出品し、育成者の許可を得て販売している点を明記するのがポイントです。登録品種である点をアピールすれば種の販売にも有利になってきますが、許可を得て販売する場合は使用料を徴収される可能性もあります。出品の際にはそのへんも計算に入れた価格設定が必要です。
種を売る副業は儲かる?
メルカリではアスパラガスやキャベツ・トマト・ソラマメなど、さまざまな種類の野菜の種が出品されています。数十粒から100粒で数百円程度が価格の平均相場です。通販サイトと比べて割安感があるせいか、個人が自家採取した種でも完売している例が多く見られます。
果樹や園芸植物は種よりも苗または苗木の形で出品されている例が多く、数千円という高めの価格設定でも「SOLD」となってる例は少なくありません。野菜の種は単価が全般に低めだけに収益性はそれほど高くありませんが、余った種でお小遣い稼ぎができると考えれば十分な金額だと言えます。
種は苗や苗木と比べて軽量でかさばらないため、「植物種子等郵便物」として安価な第四種郵便の利用が可能です。事前に許可を得るか、または中身がわかるように梱包する必要もありますが、50g以内の植物種子等郵便物なら73円で発送できます。
メルカリで野菜の種を300円で販売した場合は、送料と手数料を引いても200円前後の収益が残る計算です。ヤフオクでは野菜や花の種が100円未満での落札例も珍しくありませんが、四種郵便の送料73円は落札者の負担という例が多くなっています。
いずれも大量の種を自家採取して数多く出品すれば、種の販売で月に1万円以上稼ぐこともできない話ではありません。それだけ大量の種を採取するにはある程度のスペースが必要で、栽培にもかなりの手間がかかるはずです。ここまで来ると家庭菜園も趣味の範囲を超え、副業のレベルになってきます。
まとめ
種の販売は何かと法律が関わってくるだけに、個人が副業の手段とするにはハードルが高めというイメージもあります。登録品種の種を自家採取して販売するには育成者の許可が必要ですが、品種登録されていない一般品種なら許可を得なくても販売は可能です。
実際にメルカリやヤフオクでは個人対個人で種の売買が行われ、余った種をお金に換える手段が確立されています。品種登録されていない植物の種を登録品種と偽って販売するのでない限り、メルカリで一般品種の種を売る分には違法になりません。かつて品種登録されていた野菜や果樹・花の種・苗木であっても、育成者権が切れている場合は自家採種した上での販売も可能です。
種の販売で得た収益を副業レベルまで高めるのはなかなか大変ですが、家庭菜園やガーデニングを趣味としている人のお小遣い稼ぎにはなり得ます。余った種の処分方法に困っている人は登録品種でないかどうかを確認した上で、種を欲しいという人への販売を検討してみるといいでしょう。
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