スーパーやコンビニ・百貨店などの小売業に従事する人は来店客と日々接するのが仕事のため、時としてクレームに対応しなければならない場面も出てきます。飲食店やサービス業でも接客を担当する人はクレーム客に当たる可能性がありますが、相手の剣幕に押されてうまく対応できかなったために「この仕事をやめたい」という人は少なくありません。そんな人でもクレーム対応のノウハウを知っていれば、必要以上に精神的なダメージを受けずに済みます。
仕事をする上で避けては通れないクレーム対応は接客業だけでなく、営業やエンジニア・役所の窓口のような職種にも役立つ心理テクニックです。多くの企業がクレームに対処する中で確立されてきた対応のコツについて、小売業界で店長の経験がある筆者が解説します。この記事を読めば嫌で嫌で仕方がないと思っていたクレーム対応の見方が変わり、ポジティブに捉え直すことができるようになります。
クレーム対応を丸く収めるコツ
接客を伴う仕事をしている人にとって、さまざまな理由で苦情を持ち込んでくるクレーム客は厄介な存在です。クレーム対応に時間を取られて本来の業務が停滞してしまうだけでなく、激しい罵声を浴びたりしては精神的にも参ってしまいます。一刻も早くこの場を逃れたいばかりについつい言い訳じみた言葉を返してしまいがちですが、「そういう決まりですから」「私は担当でないもので」などと相手の怒りを倍増させかねない言葉はNGです。
百貨店業界などの大手企業ではこうした場合のクレーム対応マニュアルがしっかりと確立されており、末端の従業員にまで対応手順が徹底されています。クレーム対応がうまくできずに悩んでいる人の多くは会社で対応マニュアルが確立されておらず、従業員に100%の負担がかかっているという証拠です。会社が頼りにならない場合は、自分で自分の身を守る自衛策を身につけておく必要があります。
今はインターネットで検索すれば関連する情報が多くヒットし、大手企業の実践しているクレーム対応マニュアルの概要を知ることも可能な時代です。会社によって対応マニュアルには微妙な違いもありますが、基本的な流れはある程度共通しています。
クレームを受けたらたとえ自分自身に非がなくてもまず謝り、何らかの理由で傷ついている相手の心情に共感と理解を示すのが基本です。次に相手の話をよく聞いてどういう状況なのか正確に把握し、問題解決に向けて何をするべきなのかを熟考します。その上で最善の解決策を提案するのがクレーム対応の大まかな流れですが、自分1人の力では相手が納得できないようであれば上司にバトンタッチするなどの対処も必要です。
自分自身に非がなくてもまずは謝る
クレーム対応で基本中の基本となるのが、決して言い訳はせずにまずは謝るという姿勢を示すことです。この場合の謝罪というのは、必ずしも自社(または店舗)の非を無条件で最初から認めるという意味ではありません。
まだ状況がよくわからないうちから謝ってしまうと、非を認めたと捉えられて後々厄介なことになる場合もあります。以前はクレーム対応マニュアルとして最初から「謝らない」とされていた時期もありましたが、それは訴訟沙汰になった場合に不利になりかねないというのが主な理由でした。
とは言えどのような理由であっても相手が苦情を申し立ててきたからには、商品やサービスに関連して何らかの不満を抱いているのは確かです。相手の単純な勘違いだったり、自社の責任外の部分にクレームの原因があったりする場合でも、クレーム客が不満を持ってしまったという事実は動かせません。
このようなケースで最初の対応に当たる人は相手のそうした不満を重く受け止め、心情を理解してあげる必要があります。大手企業のクレーム対応マニュアルでよくある声かけの例では、「ご不便をおかけして申し訳ございません」「お時間を取らせてしまいまして申し訳ございません」といった表現が使われています。
たとえコンビニや飲食店のアルバイトであっても、クレーム客にとっては店の一員には変わりありません。一従業員に過ぎない自分自身には何の責任がないクレームであっても、店(または会社)の代表になったつもりでまごころをこめて謝れば、相手の第一印象もだいぶ違ってきます。そういうクレーム対応マニュアルを知らずに言い訳めいた言葉を口にした人は、相手を余計に怒らせてしまって話をこじれさせる結果を招いているのです。
責任者を呼ばずに丸く収めるのが理想
たいていのクレーム客は最初に一言謝った程度では怒りが収まらず、さらに攻撃的な言葉を「これでもか」とばかりに浴びせかけてきます。運悪くクレーム対応の役目に当たってしまった人はここが我慢のしどころで、最低でも3分は相手の言い分にひたすら耳を傾けなければなりません。
それもただ黙って相手の話を聞いていればいいというわけではなく、「はい」「ごもっともです」などと随所に適度な相づちを入れる必要もあります。相手の主張に対して理解の態度を示すには、「○○は□□なのですね」と復唱してみるのも効果的です。そうやってクレーム客の話に耳を傾けながら頭をフル回転させ、自分の持つ知識を総動員して問題の解決策を考えます。
その場で提案した解決策に相手が納得してもらうのが理想ですが、そうはなかなか収まらないのがクレーム対応の難しいところです。自分1人の力では問題が解決できないようであれば、クレーム対応の経験が豊富な社員なり上司なりに引き継ぐ必要が出てきます。
その場合でも相手に同じ話を繰り返させないように、バトンタッチした同僚や上司にヒアリング内容をしっかりと伝えるのがクレーム対応のコツです。話を聞く際には相手の許可を得た上でメモを取り、事実確認で食い違いが生じないように配慮する必要もあります。
クレーム客の怒りを鎮める魔法の言葉
クレーム対応ではちょっとした一言が原因で相手を余計に怒らせてしまい、丸く収まるものも収まらなくなってしまうことがよくあります。不祥事を起こした企業や有名人の謝罪会見でも言葉の選び方を間違えたばかりに世間の反発を招き、火に油を注ぐ結果となった例は珍しくありません。それだけ謝罪やクレーム対応は難しいという事実を示す例ですが、逆に見ると言葉というのはたった一言でも流れを大きく変える魔法のような力を持っていると言えます。
謝罪会見でかえって炎上を招くような例が見られるのは、不用意に口をついた一言に本心が表れてしまうというのが最大の原因です。どれだけ着飾った言葉で形だけ心にもないお詫びを口にしたところで、よほど注意して話さない限り言葉の節々に無意識が反映されてしまいます。聞く人もそういった一言には敏感に反応し、「反省が感じられない」「相手をなめている」と受け取られてしまうのです。
クレーム対応でも同じような言葉の難しさがありますので、苦情を申し立てている相手に対しては本心から共感しながら寄り添う姿勢を示す必要があります。頭から湯気を出すくらいに怒り狂っていた相手を、たった一言でおとなしくさせる「魔法の言葉」があるというわけではありません。一言一言では効果が限定的でも、続けざまに繰り出すことで少しずつ効いてくるのが心理的効果というものです。
以下に挙げるような言葉は相手を尊重する姿勢を示すと同時に、自尊心を満足させるという意味でクレーム対応マニュアルに使われやすい文言です。
- 「恐れ入ります」
- 「もしよろしければ、ご事情をお聞かせください」
- 「お待たせして申し訳ございません」
- 「お役に立ちませんで、誠に申し訳ございませんでした」
- 「貴重なご意見、ありがとうございました」
- 「お勉強になりました」
- 「今後の改善に役立てていきたいと思います」
こうした言葉を上手に使い分けながら話を聞いていれば、たいていのクレーム客は10分かそこら不満をぶちまけたところで冷静さを取り戻すはずです。それでも収まらない場合はクレームの原因となった商品やサービスでよほどの損害が生じているか、または別の目的でクレームを申し立ていると考えられます。
クレーム客にも大きく分けて2種類がある
以上のようなマニュアル通りの対応が通用するのは、通常のクレーム客に限った話です。クレーム客にも大きく分けて2種類があり、悪質クレーマーと呼ばれる人にはまた違った対応が必要になってきます。普通のクレーム客は苦情そのものが目的ですが、モンスタークレーマーの異名も持つ悪質な客の目的は金品の要求にほかなりません。それも自分から要求したのでは恐喝罪に問われかねないため、威圧的な言動を繰り返しながら商品券や現金などを引き出そうとするのが特徴です。
そんな悪質クレーマーの中にも、最初は本当にただ苦情を訴えたかっただけという人がいるかもしれません。最初に対応した店が金品を使って安易に事を収めようとしたばかりに味をしめ、以後も同様の手口でクレーム行為を繰り返すようになったという可能性があります。
土下座を強要したり偽のクレームをでっち上げたりするような例も含め、悪質と判断されるようなクレーマーに対しては毅然とした態度が必要です。自分では手に負えないと感じたら躊躇せずに店長などの責任者を呼び、法に触れる行為があった場合には警察に通報してもらうことになります。
人間としての成長にもつながるクレーム対応
運悪く悪質クレーマーに当たってしまった場合は厄介なことになりますが、大半のクレーム客は純粋に店(会社)の商品やサービスに対する不満を訴えてきた人たちです。世の中には店や会社に対する不満を抱いていながら、クレーム電話ひとつよこさずに我慢している人も少なくありません。「ゴキブリを1匹見たら100匹いると思え」とよく言われるように、クレームが1件あったらその背後に隠れたクレームが100件潜んでいる可能性があります。
店や会社にしてみればクレームを表に出さないで不満を抱えたまま、「あそこの商品はもう二度と買わない」と思っている人ほど怖い存在はありません。口は悪くてもクレームを直接言ってよこす人の方が、店(会社)にとってはありがたいお客様なのです。
実際にクレームをきっかけとして会社の問題点が明らかとなり、改善につながったという例は数え切れないほどあります。最近では不満買取などという風変わりなサービスも登場し、今まで表に出てこなかった消費者の不満を積極的に知ろうとする動きが企業の間にも広がりつつあるほどです。
自分の所属する店や会社にとって逆にプラスとなり得るクレームは、対応に当たる従業員自身にとっても人間としての成長につながる仕事です。クレーム対応を専門とするコールセンターや社内部署でない限りは、そう頻繁にクレーム対応の仕事を体験できるわけではありません。だいたいは不意をつかれる形でクレーム客に当たってしまうものですが、そんな場合でも「災難だ」と思うのではなく、「人間としての成長につながるチャンスを得た」と前向きに考えれば受け止め方も違ってくるものです。
自分ひとりの力でクレームを解決できればもちろん、上司や先輩社員へと上手に引き継いだ場合でも、初期対応としては十分に役割を果たせたと言えます。クレーム対応の前と後では対人スキルにも変化が生じ、困難を乗り越えたことでコミュニケーション能力も向上しているはずです。
クレーム対応の基礎知識まとめ
小売業や飲食業・サービス業のような接客を伴う業界でなくても、顧客との取引を行う限りはどの業種でもクレーム対応は避けられません。最近はカスタマーサポート業務をコールセンター業者に外部委託する企業も増えているように、クレーム対応は精神的なストレスが大きい仕事です。
当ブログを運営するYAMATOも小売店の店長時代はクレーム対応がストレスとなって、一時は夜間にひとりで居残っている最中に突然鳴り出す外線電話に恐怖を覚えるほどでした。当時は今のようにクレーム対応のコツをインターネットで簡単に検索できる時代ではなく、会社の側でも対応マニュアルが完備されていなかったのです。
クレーム対応には心理学に基づいた法則というものがあるだけに、マニュアルを知っているのといないのではストレスの度合いが大きく違ってきます。中にはマニュアル通りの対応が通用しないような悪質クレーマーも存在しますが、従業員同士でチームを組んで対処すれば撃退することも可能です。
通常のクレーム客に対しては共感の意を示しながら誠意を持って対応に当たり、最後は「感謝」の気持ちを伝えることでたいていのケースは丸く収まります。言葉は時として相手を傷つける凶器になってしまう一方で、上手に使えば怒りの発作を鎮める特効薬としても作用するのです。
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