害虫駆除は依頼件数が多く求人数も豊富なため、手っ取り早く生活費を稼げる仕事の1つに数えられます。募集されている求人の多くは「未経験可」となっていますが、害虫駆除の仕事は「きつい」という声も少なくありません。経験者の中には、「仕事がきついわりに給料が安い」と言っている人も見られる状況です。
実際にどれだけ大変な仕事なのか、害虫駆除の仕事が激務の理由について解説します。高額の料金がスタッフの給料に必ずしも反映されていない理由については、記事の後半で詳しく検証してみました。
害虫駆除の仕事はどれだけきつい?
「害虫駆除」は飲食店などの事業所や一般の住宅から依頼を受けて、ゴキブリやシロアリ・スズメバチなどの害虫を退治する仕事です。すでに発生した害虫を駆除する場合もあれば、害虫が侵入しないように防除の作業を施す場合もあります。
害虫駆除の対象は昆虫や節足動物だけでなく、ネズミやハクビシン・ハトなどの害獣・害鳥が含まれるケースも珍しくありません。要は住宅や店舗・施設に害をなす生き物の退治を引き受ける仕事ですが、数の上では昆虫類を対象とした害虫駆除の依頼件数が最も多いのが現状です。
誰もやりたがらない作業を依頼主に代わって引き受けるのが役目だけに、仕事のきつさ加減は容易に想像できます。虫が苦手な人にとっては「絶対ムリ」というレベルの仕事ですが、それほど苦手でない人にとっても害虫駆除はかなりの重労働です。自宅の台所にゴキブリが1匹出たと言って、殺虫剤を噴射して退治するのとはわけが違います。
わざわざ高い料金を払ってまでして業者に駆除を依頼してくるのは、自力では駆除が困難なほど害虫の被害が深刻なケースが大半です。たいていは害虫が大発生している状況で、業者の側でも業務用の強力な薬剤や専門の道具を使っての徹底した対策が求められます。
この仕事に向いている人なら何度も作業を経験することで体が慣れ、それほどきついと感じなくなる可能性もないではありません。それも程度の問題で、作業の難易度は依頼先の被害状況によっても大きく変わってくるのが普通です。何十件何百件と依頼をこなしていく中では、この道何年のベテランですら悲鳴をあげたくなるほど過酷な案件に遭遇する場合もあり得ます。
仕事に対する慣れの程度によっても、「きつい」と感じる感覚は異なります。害虫駆除の仕事に不慣れな人にとっては、肉体的にも精神的にもハードな仕事だという点は覚悟しておいた方がいいでしょう。
害虫駆除の仕事が激務の理由
害虫駆除の対象となる生き物は体が小さいだけに、家屋のちょっとした隙間から侵入したり、床下や天井裏のような場所に潜んでいたりします。駆除や防除の作業を行う際にはそういう侵入ルートを特定した上で、薬剤散布などの対策をすることになります。
床下など狭い場所に入り込んでの作業も少なくないだけに、大柄な人や体格の良い人には不利な仕事です。閉所恐怖症の人はもちろんのこと、そうでない人にとっても狭い場所での作業には肉体的な苦痛を伴う可能性があります。そういう場所は決して清潔とは言えないのが普通ですので、衛生的でない環境が過度に苦手な人には不向きな仕事です。
特にシロアリの駆除は床下への施工が欠かせないため、場合によっては床板を剥がしたりする作業が加わります。そうなるとかなりの力仕事になりますので、体力に自信がない人にとってはきつい仕事です。
筆者の自宅も築数十年の古い日本家屋とあって、何年か前にシロアリの被害が発生したことがありました。このときは業者に依頼せず自分で床板を剥がし、市販の薬剤を散布して自己解決したものです。シロアリの駆除そのものの作業よりも、床板を剥がして新しい板と張り替える作業の方が重労働でした。
業者に依頼したとしても、雇われたスタッフの人が同じ苦労をさせられたはずです。散布する薬剤も業者は市販の製品より効果の高い業務用を使用していますが、どちらにしても体にいいはずがありません。自分自身に健康被害が生じないようにするには、万全の装備を整えた上で薬剤の散布を行う必要があります。
蜂の巣駆除もかなりの激務
住宅の軒下などに作られたスズメバチの巣を除去する作業は、テレビ番組でもよく取り上げられる害虫駆除の華です。スズメバチハンターと呼ばれる名人の技に憧れて害虫駆除の仕事に興味を持つ人も少なくありませんが、実際にやってみると決して楽な仕事ではありません。
依頼の多いスズメバチやアシナガバチは攻撃性の高い昆虫だけに、巣の駆除にもそれなりの危険が伴います。高所での作業は転落の危険がある上に、蜂を刺激してしまうと防護服を着ていても刺される可能性があるからです。狭い天井裏に入り込んで蜂の巣駆除を行う場合には、床下での作業と同じ苦労が予想されます。
駆除の効果を最大限に発揮するため、作業は働き蜂が巣に戻った夜間を狙って決行するのが一般的です。飲食店やオフィスビルから寄せられる害虫駆除の依頼も、営業時間外の夜間を指定してくる例が多くなっています。夜勤のシフトを選べば会社員の副業にもなり得る仕事ですが、働く時間が不規則になりがちな点も害虫駆除が激務と言われる理由の1つです。
害虫駆除に向いている人
害虫駆除は以上のような大変さがある仕事ですが、スタッフの誰もが同じようにきつい思いをしているとは限りません。向いていない人がこの仕事をした場合、適性がある人と比べて仕事が余計に「きつい」と感じられてしまいます。逆に害虫駆除に向いている人の場合、仕事に慣れさえすればそれほど「きつい」と感じないようになるのが普通です。
以下のような条件に当てはまる人は、害虫駆除の仕事に適性があります。
- 小柄で細身の人
- 高所恐怖症や閉所恐怖症でない人
- 不衛生な場所や虫に対する耐性が高い人
- 昆虫など生き物の習性に興味がある人
- 観察力が鋭くて細かいところにもよく気がつく人
- 体力にはある程度の自信がある人
- 車の運転が苦にならず、狭い道路を通り抜けるのが得意な人
- 夜勤も含めた不規則な勤務を厭わない人
- デスクワークよりも体を動かす仕事の方が好きな人
すべての条件を兼ね備えた人は多くないかもしれませんが、半分以上当てはまる人は害虫駆除の仕事にも適応できる可能性があります。
ただし(2)や(3)のように、1つでも「絶対ダメ」という項目があればこの仕事は地獄です。たまたま自分の苦手な場面に遭遇しないで済んだ案件に当たったとしても、害虫駆除の仕事をしている限りいつかは遭遇することになります。
体力の面で自信がないという人は、他の条件がOKでも仕事がきついと感じられる可能性が大です。害虫駆除の仕事を長く続けようと思えば、作業に耐えられるだけの体力を身につけるしかありません。
害虫駆除の仕事は本当に儲かる?
害虫駆除の仕事について解説した情報の中には、きつい仕事のわりに給料が安いという点を強調している記事もあります。そのわりに害虫駆除業者を利用する側の立場になってみると、料金の見積額は決して安いとは言えません。
これだけ高い料金を取っているのなら、害虫駆除業者はさぞ儲かっているのだろうと想像するのが普通の金銭感覚です。イメージとは裏腹に作業スタッフの給料が安いとなれば、害虫駆除業者が不当に儲けているのではないかと疑ってしまいます。
実際には害虫駆除のビジネスも何かと経費のかかる事業だけに、すべての業者が儲かっているとは限りません。特にシロアリ駆除のサービスは住宅の床下に工事を行うケースも多く、事業を行うには高額の開業資金が必要になると予想されます。
多くの依頼をこなすことで初期費用を回収できるようになりますが、開業の際には収支がプラスになるまでの期間をまかなう運転資金の準備も必要です。開業資金を回収するまでの期間を長く設定すればするほど、用意すべき運転資金の金額も増えてしまいます。
開業資金に余裕がない業者は資金を早く回収しようと焦るあまり、駆除の料金を相場よりも高額に設定しがちです。強引な営業手法で仕事を獲得しようとする業者が増えてくると、業界のイメージダウンにもつながりかねません。
害虫駆除は誰もがやりたがらない仕事だけに、社会の中で一定の需要が期待できるビジネスです。社会的貢献度の高い仕事ではありますが、開業資金が高額になりがちな事情もあって、料金の高騰を招いている面もあります。そうした点が曲解された結果、「害虫駆除は儲かる」というイメージが広まったというわけです。
害虫駆除の仕事の平均年収
実際に害虫駆除の仕事をしている人の平均年収は、正社員の場合で約350万円です。求人検索エンジンのIndeed (インディード)と求人ボックスで害虫駆除スタッフの平均年収を公開していますが、どちらも似たような数字でした。正社員と2人1組になって害虫駆除の作業を行う例の多いアルバイトやパート従業員の場合、時給の平均相場は約950円です。
会社員全体の平均年収は400万円を上回りますので、害虫駆除の平均年収350万円というのは決して高い数字とは言えません。アルバイト・パートの平均時給も全国平均は1,000円を上回る状況だけに、害虫駆除は平均より低めの水準です。
害虫駆除ビジネスの開業費用
以上の数字は害虫駆除会社の従業員として雇用された場合の話で、独立開業した場合はこの限りではありません。ある程度の開業資金は必要になりますが、自分で集客して害虫駆除サービスを展開すれば、雇用されるより稼げる可能性もあります。
害虫駆除業界でも大手のダスキンでフランチャイズに加盟した場合、加盟金や研修費・資材代などを含めた初期費用は総合店で約337万円、ペストコントロール専門店で約151万円です。この他に売上の10%がロイヤリティとして売上から引かれ、広告分担金や業務システム使用料・損害賠償保険など月々のランニングコストもかかります。
フランチャイズに加盟せず害虫駆除業者として開業することも可能ですが、その場合は集客の苦労も予想されます。インターネット経由で集客するにはHPを開設した上で、「害虫駆除 地域名」などのキーワードで検索連動型広告を出稿して誘導するのが常套手段です。検索連動型のリスティング広告は入札によってクリック単価が決まる仕組みだけに、ライバルの多い激戦区キーワードの「害虫駆除」は広告費用も高額になると予想されます。
フランチャイズに加盟する場合でも、加盟せずに広告で集客する場合でも、害虫駆除は何かとお金のかかるビジネスです。それらの経費が料金に転嫁されているために、「害虫駆除業者は儲かる」と思われている部分があります。
本当に儲かっているのであれば、害虫駆除業者に雇われている従業員の給料も平均より高いはずです。現実には平均よりむしろ低めの水準ですので、大きく儲けている業者は一部にとどまるとも推察されます。
害虫駆除の仕事にやりがいはある?
害虫駆除の仕事はきついわりに給料が平均より低めで、「害虫駆除の仕事は儲かる」と言われるイメージとは必ずしも一致しません。開業資金が高額になりがちな業界だけに、害虫駆除ビジネスは収益が出るまでに時間がかかります。そういう事情もあって人件費が低めに抑えられているわけですが、社会的な貢献度という面ではやりがいのある仕事です。
飲食店や病院のような事業所はもちろん、一般の住宅からも「不快な害虫を駆除してほしい」という依頼は跡を絶ちません。仕事がきついわりに給料が安いからと言って害虫駆除の仕事をする人がいなくなってしまったら、多くの人が途方に暮れてしまいます。
仕事がきついと感じられるかどうかは、気持ちの持ちようによっても大きく左右されます。「困っている人たちのために奉仕する」という意識を持てるかどうかが、仕事を長続きできるかどうかの分かれ目になりそうです。
まとめ
害虫駆除の仕事は何かと体力を使う場面が多く、狭い場所に入り込んでの作業や高所作業を強いられることもあります。あまり衛生的な環境とは言えない場所での作業が増えるだけに、体力面だけでなく精神面でも「きつい」と感じがちな仕事です。使用する薬剤の取り扱いにも細心の注意が必要で、場合によっては真夏に防護服を着て作業を行うことも考えられます。
害虫駆除は肉体的・精神的苦痛を伴う仕事のわりに給料が高い業種とは言えませんが、人の役に立つという点では誇りにできる仕事です。依頼主から感謝の言葉をかけられることも多い害虫駆除の仕事には、作業のきつさ加減や給料だけでは測れない価値があります。そういう価値観をどうしても持てないという人は、他の業種への転職も検討してみるといいでしょう。